0141 グレイモンの修行と趣味
俺は二人に正体を明かすことにして話しかける。
「いやあ、久しぶり!
男爵仮面、グレイモン、テレーゼ」
「何と!やはり少年なのか?」
「シノブ?なぜそんな格好をしてこんな場所にいる?」
それはむしろ俺がお前に聞きたい事だっつーの!
グレイモンよ!
「いや、実は魔法協会に頼まれて盗賊の囮捜査の最中なんだ。
それでわざと変装のためにこんな格好をしているんだよ、ホラ」
そう言いながら俺は魔法協会からもらった捜査官の令状を見せる。
「なるほど、そういう事だったのか?
私はてっきり少年の趣味でしていたのかと思ったが?」
「うむ、私も人の事は言えぬからな。
別にシノブがそういう趣味とて、何も言わぬ」
「違うっつーの!
それより、グレイモン!
お前も何でそんな格好でテレーゼと一緒にここにいるんだよ?
しかも男爵仮面と一緒に?」
俺の質問にグレイモンが律儀に説明をする。
「うむ、実は例の件で、私は男爵に謝罪に行ったのだが、その時に本気で謝罪する気があるなら、しばらく自分と一緒に正義の使者として、森や迷宮に付き合えと言われてな。
別段、断る理由もなし、私も自分を鍛えなおすつもりで、テレーゼと一緒にこうして男爵に付き合っているという訳だ。
おかげでずいぶんとレベルも上がった。
それに色々と今まで自分が知らなかった事が学べて感謝している」
なるほど、そういう話なら納得だ。
しかし、その格好は何故だ?
「その仮面は?」
「これか?
男爵に正義の使者として付き合うなら顔を隠せと言われてな、
それも別段断る理由もなかったので、テレーゼと一緒に顔を隠していたのだ。
名前も変えろと言われたので、伯爵仮面とした」
真面目な顔で説明するグレイモンに合わせる様に、テレーゼも派手な金色の仮面を被ったまま、キリッとして答える。
「そして私は伯爵仮面二号でございます」
いや、伯爵仮面二号でございます、じゃないだろう?テレーゼ・・・
まるで仮面舞踏会にお忍びで来る、どこかの貴族の奥様のような格好だ。
何だよ、そのキラキラなドレスは?
グレイモンのスーツ姿もそうだが、それ、どう考えても盗賊退治に来る格好じゃないだろ?
少しは男爵仮面を見習えよ!
いや、一部見習ったからこうなっちゃったのか?
う~む、難しい・・・
しかも、しばらくグレイモンと一緒にいたせいか、性格が変えられてないか?テレーゼ?
エレノアがその姿見たら、きっと泣くぞ?
「ふ・・・ん、そうなんだ・・・?」
「うむ、そういう訳だ」
「もう一つ聞きたい事があるんだが?」
「なんだ?」
「そのテレーゼがつけている組合の登録証っぽい物はなんだ?」
そう、実は俺はさっきからそれが気になっていた。
男爵仮面は銅の板に青い石、つまり2級だ。
グレイモンは銅の板に緑の石、3級だ。
この二人はわかる。
しかし、テレーゼは同じ銅の板だが、上半分には六角形の透明な水晶のような物がはまり、その下には100と書いてある。
そして下半分には青い線が入っている。
その下にはゼロと表記がある。
どうも登録証のようだが、こんな登録証は見た事がない。
確か一般規約にも特等規約にも、こんな登録証はなかったはずだ。
不思議そうに尋ねる俺の質問にグレイモンが答える。
「ああ、これはジャベック用の準組合員登録証だ。
確かに滅多にない物なので、君が知らないのも無理はない」
「準組合員登録証?ジャベック用の?」
「ああ、ジャベックを組合員として登録する場合は、正規の組合員には出来ないが、所定の手続きをして準組合員として登録する事が可能だ。
登録されたジャベックは、レベルに合わせて登録証を授けられる。
但し中級の
上級や特級としては登録できない」
「
「それは可能だが、意味がないだろう?」
「そう言われればそうだな」
わざわざそのレベルで戦闘用ジャベックを作って登録する意味はない。
「そして
残念ながらジャベックはレベルは上がらないからな。
この数字が等級のような物だ。
下半分は普通の登録証と同じだ。
テレーゼはほぼ魔法で戦うので、魔法使いとして登録した」
「なるほど、しかしジャベックも登録できるとは知らなかったよ。
中々いいね?」
水晶の登録証を下げているテレーゼは、俺から見てもちょっと格好いい。
「うむ、卿も知っての通り、組合員の登録は種族を問わず、年齢が13歳以上ならば可能だが、ジャベックは登録できない。
同じゴーレムでもアイザックは自分の意思と判断力があるとして、普通に登録は可能なのだが、一般的にジャベックは出来ないのだ」
「そうなんだ?」
「ああ、だが希望者、つまりこの場合はそのジャベックの持ち主だが、その者が希望すれば準組合員として、このように登録をする事が可能だ」
「へえ?そんな事が出来るんだ?」
「ああ、テレーゼ以外にも数は少ないが何人かいるようだ。
だが長所や利点はほとんどないので、登録する者はあまりいない」
「どうして?」
「登録すれば準組合員になるのだが、年間登録料は取られるし、義務ミッションは発生する。
しかし、食べ物を食べる訳ではないので、食堂や休憩所の使用はあまり意味はない。
そして単独でミッションなどは受けられない」
「え?じゃあ登録する利点は?」
「一応普通のジャベックよりは社会的信用がある。
後はせいぜい組合で買い物をする時に割引が利く程度だな」
それでは登録する意味がない。
ジャベックと主人は大抵一緒にいるのだし、割引は本人が買えば済む事だ。
そう考えると、むしろ欠点の方が多い気がする。
俺はそう思ってグレイモンに聞いた。
「それじゃほとんど登録する意味がないじゃないか?」
「そうだな」
俺の疑問にグレイモンはあっさりと肯定してうなずく。
その答えに俺は驚いてグレイモンに尋ねる。
「なんでそれなのにテレーゼを登録したんだ?」
その俺の質問に、グレイモンは胸を張って堂々と答える。
「それは私がテレーゼを人間として扱っているからだ!」
あれ?
今、ドーン!という擬音と共に、突然グレイモンの背景に荒波が見えた気がしたぞ?
「私はテレーゼを人間として扱っている!
だから本当は正組合員として登録したかったのだが、それもままならんので、せめて準組合員として登録した訳だ!」
「お、おう・・・」
グレイモンの謎の迫力に気圧されて、俺も思わずうなずく。
「本当は魔道士としても登録したかったのだが、魔法協会でさすがにそれは無理だと言われた。
アイザックなら魔法学校を卒業さえすれば、魔道士として登録も可能らしいのだがな。
どんなに魔法が使えてもジャベックは無理なのだそうだ。
だからせめて総合組合では準組合員として登録をしてやりたかったのだ!
この気持ちわかるか?シノブよ?」
「お、おう、まあな・・・」
グレイモンの謎の迫力に俺もタジタジだ。
しかし俺にもその気持ちはわかる。
俺も相手が生き物でなくても感情移入する方だからな。
実際、エルフィールも人間扱いしているし、ハムハムも生きているモフモフペットのように扱っている。
だからグレイモンがテレーゼを少しでも人間扱いしたくて、せめて準組合員として登録したい気持ちはよくわかる。
俺がそんな事を考えていると、グレイモンが俺に尋ねてくる。
「私は何か間違っているかな?」
そのグレイモンの質問に俺は即答する。
「いや!間違ってないぞ!グレイモン!
お前の判断は正しい!」
俺がニッと笑いながら、ビシッ!と親指を立ててそれを保証すると、グレイモンも大きくうなずく。
「うむ、シノブの賛同を得られて私も嬉しい」
「おう、エレノアにも報告しておいてやるぞ!
お前がテレーゼをどれほど大切に扱っているかをな!」
「よろしく頼む」
グレイモンがそう言うと男爵仮面もしみじみと話す。
「うむ、私もグレイモンのジャベックに対する思い入れは感心している。
それは正義の心にも通じる物があるからな!」
え?そうなのか?
それは関係ないような気がするんだが?
「そうだな、それは私も自分で感じている」
え?本当か?それ?
まあ、あんな身勝手な奴だったグレイモンがそういう事に目覚めるのは良い事だと思うが・・・
しかし何か違うような気もするが、大丈夫か?
「うむ、事実最近のグレイモンは正義の心に目覚めつつある。
良い傾向だ」
「そうなんだ?」
まあ、男爵仮面が面倒を見てくれるのなら、それで別に構わないか?
「では我々はこの者たちを魔法協会に連れて行く。
シノブと・・・ん?そういえばそちらはどなたかな?」
「ああ、これは新しい奴隷のミルキィだ。
今日はエレノアに言われて、二人でこうして囮捜査をしてみたんだ」
俺が3人にミルキィを紹介すると、ミルキィはペコリと頭を下げる。
「なるほど、そういう事だったのか」
「ああ、別に俺の趣味でやっている訳じゃないぞ?」
「いや、私はそういった事に理解はあるつもりなので、構わんぞ?少年?」
「私もだ、シノブ」
「だから違うっつーの!
これは秘密捜査だからこういう格好をしているんだよ!
理解してくれ!二人とも!」
「うむ、わかった」
「理解した」
一応二人とも俺の言った事をわかったようなので、俺も囮捜査に戻ることにする。
「うん、じゃあ、またな」
「うむ、今度一緒に食事でもして、お互いの趣味を語り合おう、シノブ」
「賛成だ、その時はそれがしも付き合おう、少年よ」
・・・二人とも、まだ、何か誤解してる気がする・・・
3人と別れた俺とミルキィは、その後、別の盗賊を捕縛して魔法協会へと連れていったのだった。
「は~い、また捕まえてきましたよ~」
「お疲れ様~、そういえば、さっき、男爵仮面と伯爵仮面たちが来て、あなたたちのことを話していったわよ?」
ああ、この人たちも、あの三人を知っているんだ?
でも伯爵仮面がグレイモンだって事は知っているのかな?
「何と言ってました?」
「趣味と仕事を両立してがんばっていて感心だって」
「違う!」
こうして俺は各方面に誤解を受けながらも数日間、変装して盗賊の囮捜査をしたのだった。
そしてその間にエレノアが俺の護衛ジャベックを完成させていた。
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