0140 正義の三人組

 俺がやれやれと思いながらも、ミルキィと二人で再び森の中を歩いていると、またもや盗賊たちが襲って来る。

今度は四人組だ。

・・・信じられない・・・お前ら・・・

なぜ、この組み合わせが、森をうろつく事を疑わぬ?

ガバガバな設定だと思っていたが、実はこれで正解なのか?

にわか盗賊ども恐るべし!

いや、呆れるべしか?

頭がクラクラしている俺に盗賊たちは話しかけてくる。


「へっへっへ、御嬢ちゃんたち、こんな場所をたった二人で歩いちゃいけないな」


そう言いながらジリジリと俺たちに近づいてくる。

俺がやれやれと思って、今回は人数が少ないし、どうしようかと考えていると、今度は状況が違った。

いきなりどこかからか、トランペットの音が聞こえて来たのだ。

その音が聞こえた瞬間、盗賊たちは動揺する。


「まさか?この音は?」

「まずい!逃げろ!」

「奴が来るぞ!」

「ああ!奴には勝てん!」


いきなり、獲物である俺たちを放り出して盗賊たちは全力で逃げ始める。

うん、正しい判断だな。

それにしても、あの人も有名になったもんだ。

俺が感心していると、どこからか慌てた声が聞こえてくる。


「あっ、待て!」


案の定、曲の途中で、ピタッと音が止むと、一人が逃げた方向から、真っ赤な人が上から飛び降りてきて、その男にとび蹴りを食らわす。


「ぐわっ!」


盗賊は地面に倒れてそのまま気絶する。


「ぬう・・・人が名乗りを挙げる前に逃げ出すとは、全く、躾のなってない奴らよ」


真っ赤な人、すなわち男爵仮面が、倒れた盗賊を見て、握った拳をプルプルと震わせながら、忌々しそうに唸る。

あの~その間に残りの盗賊たち逃げちゃいますけど?

いいんですか?

俺がそう思っていると、他の方向へ逃げた盗賊の前に、別の人物が二人立ちふさがる。


「だから、曲を流すのは止めた方が良いと言っただろう?

男爵仮面?」


そう言いながら見覚えのあるスーツ姿の男が、一人の盗賊を手刀一閃で倒す。

盗賊はその場で気絶して地面に倒れる。

中々強い。

その男も顔には男爵仮面と同じような仮面をつけているが、色は金色で、仮面の周囲に派手な装飾もついている。

もう一人が逃げた方向には、派手な金色の夜会用ドレスを着た、金髪で細身の巨乳なエルフ姿の女性がいる。

こちらも顔に派手な金色の仮面をつけている。


「私もそう考えます。

伯爵仮面様」


そう言いながら、優雅に盗賊に眠りの呪文をかけて、その場で眠らせる。


「ぬう、しかし正義の使者として、あの儀式は避けられぬ」

「そんな事を言っても、今も私と伯爵仮面二号がいなければ、盗賊に逃げられたのではないか?」

「その通りでございます」


そう言いながら仮面をつけた3人は、最後の一人の盗賊に静かに歩み寄る。

うわ~こんなのに囲まれて迫られたら怖いだろうな・・・

つーか、お前ら!

どう見てもグレイモンとテレーゼだろう!

何でこんな所にいる?

しかもそんな格好で男爵仮面と?

何だよ?

伯爵仮面とか、伯爵仮面二号って!?

俺がそう考えていると、最後に残った盗賊が逃げられないと思ったのか、再び俺に向かってくる。


「くっ!こうなったら!」


そう言って俺を人質に取ろうとする。

俺は一瞬どうしようかと迷ったが、人質に取られる事にした。

下手にここで盗賊を退治してしまったら、正体がばれてしまうからだ。

男爵仮面やグレイモンに、この姿を俺だとは思われたくない。

ここはあくまで可憐な少女で通しておこう。


「シノーラちゃん?」


ミルキィが心配そうにするので、俺は魔法念話で話しかける。


《大丈夫、心配しないでミルキィ、わざとだから》

《わかったわ》


今やレベル300近い俺にはこんな盗賊の一人や二人などどうと言う事もない。

例え口を塞がれたとしても、いざとなれば、声を出さないでも思考で発動可能な、心象呪文で一発で倒せるだろう。

俺がわざと人質に取られたとも知らずに、盗賊が三人に声をかける。


「おい、お前ら動くな!

動いたら、こいつの命はないと思え!」


盗賊が俺の胸元に短刀をかざすと、さすがに三人の動きがピタリと止まる。


「ぬう、なんと言う事だ!」


男爵仮面が再び拳を震わせながら唸ると、グレイモンもうなずく。


「うむ、全く卑怯な奴よ」


いや、それ、お前が言うな!グレイモン!

しかし、三人目のテレーゼは、そのまま動かずに小さく呪文を唱える。

眠りの魔法だ。

盗賊はその呪文を受けて、あっさりとその場で眠りこける。

さすがレベル100で魔道士級ジャベックのテレーゼだ。

この様子ではエルフィール並みに相当戦闘学習もしているな。

これで簡単に盗賊たちは全滅だ。

俺は正体を隠したままで三人に礼を言う。


「あの、ありがとうございました。

おかげで助かりました」

「何の、そなたらが無事で良かったわ」

「うむ、それが何よりだ」

「その通りでございます」


むむむ・・・男爵仮面はともかく、グレイモンがそのセリフを言うのは違和感があるな~

しかし、ともかく俺の正体はばれていないようなので、この場はとっとと退散するに限る。


「はい、大丈夫です、本当にありがとうございました。

それでは失礼いたします」


そう言って、俺がミルキィと共に、そそくさとその場を去ろうとすると、男爵仮面が声をかけてくる。


「いや、待ちなさい」


ギクッ!


「はい、何でしょう?」


呼び止められた俺は、油の切れた機械のようにギギギ・・と後ろの三人を振り返る。


「この森は魔物も出るし、今のようなならず者もいる。

そなたら二人では心もとないであろう?

入り口まで我らが送って行こう」


おおっ!さすが正義の味方、男爵仮面!

弱い者の味方だ!

しかし今それは困る。

俺は必死にその申し出を断る。


「いえっ!大丈夫です!

二人で何とかなりますので」

「さようか?」

「はい、では皆様もお気をつけて・・・」


最後に俺がそう挨拶すると、伯爵仮面二号が優雅に答える。


「はい、私どもはもちろん大丈夫です。

シノブ様もお気をつけて、エレノア様によろしく」


・・・・!

テッ、レッー、ゼェーーー!!

なぜ、ここで俺とエレノアの名前を出す?

当然の事ながら、途端に残りの二人が騒ぎ出す。


「シノブ?あの少年か?」

「何?シノブだと?テレーゼ?

どういう意味だ?」


おいおい、伯爵仮面!

お前、伯爵仮面二号の正体、自分でばらしているぞ?

驚く二人に、テレーゼは落ち着いて返事をする。


「はい、そちらの金髪の方はシノブ様でございますが?

もう一方は存じ上げませんが?」

「そう言われてみれば、顔は似ているが・・・」

「うむ、金髪だし、エレノアが一緒でないので、気がつかなかった」


やはりグレイモンに取って、俺はエレノアのオマケか?

しかしばれてしまっては仕方がない・・・

こうなったら事情を話すか?

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