0138 商売人カベーロス
俺の横に座っている男がニヤリと笑って話しかけてくる。
「よお、俺の名はカベーロス。
よろしくな」
「なぜ、我々の名を?」
「おいおい!
あれだけ派手に組合長に紹介されて、それはないだろう?
あんたらの事をわかってないのは、今みたいな間抜けな連中だけさ。
まったくあんなので双闘士とか言っているんだから笑っちまうよな?
そもそも俺に言わせりゃ、あんな連中よりもあんたがた二人の方がよほど双闘士らしいがね?」
なるほど、確かに言われてみればその通りかも知れない。
「それで?我々に何の用事です?」
「そう警戒しなさんな。
何、君たちとは一回話してみたかったんだがな。
今までは怖いお姉さんがいたんで、ちょいと声をかけにくくてな。
今日はその人がいないみたいだから、良い機会なんで声をかけてみたという訳さ」
怖いお姉さん?
なるほど、エレノアの存在はこういう手合いの牽制にもなっていたという訳か?
「なるほど、それで?」
「いや、別に今日の所はこれと言った用事はないさ。
ただ自己紹介をしておこうと思ってな」
「自己紹介?」
「ああ、今も言ったが俺の名はカベーロス。
ここの組合員だが、迷宮探索者や魔物狩人と言うよりは商人だ」
「商人?」
「ああ、買い付けでも売りたいものでも、何か普通でない品物の事なら俺に連絡をくれ。
大抵の品物はそろえるし、さばける自信があるぜ?」
なるほど、商人ね?
そういう人も組合員にはいる訳だ。
この人の下げている登録証を見ると銅の板で、上半分には緑の石が嵌っている。
下半分は黄色い線だ。
つまり三級の魔戦士だ。
しかし俺が鑑定してみると、レベルはなんと103だ!
これで何でこの人は三級にいるんだ?
俺はその点を怪しんで、わざとらしく尋ねてみた。
「商人にしてはずいぶんとレベルが高いんですね?」
「おっ!流石だね?
俺を鑑定したのかい?
何、俺が組合員になったのは商売のためでね。
ここの組合員で三級にでもなれば、かなりの信用がある。
俺は魔法は多少使えるが、魔道士になれるほどじゃないんでね。
だから信用を得るために、ここの組合員になったのさ。
何しろ商売には信用がつきものだからな。
商売をする時にこの登録証を見せれば、相手もそれなりに安心してくれる。
しかしこれ以上等級が上がると、義務ミッションは面倒だし、年間登録料も馬鹿にならんしな。
商売をするには、この程度がちょうど良いのさ。
しかし、仕事の都合上、レベルは高いに越した事はない。
それにレベルが高ければ、義務ミッションも楽になるしな。
義務ミッションは例外もあるが、基本はレベルじゃなくて、組合の等級によって振り分けられるからな。
だからレベルは上げても等級なんざこのままでいいのさ」
その話を聞いて俺は感心した。
なるほど、この男の話は筋が通っている。
いつだったか俺に突っかかって来た連中のように、何が何でも上の等級を目指す連中がいる一方で、こういう考え方をする人間もいる訳か?
「なるほど、確かに商売するならそれが良いかも知れませんね?」
「わかってくれてありがとよ。
ああ、連絡先はここだ。
何か用事があれば声をかけてくれ。
よろしくな」
そう言うとカベーロスは俺に名刺を渡す。
それには
商売人 カベーロス
(アースフィア広域総合組合員3級)
と表記されていて、横には連絡先が書いてある。
「ま、売るのは品物だけじゃなくて、情報なんかも売っている。
あんたたちみたいな上級者相手には良い商売が出来そうだからな。
今日はそのための顔見せって訳だ。
それに俺の方からもあんたらに頼む事があるかも知れない。
そん時はよろしく頼むぜ!
まあ、俺の事は頭の片隅にでも入れといてくんな。
じゃあな」
それだけ言うとカベーロスは去って行った。
どうやら組合員にも色々といるようだ。
俺たちも次の囮捜査へ出かける事にした。
俺は組合を出る時に、ふと受付のアレクシアさんに聞いてみた。
「アレクシアさん、ちょっと聞きたい事があるんですが?」
「はい、何ですか?」
「今、そこでレベル200以上の人間なんていないっていう組合員の人たちの話を聞いたんですが、それを信じている人たちって結構いるんですか?」
「ああ、ジュリン一派のレベル限界200説の人たちですね?
数は少ないですが、ある程度いるようですね」
ジュリン一派?
あれを信じている派閥があるって事は、あんなのが結構いるのか?
「何でそんな事を信じているんですか?」
俺の質問にアレクシアさんは肩をすくめて答える。
「さあ、それは私にもわかりませんね。
でも誰かがそういった話をしてきても、適当に聞き流してください。
反論すると、結構しつこいですよ?
まともな人たちは相手にしません。
そういった人たちに共通するのは鑑定魔法を持っていなくて、自分勝手な事です。
何しろ自分で納得した事しか信じないのですから。
そして何故か変な歪んだ情報には詳しいのです。
彼らはせいぜい四級に上がれるかどうかなので、相手をする必要もありません。
それに万一、三級や二級に上がれば、現実を知って、考え方も変わります。
そんな人たちを相手にするのは、時間の無駄です」
アレクシアさんの言葉に俺もうなずいた。
う~ん、そんな変な奴らが組合員にもいるのか?
要は中二病の変種みたいなもんか?
それとも、もう少し病気が進んで、アポロ陰謀論者みたいな感じか?
まあ、確かにそんなのとは係わり合いにならないようにしよう。
「そうですね」
「中には言っている事があまりにも酷すぎて、組合運営の妨げになるので、処罰された人たちもいます。
しかしこういう人々は常に一定数自然発生するので、きりがないのです。
それに逆に考えれば、そんなおかしな情報に躍らせられるような人であれば、上には上がれませんしね。
昇級の時の良い判断材料になります。
四級以上の昇級の時は、かなり細かい昇級審査や面接もしますから、そんな事を口走れば、即、面接終了で、永久に上には上がれませんよ」
なるほど、それはそうだろうな。
「それとカベーロスって人、知っていますか?」
「ああ、商人のカベーロスさんですね?
そこそこ有名ですよ」
「どんな人かは知っていますか?」
「そうですね。
何でも商売にする人というイメージでしょうか?
悪し様にののしる人もいるようですが、商売に関しては信用できるようですよ?
もっとも
「なるほど」
確かにその通りだろう。
アレクシアさんの話に納得した俺は、ミルキィと一緒に組合を出ると、三度馬車に乗って迷宮の森へと向かった。
結局、その日の内に、俺とミルキィはにわか盗賊団を5組も捕縛した。
たった1日での成果に組合の人たちも驚いたらしい。
アレクシアさんが感心して俺たちを褒めちぎる。
「正直これほど、効果があるとは思いませんでした。
上の者もあまりの手際の良さに驚いています。
もしよろしければ、あと4・5日、場所を変えてお願いできないでしょうか?」
「わかりました、あと数日続けてみましょう」
こうして俺たちは数日の間、囮捜査をして盗賊団を捕らえ続けたのだった。
さすがに5日も経つと、盗賊団も少なくなったので、捜査は打ち切りとなった。
それに、どうやら盗賊の間で、若い男女の囮捜査官がいると噂になり始めたらしい。
あれほど注意していたのに、やはりどこかで見られていたのか?
それとも内部から洩れたのだろうか?
まあ、仕方がない。
無事に仕事が終わった俺たちにヘイゼルさんが報酬を渡す。
「お疲れ様でした。これは追加報酬です」
「あれ?ずいぶん多くないですか?」
「御二人のおかげでずいぶん盗賊団も捕まりましたし、囮捜査の仕方も色々とわかりました。
それも込みの報酬だと思ってください。
組合長の方からも多めに出しておいて、今後ともよろしくという事です」
「なるほど、わかりました」
俺たちは持ち出し覚悟で、餌としての高額な宝石付きミスリル短剣などを買ったが、結局は報奨金などで、それを上回った利益をだした。
俺とミルキィは、今回のミッションは中々やりがいがあった事などを話しながら家路へと着いた。
家に帰ると、アルフレッドに言伝を伝えられる。
「御主人様、出来れば近日中に、ミルキィと二人で、魔法協会に来て欲しいと、シルビア様とエトワール様から伝言が届いております」
「え?あの二人から?ミルキィと二人で?」
あの二人が俺を呼び出すのは初めてだし、ミルキィと二人で来て欲しいと言うのもよくわからない。
「はい、左様でございます」
一体何の用事なのかはわからないが、あの二人が来て欲しいと言うのであれば、俺にも異存はない。
「わかった、明日になったら行ってみるよ」
「はい」
エレノアを呼び出すのならばまだわかるが、俺とミルキィの二人を呼び出すとはよくわからない。
しかし取り合えず、明日はミルキィと二人で魔法協会に行ってみよう。
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