0145 ジャベック仲間

 今までわざわざそんなのを探した事はなかったのだが、こうして見ると、確かにジャベックを連れている組合員は結構な数がいるようだ。

どんなにレベルが高くても迷宮に一人で行くのは確かに危険だ。

俺だって、ミノタウロス相手の時は自前のタロスがいなかったら危なかった。

だから仲間がいなくて、魔法を使えない人間は、ジャベックを連れて行けば安心だろう。

特に魔法を使えない戦士は出来れば魔法を使えるジャベックを、魔法使いは戦士型のジャベックを連れて行けば心強いだろう。

そういった理由でジャベックを連れている組合員はそこそこいるようだ。

難点はやはり高額な事だろう。

迷宮でそれなりに使えるジャベックとあらば、やはり高い。

それでも必要を感じる人たちはいるようで、組合員たちは、様々なジャベックを連れている。


改めてデパーチャーで見ていると、木人形型、石人間型、人間型と様々な形のジャベックがいる。

一体しか連れてない人もいれば、中にはぞろぞろと五体も連れている人もいる。

しかし、やはりそのほとんどが登録などしていない。

まあ、登録してもほとんど利点がないのだから当然だろう。

俺やグレイモンは変わり者の類だと思って構わないだろう。

結局デパーチャーにはジャベックを連れている組合員は何人もいたが、それを登録している者は一人もいなかった。

俺たちはプロフェッショナルへ向かってみた。


プロフェッショナルへ行くと、なるほどそれらしい人物がいた。

美女型ジャベックを三人ほど連れている組合員がいる。

長い黒色の髪の線が細い男性で、魔道士の服装をしている。

登録証を見ると、銅の板に青い宝石が埋まっていて、下半分の線は青だ。

それに胸には魔道士章をつけている。

この人はどうやら正規の魔道士で、二級のようだ。

俺は近寄ってその人に話しかけてみた。


「こんにちは、ちょっとよろしいですか?」

「おや、あなたはひょっとしたらこの間、組合長に紹介されていた白銀シルバーの方ですか?」


俺を知っていてくれたのなら話は早い。


「はい、そうです。

白銀等級シルバークラスのシノブ・ホウジョウと申します」

「これは御丁寧に、私は2級のサイラスと申します」

「実は私は今日この二人のジャベックを準青銅セミ・ブロンズで登録したのですが、どなたか他にそういう方がいないかと聞いた所、あなたの事をうかがいまして、こうしてお話に伺った訳です」

「なるほど、確かにジャベックを連れている組合員は多いですが、登録までしている人は少ないですからね。

たまにいたとしても商売用の場合が多いです」

「ええ、それでジャベックに愛着を持っている方とお話してみたいと思いまして」

「なるほど、それは納得です。

それにしてもあなたのジャベックはレベル300ですか?

凄まじいですね?

一体、製作者はどなたでしょう?」


どうやらこの人はガルドとラピーダのレベルを見て驚いたようだ。

確かに見てみると、この人の連れているジャベックはレベル100から70程度のようだ。

ガルドとラピーダを見て驚くのも無理はない。

しかしその質問に少々俺は困った。


《エレノア?どうする?言っても大丈夫かな?》

《いえ、現状ではまだ製作者は秘匿しておいた方がよろしいでしょう》


素早くエレノアと魔法念話をした俺がサイラスさんに答える。


「それは申し訳ありませんが、さる方に作っていただいたとしかいえないのです。

本人から製作者の名を出すなと言われているものでして」


俺が申し訳なさそうに答えると、サイラスさんは笑顔で答える。


「いえ、お気になさらないでください。

高レベルのジャベックにはそういった事は結構ありますからね。

私も製作者にそう言われた事はあります」


製作元に関しては、納得してもらったようで俺もホッとした。

早速気になる話をしてみる事にした。


「ありがとうございます。

ところで、サイラスさんは何故ジャベックを使うようになったのですか?」

「それは私の性格に起因していますね。

私は何しろマイペースでゆっくり屋なので、人様と組むと他人の迷惑になるのですよ」

「ははあ・・・」


なるほど、そういう理由でジャベックを連れている人もいる訳か?


「それでも最初は人間と組んでいたのですが、そのうち人様の迷惑にならないようにと一人で迷宮に入るようになりましてね。

しかしやはり魔物のレベルが高い場所になってくると、一人ではいられません。

それで試しにジャベックを連れて行ってみたのですが、私は御覧の通り、一応正規の魔道士でしてね。

さすがにジャベックは作れないのですが、元々ゴーレム魔法が得意なせいもあってか、重宝したのですよ。

それ以来、段々と数を増やしていって、現在に至ると言う訳です」

「なるほど」

「あなたの場合はどういった理由ですか?」

「私の場合はこのエレノアが護衛に奴隷だけではなくジャベックもいた方が良いという話しで、護衛用としてジャベックを使う事にしたのですが、愛着があるので、登録してみました」

「なるほど、確かにそういう方もいらっしゃるようですよ」

「他にはどういった方が?」

「そうですねぇ・・・一番多いのはやはり戦力として求める人たちですね。

優秀なジャベックは攻撃力も高く、防御にも使えますからね。

他には仲間に欠員が出た時に臨時の戦闘要員にする場合もありますし、中には人を信用しないので、ジャベックを使うという方もいますよ」

「なるほど」


確かに人それぞれのようだ。


「登録したジャベックを使っていて、何か困る事などはありますか?」


俺の質問にサイラスさんが答える。


「そうですねぇ・・・それはやはり交代させなければならない時ですかねぇ」

「交代?」

「ええ、組合員として仕事をしていれば、やはりレベルが上がっていきますからね。

人間やアイザックなら一緒にレベルも上がって行きますから問題はないのですが、ジャベックはレベル固定ですからね。

愛着があっても迷宮にはレベル差があまりにも開くと使えなくなってしまうのですよ。

武器や防具などはそのまま使う事も出来るでしょうが、ジャベックはそうも行きませんからね。

もちろん武装を上げて防御力を上げる事は可能ですから、高価な鎧などを着せてレベルが低くてもある程度は一緒に戦えますがね。

しかしそれでもやはり限界があります。

そうなると別のレベルが高いジャベックと交代させざるを得ません」

「なるほど」


確かに言われてみればその通りだ。

武器や防具などは威力や防御力は多少弱くても使う事ができるが、ジャベックではそうもいかない。

下手にレベルが低いジャベックをつれていたら、場合によっては守ってやらなければならず、本末転倒になる。


「もちろん、私はそういった場合も売ったりする事はせずに他の事に使いますがね。

ですから私はジャベックを購入する場合は必ず汎用にしております」

「なるほど、確かにそうですね」

「ですが、それも段々レベルが高くなると苦しくなってきましてね。

御存知の通り、レベルが高く品質が良いジャベックというのは少ないですからね」

「そうですね」

「ですから私も自分でジャベックを作れたらと考えて独学をしているのですが、これが中々難しくてね。

もう少しで何とかなりそうなのですが、今一歩と言う所です」

「なるほど」


俺たちがそんな話をしていると、突然、屈強な戦士のような人が話しに割り込んでくる。


「お?なんでぇ?こりゃジャベック愛好会の集いか?

それなら俺も仲間に入れてくれよ」


この人も二級で周囲には灰色のレンガを積み上げたようなジャベックを2体と木人形のようなジャベックを一体連れている。


「おや、ザイドリックさん?

しかし残念ながらこちらのホウジョウさんは、どちらかと言うと私よりですよ?」

「ホウジョウ?ああ、俺はそん時にはいないで話しに聞いただけだが、あの組合長に紹介されたっつー白銀シルバーの人ってのはあんたかい?」

「はい、そうです。シノブ・ホウジョウと言います」

「おう、おりゃザイドリックっつーもんだ!よろしくな!

しかし、話には聞いていたが、こりゃまた、ずいぶんナヨッとしたのが来たもんだ。

だがまあ、見かけは頼りにならないしな!

実際、そこのサイラスだって、そんなに細いのにあなどれないんだからな!

ましてや白銀シルバーなら尚更だろう?」


そのザイドリックさんの質問にサイラスさんがにこやかに答える。


「そうですとも。

何と言ってもこの方は、新規登録でいきなり白銀シルバー、それも上白銀ハイ・シルバーで登録された方ですからね」

「そりゃ全くとんでもないな?

で?そのホウジョウさんもジャベックを使うって事かい?」

「ええ、そのようです。

今、ジャベックを登録してきたので、その事をお話していた所ですよ」

「ちぇっ!なんだ!じゃあまたジャベック大好き人間かよ?」

「?」


一体どういう意味かと、俺が不思議に思っていると、サイラスさんが説明をしてくれる。


「ああ、こちらのザイドリックさんはジャベックを愛用はしているのですが、登録はしない方なのですよ」

「あったりまえよ!確かにジャベックは便利で重宝するぜ?

だが、結局はただの道具だ。

まあ、長く使ってりゃ愛着もわく。

それは剣や鎧と同じだ。

しかし名前までつけて、ましてや登録する気にまではなれねえな!

確かに一応区別はつけなきゃならねえが、俺なんか買った順に1号、2号って呼んでいるだけだぜ?」


なるほど、確かにね。

それはそれで分かる。


「しかし、剣や鎧だって名前をつけて使用している人だっているじゃないですか?

名剣や名のある鎧なら尚更です」

「まあな、だからお前さんたちみたいな人間がいるのもわかるさ。

別にお前さんのような人間は酔狂だとは思うが、馬鹿にする気はない」


なるほど、この二人はジャベックに愛着を持って使っている点では同じだが、そこが違う訳か?

しかしお互いにそこは理解して友人同士な訳だ。

中々良い友人関係だな?


「ザイドリックさんも多少は会話が出来るジャベックを購入すれば、我々の気持ちもわかると思うんですがねぇ」

「そんな余計な機能なんぞいらんよ!

俺は迷宮で戦闘の役に立ってくれりゃそれで良い。

大体そんなに愛着が湧いちまったら交換する時にだって困るだろう?

それなら最初から割り切って、道具として使った方が良くないか?」

「それはそれで確かに言っている事はわかるんですがねぇ・・」


なるほど、これは確かにどっちの言う事もわかる。

しかしどちらかと言えば物に愛着がある俺はサイラス派だな。


「で?そっちのあんたもジャベック登録派って訳だ?」

「そうですね。

うちのガルドとラピーダも今、登録してきましたから」

「ふ~ん、なるほど、ガルドとラピーダね・・・」


俺の話を聞いてザイドリックさんがうちの二人をまじまじと眺める。

だが次の瞬間に登録証を見て、驚嘆の声を上げる。


「なにっ!レベル300だと?

そんなレベルのジャベック、初めて見たぜ!

あんたのジャベックはレベル300もあるのか?」

「ええ、訳あって出所は言えないのですが・・・」


先回りして話した俺の言葉にザイドリックさんは、うなずいて答える。


「だろうな。全くそこが俺たちの悩みの種だからな~」

「え?」

「いや、だからレベルの高いジャベックを調達するのが難しいって事よ。

俺達くらいの等級になると、どうしてもジャベックのレベルは100を越えないと話しにならない。

しかしそんなジャベックは一般の店では売ってないし、注文を頼むにしても、中々そこまでの魔法職人がいない。

いたとしても数ヶ月、下手したら数年待ちの状態だ」

「そうなんですか?」

「ああ、ノーザンシティが今度のゴーレム大会でレベル150の戦闘ジャベックを量産して売り出すって噂が飛んでいるが、もう結構問い合わせが殺到しているみたいだしな」


レベル150のジャベックとは確かに中々珍しい。

それを大々的に量産して売り出すとは驚きだ。


「え?そんなレベルのジャベックが?」

「ああ、俺もそれは見に行こうと考えているがね」

「なるほど」

「それは私も興味深いですね」


俺がうなずくと、サイラスさんも同意する。


「ああ、しかしそういった具合にレベルの高いジャベックってのは中々情報がないからな。

だからあんたのそのレベル300のジャベックを作った人に限らず、誰か良いジャベック職人がいたら教えてくれよ」

「そうですね、私も少々心当たりがあるので聞いてみます」

「ああ、よろしくな。

教えてくれたら礼金ははずむぜ?」

「そうですね、それは私もお願いします」


ザイドリックさんと一緒にサイラスさんも俺に頼み込む。

ううむ、やはりこのジャベック使いの人たちと話してみて良かった。

この人たちと話すと、エレノアがエルフィールを秘匿するように言ったのがよくわかる。

ガルドやラピーダにこれほど驚くのなら、この人たちがエルフィールを見たら大騒ぎだろうな。

初めて見せた時にシルビアさんやエトワールさんも驚いていたけど、やっぱりエルフィールは相当特別みたいだな。

エトワールさんなんて感心するの通り越して呆れていた位だしね?

やはり、エルフィールは登録しないで正解のようだ。

それにしても高レベルのジャベックはそんなに需要が高いのか?

確かにそう簡単に作れる物じゃないからな。

今度、色々とエレノアと話し合ってみるか?

今日の所はこれで話を切り上げよう。


「では、また何かの折に・・・」

「そうですね。私もお仲間が出来て嬉しいです」

「おう!俺も登録はしねえぇが、ジャベックは好きだからな!

ジャベック仲間だと思って、二人が話す時は俺もまた混ぜてくれや!」

「はい」


こうして俺は二人のジャベック使いと友人となったのだった。

こういった交流は色々と情報交換も出来るし、良い事だと思った。

帰り道に、こんな具合で知り合いや仲間が増えていくならいいなと俺は思っていた。

しかし、これから数日後、俺は変な男と知り合いになる事になる。

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