0143 ジャベックの登録

俺はエレノアたちに向かって話した。


「ちょっと組合の方にもよるね?」

「はい、承知いたしました」


エレノアが返事をして5人でアースフィア広域総合組合へと向かう。

受付にはいつも通りの三人がいた。


「こんにちは、アレクシアさん」

「こんにちはシノブさん、今日は何の御用ですか?」

「ええ、登録の事で聞きたい事があって」

「登録?何でしょう?」

「実はこの二人はジャベックなのですが、ジャベックもここで登録できると聞きました。

どうすれば良いのですか?」

「まあ、その二人はジャベックなのですか?

人間と区別がつかないジャベックとは凄いですね?

おっしゃる通り、ジャベックでも登録は出来ますが、正規の組合員ではなく準組合員としての登録となります。

ただ、正直登録してもあまり利点はないので、お薦めはしておりません」

「ええ、それも知っています。

でも、この二人はなるべく人間らしい扱いをしたいので、登録をしておきたいのです」

「わかりました。

それでしたらジャベックの登録も新規登録窓口で出来ますよ。

そちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


俺はアレクシアさんに礼を言うと、新規登録窓口へと向かった。

そう、俺はテレーゼが登録証を下げているのを見て、ちょっとかっこいいなと思ったので、うちのガルドとラピーダにも登録証をつけてみたくなったのだ。


「こんにちは!ロッテさん、新規登録をしたいのですが?」

「こんにちは!まあ、シノブさん、今日はどなたの登録を?」


その質問に俺がガルドとラピーダを紹介しながら答える。


「この二人はジャベックなのですが、こちらではジャベックも登録できると聞いて来ました。

この二人を登録したいのですが?」

「え?その二人はジャベックなのですか?」

「はい、そうです」

「まあ・・・この間もエルフ型の凄い美女ジャベックを登録したいと言う方がいらっしゃいましたけど、この二人もジャベックに見えませんね?

あら、そういえばこの間のエルフ型ジャベックって、エレノアさんにそっくりでしたわ?

私もあまりエルフって見た事ないのでわからないですけど、エルフって、みんな同じような見かけなのかしら?」


どうやらこの人はテレーゼの事を話しているようだ。

俺はあいまいに答える。


「さあ、それはわかりませんが?」


しかし言われてみれば、俺もエレノア以外のエルフを見た事がない。

他のエルフってどんな感じなのだろうか?


「あら、関係ない事を言って申し訳ありません。

ではそちらの御二人を登録と言う事で、ジャベックの登録は「準青銅等級セミ・ブロンズクラス」と「準陶器等級セミ・ポッタークラス」の二つがありますが、どちらにしますか?」

「その二つの違いは何でしょう?」

「基本的には実力差ですね。

 準青銅等級セミ・ブロンズクラスの場合は傀儡の騎士くぐつのきしを、準陶器等級セミ・ポッタークラスの場合は鎧ムカデを倒さねばなりませんから、少なくともそれぞれ四級と七級以上の実力を持っている事にはなります。

一応両者の境はレベル50と25にはなっておりますが、鎧ムカデはともかく、レベル50で傀儡の騎士を倒せるジャベックはあまりいませんね」

「なるほど」


確かに傀儡の騎士はレベル50にしては強い。

だからこそ昇級試験の魔物に指定されたわけだが、基本力押しで魔法が使えないジャベックでは、レベル50で傀儡の騎士に勝つのは難しいだろう。

魔法が使えるジャベックならともかく、通常のジャベックなら最低でもレベル60はないと傀儡の騎士を倒すのは難しいだろう。


「まあ、後は正直好みと言うか、所有者の気分ですね」

「所有者の?」

「ええ、例えば高レベルのジャベックを準陶器等級セミ・ポッタークラスで登録する人もいます。

滅多にはいませんが・・・」

「なぜそんな事をするのでしょう?」

「基本的には今説明した通り、所有者の気分が大きいですね。

例えば同じ等級のジャベックを2体登録するとして、片方を準青銅セミ・ブロンズにして、もう一つを準陶器セミ・ポッターにしてみたりします。

後は準陶器セミ・ポッターの方が年間登録料が安いし、義務ミッションも簡単なので、あえてそちらで登録する場合もありますね。

商売用などはそういう場合が多いです」

「商売用?」

「ええ、護衛用に貸し出ししたり、商隊護衛をさせるのが目的の場合ですね。

組合に登録してあるジャベックの方が、普通のジャベックよりも信用がありますから人気があります。

護衛ミッションでわざわざ準青銅等級セミ・ブロンズクラス準陶器等級セミ・ポッタークラスを指定してくる依頼者もいるくらいです。

依頼料金が人間より安いし、信用も出来ますからね」

「なるほど」

「後は登録証の見栄えですね」

「見栄え?」

「ええ、準青銅セミ・ブロンズ準陶器セミ・ポッターの登録証の見た目が少々違うので、それで決めている人もいるようです」

「え?そんなに見かけが違うのですか?」

「見本がありますよ。御覧になりますか?」

「はい」


ロッテさんはその辺をゴソゴソと探ると、二つの登録証を出してきた。


「これは両方とも戦士用ですが、戦魔士や魔法使いなら当然下の線の色が変わりますね。

こちらが準青銅等級セミ・ブロンズクラス、こちらが準陶器等級セミ・ポッタークラスです」


そう言ってロッテさんが見せた物は、一つはテレーゼが持っていたような銅の板に水晶のような物が埋まっている物、もう一つは白い陶器の登録証の上半分に黒丸の代わりに、丸い金属のような物が埋まっている物だった。


「こちらの上半分に水晶が埋まっている物が「準青銅等級セミ・ブロンズクラス」の登録証で、陶器の上半分に丸い鉄が埋まっている方が「準陶器等級セミ・ポッタークラス」の登録証です。

それぞれ俗称では「水晶等級クリスタルクラス」、「黒鉄等級アイアンクラス」とも言われていますね」


なるほど、水晶クリスタル黒鉄アイアンか?

何となく納得だ。


「そして、この上半分の部分の数字が、その登録されたジャベックのレベルを表します。

下半分の数字は登録年数を表し、最初は0ですが、更新するたびに数字が大きくなっていきます。

つまりこの数字が大きいほど登録された年数が長く、それだけ信用がおけるという訳です」

「なるほど」


その説明にも納得だ。


「基本的にレベル50以上なら「準青銅等級セミ・ブロンズクラス」として登録可能ですが、そちらのジャベックはレベルはいくつですか?」

「二人ともレベル300です」

「え?300?」


俺の答えにロッテさんは相当驚いたようだ。


「はい、そうです」


俺の返事を聞いて、ロッテさんはまじまじとガルドとラピーダを見る。


「・・・驚きました。

そんなレベルのジャベックは初めてみましたよ・・・」

「はは・・・そうですね」

「では、当然、準青銅等級セミ・ブロンズクラスで登録されますね?」

「ええ、そうします」

「そうしますと、登録料と等級試験料を合わせて一体当たり大銀貨5枚になりますが、よろしいですか?」

「はい、結構です」

「では、こちらの登録用紙に記入して大銀貨5枚と一緒に提出をしてください」

「はい、わかりました」


俺は登録用紙2枚に記入すると、金貨一枚と一緒に提出した。

記入された項目を見て、ロッテさんがまた驚く。


「はい、確かに・・・それにしてもレベル300なだけでなくて、魔法もこんなに使えるんですね?」

「はい、だいたい魔法学士と同等だと思います」

「これほど万能なジャベックは初めてです。

では、試験官を呼びますので、そのまま少々お待ちください」

「はい、わかりました」


俺は待っている間にエレノアと話していた。


「そういえばエルフィールはどうしようかな?

この二人を登録しておいて一番指揮権が上のエルフィールを登録しないのは可愛そうな気がする」

「いえ、基本的にエルフィールは世間に対して秘匿しておりますし、周囲に見せる場合は私の影武者として出る場合がほとんどですので、登録する意味はないかと思います」

「そうか?そういえばそうだね。

まあ、仕方がないか」

「ええ」


そんな話をしてしばらく待っていると、組合長のグレゴールさんが通りかかった。


「あ、グレゴールさん、こんにちは!」

「ええ、お久しぶりですね。シノブさん。

何でも今日はジャベックの登録にいらしたとか?」

「ええ、それで試験官の方を待っている所です」

「ええ、では参りましょうか?」

「え?いや、ここで試験官の人を待つように言われているのですが?」

「試験官は私がする事になりました」

「え?ジャベックの試験官を組合長のグレゴールさんがですか?」


いくらレベルが高いとは言え、たかだかジャベックの試験官を組合長自らがすると聞いて俺も驚いた。


「ええ、もちろんいつもでしたら誰か他の者に任せるのですが、何しろシノブさんが連れて来たジャベックで、しかもレベルが300と伺いましてね。

そのようなジャベックは私も見た事がないので、俄然、興味が湧きました。

それで私が試験官を買って出たのですよ。

まあ、半分野次馬根性だと思ってお許しください。

はっはっは・・・」

「なるほど」


確かにレベル300のジャベックなど普通はお目にかかれまい。

グレゴールさんの気持ちも分かる。


「では闘技場の方に参りましょう」

「はい」


俺たちはうなずくとグレゴールさんについていった。

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