0139 魔法協会からの要請

 翌日、ミルキィと二人で魔法協会に行くと、いきなり受付で捕まった。


「あ、シノブさん、ミルキィさん!」


受付にいたのはシルビアさんとエトワールさんの後輩で、二人と交代で受付をしている、二人とも正規の魔導士で、オレンジの髪でポニーテールのカリーナさんと、短い銀髪のイルーゼさんだ。


「ああ、こんにちは、カリーナさん、イルーゼさん。

何かシルビアさんとエトワールさんが僕たちを呼んでいると聞いたんですけど?」

「ええ、先輩たちから頼まれています。

御二人が来たら御案内するようにと」

「そうなんだ?」

「ええ、私が御案内します。

 イルーゼ?受付しばらく頼むわね」

「ええ」

「ではこちらへどうぞ」

「はい」


俺たちはカリーナさんについていく。

会議室のような部屋へ行くと、そこでは二人が待ち構えていた。


「いらっしゃい、シノブさん、ミルキィさん。

待っていたわよ」

「聞いたわよ!二人とも!

囮捜査で大活躍だったんですって?」


たった数日で、こっちまでもう話が広がっているのか?

なるほど、盗賊たちにも噂が広がる訳だ。


「ええ、まあ」

「それでうちでも二人に手伝って欲しいのよ」


そういう用件だったのか?


「ええ、でも結構噂がたって、もうだめみたいですよ?

若い男女の捜査官がいるって」

「そこは私達が考えたから大丈夫!

ちょっと待っててね!」


エトワールさんが一旦部屋の外へ出ると、何やら紅い髪で同じく赤い顎鬚の生えている、恰幅の良い、見た目が40代ほどの男性と一緒に戻ってきた。


「やあ、初めまして!

私は魔法協会ロナバール本部の第三警備隊長でドロイゼと申します」

「シノブ・ホウジョウです。

初めまして。

これは奴隷のミルキィです。

え~と、第三警備隊というのは?」

「ここロナバールでは警備隊がいくつかに分かれておりましてな。

第一が魔法協会の周辺を、第二が街中を、そして私の第三が街の外の街道や森、迷宮などの警備を担当しているのです」

「なるほど」

「ちなみに第四は航空魔道部隊で街の上空警戒を、第五はゴーレム遊撃隊で、ロナバール周辺の町や村への応援、その他にアイザックによる中央防衛部隊もあるわ。

魔法協会の魔道士は全員そのどれかに所属しているわ。

私とシルビアは本来、第二警備隊に所属しているの」

「でも今回は第三警備隊から頼まれたのよ」

「なるほど」


ドロイゼさんとエトワールさんの説明のおかげで、ロナバールの防衛体制の概略が分かった。


「御二人の活躍のお話は、アースフィア広域総合組合のグレゴール氏や、この二人からも伺っております。

早速ですが、エトワール達からお話したとおり、御二人には囮捜査の御協力をいただきたいのですが?」

「ええ、でも先ほども言いましたが、結構盗賊の間では噂が立っていて、もうだめだと思いますよ?」

「それに関してはこの二人から提案がありまして、私も初めて聞いた時には、そんな馬鹿な方法をと思ったのですが、たった今あなたを見て、なるほどと思いました」

「え、私を見て?一体どういう事です?」

「それは・・・まあ、この二人に任せておりますので・・・後はシノブさん次第という事で」

「はあ???」

「では、隊長?後はこちらで準備してよろしいですか?」

「ああ、よろしく頼むよ」


そう言ってドロイゼさんは部屋からいなくなった。


「???」

「さあ、じゃあ、シノブさん、囮捜査の準備開始よ~?」

「え?ちょっと、ちょっと?

まだ僕は引き受けるとは言ってませんよ?」

「え~?私達のお願いを聞いてくれないの?」

「残念だわ・・・私もシノブさんだけが頼りだったのに・・・」


少々芝居がかった二人に危惧を感じるが、この二人の頼みとあらば、仕方がない。


「え?いや、もちろん、御二人の頼みとあれば、いやとはいいませんが・・・」

「じゃあ引き受けてくれるのね?」

「ええ、まあ・・・」


俺の曖昧な返事に言質を取ったとばかりに二人はうなずいて、動き始める。


「では早速、準備開始よ!」

「準備って?え?え?」

「まずはそこに座ってね?」


俺が驚いている隙に、二人は恐ろしいほど手際よく、俺を椅子に縛り上げた。


「え?ちょっと?何で縛るんですか?」

「まあまあ、少しの間だから我慢してね♪」

「ちょっとの間だからおとなしくしてね?シノブさん」

「はい・・・?」


この二人に笑顔で言われると逆らえない。

二人はまず椅子に固定された俺の顔を蒸しタオルで拭く。


「ぶほっ!」


それから、顔に色々と塗りたくり細工をして髪型を変えていく。

しばらくすると満足したように、作業を終える。


「ふう、さあ、どう?ミルキィさん」

「まあ・・・素敵ですわ」


ミルキィは俺の顔を見て感心している。


「何?何をしたの?

ちょっと鏡を見せてよ!」

「はい、は~い」


俺の要望にエトワールさんが、いそいそと鏡を持ってくる。

そこに写った俺の顔は・・・完全に女だった。

それも俺が自分で言うのも何だが、可憐な美少女という感じだった。

俺はそれを見て、驚いて二人に言った。


「あの~これは一体・・・」

「だって、盗賊たちは囮捜査官を若い男女だと思っているんでしょ?」

「まあ、そうですが・・・」

「それならこうすれば、若い女の子二人になって、油断して襲ってくるでしょ?」


そうきたか・・・う~ん、確かに理屈はわかるが・・・解せぬ。


「あの~単に御二人の楽しみでやってませんか?」

「ま~さかぁ!」

「私達は仕事に忠実なだけですよ?」


そう言って二人はニコニコとする。

いや、絶対にこれ、あなた方の趣味でしょう?

俺が何か言おうとするよりも早く、二人が再び動き始める。


「はい、では続き、続き♪」

「ミルキィさんも手伝ってね」

「はい」


イカン!

ミルキィまで味方にされてしまった!

3人がかりでは勝ち目がない!

俺は縄を解いて椅子から立たせられると、3人が手早く俺の服をひん剥いて、いかにも可憐な少女っぽい服を着せられる。

いや~ん!やめてぇ!

ミルキィなど毎日風呂に入る時に俺を脱がして、朝は服を着せているので、手馴れたものだ。

いつの間にか金髪のカツラまでかぶらされている。

出来上がった俺の格好を見た3人は満足げだ。


「うん、中々良い出来ね」

「ええ、いいと思うわ」

「とても可愛いです!御主人様!」

「設定はどうする?エトワール?」

「そうね・・・親の仇を取る為に迷宮で修行を始めた姉妹って言うのはどうかしら?」

「だめよ、ミルキィさんは獣人なんだから姉妹では難しいわ」

「そうか・・・じゃあ親の仇を取る為に修行を始めた娘と、それに付き従う忠実な女奴隷では?」

「悪くはないけど、それだと強いイメージになって、にわか盗賊が警戒するんじゃないかしら?

もっとこう、いかにも弱々しくて襲いたくなる・・・」

「むむむ・・・そうねぇ・・・」

「・・・こういうのはどうかしら?

この二人は親友なのよ。

そしてシノーラちゃんとミルキィちゃんは・・・」


おいおい!何だかよくわからない話が始まったぞ?

シノーラって誰の事だ?


「あの・・・シノーラって、僕ですか?」

「ええ、そうよ、シノーラちゃんは、お父さんが迷宮から帰って来ないので、つい迎えに行ってしまったのよ。

そしてミルキィちゃんは親友が心配なので、一緒に迷宮に向かったの」


・・なんだ?そのガバガバな設定は?

だいたいどうして、そんな弱々しい二人が迷宮に行こうとする?

そもそも迷宮に行く前の魔物の森でやられるだろう?

なぜ、誰もその二人が行くのに反対しない?

しかもなぜ、こんなヒラヒラな服で行くのだ?

突っ込み所が満載過ぎる設定だ。

だが、二人はこの設定が気に入ったようだ。


「うん、いいわね!」

「でしょう?」


ええ~?

いいのか?それで?


「それで行きましょう!」

「はい、わかりました!」


ミルキィも返事をしないでよろしい!

俺は一応二人に抗議をする。


「あ、いや、そんな設定は無理があるんではないでしょうか?」

「大丈夫!大丈夫!」

「そうそう、盗賊なんて何も考えていないから、これで十分なのよ」

「しかし・・・」

「ああ、せっかく格好を整えたのだから、ちゃんと良い所のお嬢さんという感じで振舞ってね?」

「御主人様!やりましょう!」

「だから・・・」

「はい、無料馬車券を渡しておくわね」

「いや、その・・・」

「面倒だから馬車券は10枚くらい渡しておくわね」


ぬぬぬ・・・それは最低でも2・3回は盗賊をとっ捕まえて来いという事ですか?

結局、俺の抵抗も空しく、俺とミルキィは可憐な少女同士、父親を迷宮に探しに行くと言う設定で、森に送られる事となってしまった。

いと、哀れ・・・


 かくして俺とミルキィは再び囮捜査官として盗賊退治に出かける事となった。

しかし、こんなあからさまな少女の格好二人で、本当に盗賊たちが釣れるのだろうか?

逆に怪しさ全開なんじゃないのか?

と思った俺だったが、森を仲良く二人で手を繋いで歩いていたら、早速盗賊がひっかかった。

おいおい!まだ歩き始めて10分も経ってないぞ?

俺も驚きだ。

バラバラと6人ほど出てきた男たちが、俺たちを取り囲み、声をかける。


「そこの娘二人、止まれ!」

「何ですか?」


一応俺も声色を使って女声で答える。

もっともまだこの体は変声期前だから、元々女声っぽいけどね。


「へっへっへ、俺たちは盗賊さ、運が悪かったな、御嬢ちゃんたち」

「盗賊?そんな・・・」

「おとなしくすれば、痛い目には会わないですむぜ?」

「もっともヒィヒィ喚く羽目にはなるだろうけどな!」

「そうそう、ヒッヒッヒ・・」


・・・下品だ。

何だか芝居するのもあほらしくなってきた俺は、ため息をつきながら呪文を唱える。


「モルファルミィ・アローゼ」


途端に周囲が闇に包まれて盗賊たちが驚く。


「な、なんだ?これは?」

「一体、どうした?」


暗闇の中で慌てふためく盗賊たちに、俺は声をかけて呪文を唱える。


「お前らな~もう少し考えて襲えよな~・・・ルーモ」


明るくなった防壁内で盗賊たちが俺に質問する。


「何?どういう事だ?」

「こんなか弱い女の子二人で、こんな危険な場所に来るわけないだろう?

少しは状況を疑えよ?」

「そんな、馬鹿な?

俺たちは小娘二人だから、これなら大丈夫だと思って襲ったんだぞ?」

「そうだ、俺たちは用心深いんだ!」

「こんな娘っ子二人なら絶対に勝てるしな!」

「そうだ!若い娘なら高く売れるしな!」

「少々心は痛むが俺たちの稼ぎのためだ!

あきらめてくれ!」


得々と説明する盗賊たちに俺は怒鳴った。


「あほう!そもそも俺は男だ!」


そうは言っても、この今の俺の可愛らしい格好では説得力も迫力もない。

しかし盗賊たちはそれを聞いて、俺の予想以上の大きなショックを受けた様子だ。

俺たちに向かって口々にわめきたてる。


「何?男だと?」

「そんな馬鹿な!」

「人を騙すなんて何て奴だ!」

「全くだ!そんな可愛らしい格好で俺たちを騙すなんて!」

「人間の風上にもおけん!」

「まさか?そっちの獣人も男なのか!」

「お前ら!人に嘘を言ってはいけないと教わらなかったのか!」


騒ぎ立てる盗賊たちに、俺は再び怒鳴った。


「お前らが言うな!」


俺とミルキィは速攻で盗賊どもをぶちのめしたのだった。

俺たちは手際よく、盗賊たちを紐で全員を捕縛して捕まえると、例によってフードを被って正体を隠してから魔法防壁を解いて、魔法協会に連れて行った。


「捕まえてきましたよ~」


俺たちが盗賊を引き渡すと、シルビアさんとエトワールさんは大喜びだ。


「やっぱり!私達の読みは当たったわね!」

「ええ、そうね、エトワール」

「なるほど、これは凄い!

これほど早く捕まえてくるとは・・・素晴らしい成果ですね?」


ドロイゼさんも力強くうなずいて、感心している。

三人とも大絶賛だ。

どうもこれだけ感心されては、やはりこの一回では済ませそうにない。


「え・と・・・じゃあ、もう一回行ってきます・・・」

「よろしくぅ~」

「期待しているわ」

「御協力ありがとうございます!」


 俺たちは三人に挨拶をすると、再び囮捜査へと向かった。

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