0146 アーサー100番との出会い

 ガルドとラピーダを登録してから2・3日経った頃だった。

ミッションをこなして組合からの帰り道だ。

いよいよ数日後にはゴーレム大会が開催されるので、俺たちはその事を話しながら家路についていた。

今日のミッションは早めに終わったので、まだ日は高い。

もう一つくらいミッションをしても良かったのだが、ちょっと帰り道に魔法協会に寄ってエトワールさんに調子を聞いてみようと思ったのだ。


その組合の帰りにミルキィが突然通りにいた男に抱きつかれた!


「お願いだ!俺を仲間にしてくれ!

いや、してください!」

「え?」


まさにいきなりだった。

俺は当然その男を強引に引き剥がす。

男と言っても、見た感じでは俺より多少年長の16・7歳の少年だ。


「お前!何してやがる!」


しかし、この男は必死でミルキィに抱きつく、いや、頼み込んでいるのか?


「うるさい!お前なんかに頼んでいない!

俺はこの一級の人に頼んでいるんだ!」

「あの・・・私はその方の奴隷なので・・・」

「え?」


その男はミルキィに言われて改めてマジマジとミルキィを見る、

そして奴隷の首輪をしているのを見ると驚いたようだ。

その後で俺に謝り始める。


「あ、その・・・すまない・・・」


だが当然、そう簡単に俺は許さない。


「すまないじゃないだろう!

お前、俺の大切なミルキィにいきなり抱きつきやがって!

事と次第によっては消し炭にするぞ!」


メディシナーでもそうだったが、俺の怒りの沸点はエレノアとミルキィに関しては恐ろしく低い。

しかも瞬間沸騰だ。

俺はそいつを本気で消し炭にするつもりで怒鳴りつけると、その男はかなりたじろいだ様子だ。


「いや、俺もつい焦って・・・」

「焦って?どういう事だ?説明しろ!」

「いや、それは・・・」


そこまで言うと、この男はフラリとして、その場で倒れてしまった。

え?一体、どういう事だ?

俺はまだ何もしていないぞ?

倒れた男を見て、俺が不思議そうに呟く。


「なんだ?こいつ?いきなり倒れたぞ?大丈夫か?」


男の様子を見てエレノアが答える。


「どうやらかなり疲れているようですね?」

「ふぅん、このまま道端に放って置くのも寝覚めが悪いし、何でこいつがミルキィに抱きついて来たのかも知りたい。

ガルド、こいつを担いでやってくれ」

「かしこまりました。御主人様」


俺に命令されたガルドがその男を肩に担ぐ。


「仕方がない。こいつをこのまま組合に連れて行って、気がついたら話を聞くか?」

「そうですね」

「ええ」


そう言って俺たちは組合へと引き返した。



デパーチャーに到着すると、そこの長椅子に男を寝かせて置く。

こいつは9級の木片等級ウッドクラスの登録章を身につけている所を見ると、どうやら組合員ではあるらしい。

それが何故突然ミルキィに抱きついてきたのだろうか?

やがてその男が目を覚ます。


「ここは・・・?」

「目が覚めたか?

 ここは組合の大食堂だ」


俺は機嫌悪く、その男に話しかける。

しかし男はまだ意識がぼんやりとしているようだ。


「あ、ああ・・・」

「お前、もしかしたらかなり腹が減っているんじゃないか?」

「あ、ああ、そうだな」

「仕方がない。

そう思って食事を用意しておいてやった。

一食位は奢ってやる。

それを食べろ」


その男は俺が用意しておいたミクサードとオレンジジュースを見ると、礼も言わずにガツガツと食べ始めた。

その勢いに驚いた俺が男に注意する。


「おいおい!

腹が減っているのはわかるが、もう少し落ち着いて食えよ?」


しかし男は俺の話も聞かず、凄い勢いでミクサードを食べ続ける。

よほど腹が減っていたらしい。

しばらくしてその男がミクサードを食べ終わり、オレンジジュースを飲み終わると、俺は再びそいつに尋ねる。


「さて、腹も一杯になったし、人心地もついたろう?

お前はどうしてミルキィに抱きついてきたんだ?」

「ミルキィ?」


男はまだ呆然として頭が回らないようだ。

俺が分かり易いように男に説明をする。


「そこにいる俺の大切な奴隷の名前だ。

ちなみに俺の名前はシノブ・ホウジョウと言う。

お前の名前は?」

「俺の名は・・・アーサー・フリード・・・100番だ」


その男が名乗ると、エレノアが軽く驚く。


「まあ、アーサー・フリードですか?」

「何?何か変わった名前なの?エレノア?」

「いえ、アーサー・フリードと言えば、この辺一体の有名な昔話の主人公で英雄です。

おそらくこの少年の親御さんもそれにあやかってつけたのでしょう」

「なるほど、それはわかったが、最後の100番ってのは何だ?」


俺の問いに、そのアーサーが答える。


「それは、ここでの登録者にアーサー・フリードというのはたくさんいるそうだ、

そこで登録した順に番号をふって区別をしているらしい」

「なるほど、それでお前はちょうど100番目のアーサー・フリードって訳か?」

「そうだ」

「それで?そのアーサー・フリード100番が何で俺の大切な奴隷に抱きついたんだ?」


俺が質問すると、アーサー100番は逆に質問をしてきた。


「その前に一つ聞きたい事がある」

「なんだ?」

「お前とそっちの女エルフ、それとそっちの男たちの首から下げているのは組合の登録証なのか?」

「ああ、そうだよ」

「しかし、俺が読んだ一般規約にはそんな登録証は無かったぞ?」

「登録証から察するにお前が読んだのは入門用の一般規約か?」

「そうだ」

「そりゃ、これは特級だからな。

入門用の一般規約には載っていない。

特級の記述があるのは七級以上の正規の一般規約だ」

「特級?何だそれは?」


首から下げている登録証からすると、この男は九級なので、一般等級以外を知らないようだ。

そうなると、かなりの初心者だ。

それに特級の事は七級以上の正規組合員にならないと説明をしないそうなので、九級であるこいつが知らないのも無理はない。

俺はアーサー100番に説明をする。


「正規組合員の七級になれば説明を受けるだろうが、ここの組合の等級には一級の上に特別等級と言うのがあって、その中でさらにまた細かく分かれているんだ。

これは白銀等級シルバー・クラスと言って、一級の一つ上だ」

「何?白銀等級シルバー・クラス

一級の上だって?そんな物があるのか?」

「ああ、登録者は少ないけどな。

一級の半分もいない」

「何?それじゃそっちの男二人も、その特別等級なのか?」


そう言ってアーサーはガルドとラピーダを見る。

仕方なく俺が準青銅等級セミ・ブロンズクラスの説明をする。


「いや、あれはジャベック専用等級の準青銅等級セミ・ブロンズクラスと言って、ジャベックに使われる等級だ。

滅多に使われる事はない珍しい登録証だから、お前が知らないのも無理はない。

別名「水晶等級クリスタルクラス」とも言う」

「ジャベック?じゃあ、その二人はジャベックなのか?」

「そうだ。二人とも俺のジャベックだ」


どうやらこの男はガルドたちがジャベックだと知って驚いたようだ。


「こんな人間そっくりのジャベックがいるのか・・・?」


この男はあまりにもガルドとラピーダが人間そっくりなので驚いているようだ。


「ああ、確かにこれほど人間と区別のつかないジャベックは珍しいぞ」

「その登録証に300と書いてあるが、それはどういう意味なんだ?」

「それはジャベックのレベルを表している」

「レベル?だってその登録証には300って書いてあるぞ?」

「だからこいつらのレベルは300なんだよ」

「な・・・!」


どうやらこの男はレベル300のジャベックと聞いて相当驚いたようだ。

まあ、無理はない。

九級と言えば、レベルはせいぜい20か、そこらだろう。

そんな人間が、レベル300と聞いたらビックリ仰天だろう。


「そんなジャベックが存在するのか?」

「ああ、今、お前の目の前にな」

「ちょっと待て!

お前のレベルはいくつ何だ?」

「俺か?俺のレベルは今は293だ」

「なっ!293だと?

 じゃあそっちの獣人の一級の人は?」

「私は158です」

「158?」

「はい」

「そんなレベルの人間は見た事も聞いた事もないぞ!」

「まあ、120を超える奴は珍しいからな。

これで納得したか?

で、こっちの質問に戻るが、何でお前はミルキィに抱きついてきたんだ?」


男は唖然としていたが、次の瞬間、俺たちに頭を下げて頼みだした。


「お願いだ!俺をあんたたちの仲間にしてくれ!」

「は?何言ってるんだ?お前?」

「だから俺をお前たちの仲間にして欲しいんだ!」

「お前?人の話をよく聞けよ?

俺はお前にうちの奴隷に抱きついた理由を聞いているんだが?」


俺はこいつがさっきからあんまり関係ない事ばかり抜かすので、イライラして来た。

よほど一発殴ってやろうかと思ったら、ようやく説明を始めた。


「それは・・・どこから説明して良いか・・・」


アーサー100番が考え込んでいるので、俺はため息をついて言った。


「仕方がない。

全部聞いてやるから最初から話せ!」


男は自分の事を話しだした。

どうやらこの男、アーサー・フリード100番は故郷を飛び出して一旗上げようとロナバールに来たようだ。

しかしレベルが低いくせに十級で登録したその日の内に、よせば良いのに毒消し草を三つ買ってきて、強引に九級に上がってしまったらしい。

俺は最初に「一般規約」を読んだ時に、そういう奴がいるんじゃないかと思っていたが、案の定いたようだ。

当初、この男はそれを魔物も倒さずに昇級できた、自分ではうまくやったと思い込んでいたらしい。

しかし十級に義務ミッションはないが、九級からは義務ミッションが発生する。

この男はレベルが低いために、その義務ミッションが果たせなくて、罰金か登録抹消するかを組合から迫られたらしい。

そして現状でどうにもならなくなって、レベルの高い人間を探して俺たちに泣きついてきたようだ。

話を聞き終わった所で俺がエレノアに尋ねる。


「どう思う?エレノア?」

「そうですね。これは何も考えずに家を飛び出して来て、ロナバールで組合員に登録した挙句に自滅する若者の典型ですね。

特に毒消し草を3つ買って等級を上げる所などは、そのまま過ぎて呆れるほどです。

同情の余地は全くありませんね」

「やはりそうか?」


エレノアの説明に俺はうなずいて答える。

俺もエレノアと同様の評価だ。

俺とエレノアの評価に、アーサー100番が情けない声を上げる。


「そんな・・・!」

「聞いた通りだ。

お前の行動に同情の余地はない。

あきらめて自分の町に帰って親父さんに謝るんだな」

「そんな!助けてくれないのか?」

「何で俺がお前を助けなきゃならないんだ?」


当然、俺には縁もゆかりもない、こんな奴を助ける義理はさらさらない。

ましてやいきなりミルキィに抱きついてきて俺は腹を立てているのだ。

俺がそう言うと流石にこの男は口ごもる。


「それは・・・」

「話を聞いた限りじゃ、お前の行動は典型的なうぬぼれて都会に出てくれば何とかなるだろうと思って、出てきた馬鹿息子だ。

自分が馬鹿だった事がわかったら素直に家に帰るのが一番だ」

「それだけはしたくない!

お願いだ!

何とか俺を助けてくれ!

もうあんたがたしか頼る者はないんだ!」


アーサー100番が懇願して来るが、俺はそれを一蹴する。


「アホか!

そもそもお前、帰れる場所があるってのが贅沢だってわかってないだろ?」

「え?」


この男は俺が言った意味がわからなかったらしいので、俺は説明してやった。


「このミルキィなんて生まれ育った村が襲われて全滅したんだぞ?

もう帰りたくても帰る場所もないんだ!

お前、自分の街が襲われて焼け野原になって家もなくなって、家族もみんな死んだと想像してみろ!」

「それは・・」


どうやらこの男はそんな事を考えてみた事もなかったようだ。

この帝国内でも、よほど平和な町で育ったのだろう。

しかし俺が言った事を聞いて少しは考え込んだらしい。

しばらくしてまた話し始めたが、今度は少々様子が変わって来た。


「確かに俺が甘かったのかも知れない。

いや、多分そうなんだろう・・・

しかし、俺はやはり出来れば冒険者になりたいんだ。

何か良い方法はないだろうか?」

「ないな!諦めろ!」


俺はにべもなく言い放った。

そして俺は立ち上がるとその場を立ち去った。

少なくとも俺はそのつもりだった。



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アーサー・フリード100番はなぜこうなってしまったのか?

その経緯を詳しく知りたい人は、外伝の「ある男の話」を読んで下さい。


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