0112 ミルキィの扱い
しかし家に帰って夕飯の時に、俺は困った。
俺はミルキィとも一緒に食事をしたかったのだが、考えてみればミルキィは奴隷なのだ。
エレノアは奴隷だが、秘書監で、アルフレッドたちよりも上なので、これまで俺と一緒に食事をしていた。
俺も一人で食事をするのは嫌だったので、それで良かったのだが、ミルキィは今の所、ただの奴隷だ。
それもキンバリーの手伝いをするならば、一緒に食事は出来ない。
「困ったな・・・普通は奴隷の食事はどうしているの?」
俺の質問にエレノアが答える。
「普通でしたら、奴隷は奴隷小屋か、奴隷部屋があり、そこでまとめて食事をしますね。
もちろんわざわざ作ったりはせず、主人の残り物や、料理で余った食材を食べます」
ミルキィに専用の部屋はあるが、そこで一人で食事をさせるのも変だ。
それにあれは奴隷部屋のつもりで与えた訳ではない。
「そうか・・・う~ん・・・どうしようかな・・・」
俺は出来ればミルキィとも一緒に食事がしたい。
いや、本来ならば、アルフレッドやキンバリーとも一緒に食事をしたいのだ。
しかしそれではキンバリーたちの仕事の邪魔をする事になるし、本人たちも固辞をしていたので、エレノアとだけ食事をしていたのだ。
まあ、今はペロンも一緒に食事をしているが・・・
順位を考えるなら、俺と秘書監であるエレノアがまず食事をして、その次がアルフレッドとキンバリー、そしてその後が奴隷であるミルキィが一人で残り物を食べる事になる。
ちなみにペロンは気ままに食べたり、食べなかったりだ。
考え込んでいる俺にミルキィが声をかける。
「あの・・・奴隷の分際で差し出がましいですが、もちろん、私の食事は最後で構いませんので、御主人様はもちろんの事、どうぞ、皆様も気にせずに、先にお食事をしてください」
「う~ん・・・そうだけど・・・」
それはそうなんだけどさあ・・・何かミルキィがポツネンと、暗い所で一人で寂しそうに余り物を食べているのを想像すると、俺の胸に悲しい物がこみ上げてくる。
それだけで、俺は泣きたくなって来る。
俺としてはミルキィには俺と一緒に楽しそうに食事をして欲しい。
しかしこの世界の世間一般としては、ミルキィの言う事がごく普通なのもわかる。
あまり、この世界の世間の常識と違うやり方をするのも、問題があるだろう。
俺がまたもや考え込んでいると、アルフレッドが提案をしてくる。
「では、こうしたらいかがでしょうか?
御主人様は当分の間、御自身の修行と、この家の収入のために、迷宮探索をなさる予定でいらっしゃいますね?」
「うん、そうだよ」
「その時は基本的にエレノアさんやミルキィ、それに今後購入予定の奴隷たちを連れていらっしゃる訳ですね?」
「そうだね」
「では、御主人様と一緒に外へ出かける者たちを「外組」として、我々家の中で働く者は「内組」として、二組に分けてはどうでしょうか?
基本的に「外組」の人たちは、家では御主人様の身の回りの世話以外は何もしない。
食事も御主人様と一緒にするという事でいかがでしょう?
まあ、ペロンは食客で、また別扱いですが」
「なるほど・・・」
それ確かに一案だが、しかし果たしてそれで良いのだろうか?
「そうすれば、今後奴隷が増えても、外組と内組に分ければ担当も分かりやすく、よろしいのではないかと存じます。
外組の奴隷は御主人様と一緒に先に食事をして、私とキンバリーは内組の奴隷と後で食事をさせていただきます」
「そうだね、でもアルフレッドたちはそれで良いの?
普通、そんな家ないでしょ?」
その組み分けだと、一部の奴隷たちの方が先に食事をし、家令であるアルフレッドが、外組みに分けられた奴隷よりも、後で食事をする事になる。
おそらくこの世界では順番的におかしいはずだ。
「はい、確かに珍しい事ではございますが、各家にはそれぞれの決まりがございます。
当家にとって、それが御主人様の臨む形であれば、一番よろしいかと。
また今後人数が増えて来た時は、その時に考えれば良い事でございます」
本当にアルフレッドは主人の気持ちを汲み取って動いてくれる良い家令だ。
俺は改めてアルフレッドがうちに来てくれた事を感謝した。
「うん、ありがとう、ではさし当たってはそうする事にするよ。
ミルキィの仕事は僕たちと一緒に迷宮探索と、僕の身の回りの世話だ。
それでいいね?」
「はい」
こうしてミルキィは「外組」として、俺たちと一緒に食事をする事となった。
夕飯を俺とエレノアとミルキィとペロンが一緒に食べる。
この屋敷の食堂は広く、テーブルも大きいので、一回で12人位は一緒に食事をする事は出来る。
まずは俺がフェイアリンで乾杯する。
「それじゃ、まずは新しい奴隷のミルキィが参入した事で乾杯!」
「乾杯」
「乾杯ですニャ!」
「乾杯・・・です」
ミルキィが遠慮がちに乾杯する。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?ミルキィ。
僕は楽しいのが好きで、ミルキィは一応奴隷だけど、酷い扱いはしないから心配しないでいいよ」
「そんな、恐れ多いです」
「大丈夫ですよ、ミルキィ。
御主人様は例え相手が奴隷でも無下に扱ったりする方ではございません」
「そうですニャ!
ケット・シーのボクの事も、ちゃんと相手をしてくれますニャ!」
「はい、ありがとうございます」
「うん、ところでちょっと聞きたいんだけど、ミルキィはどうして奴隷になったの?
聞いた限りでは白狼族の村にいたんじゃないの?」
「はい、それは・・・」
ミルキィはちょっと辛そうだ。
「あ、言いたくないなら別に無理に話さなくてもいいんだよ?
ただ、ちょっと気になったから」
そう、俺はミルキィが奴隷にしては妙に清楚で品の良いのが気になったのだ。
もちろん、奴隷だからって、必ず品が悪い訳ではないだろうけど、ミルキィの場合は、どこか育ちの良さのような物がにじみ出ていて、どこかのお嬢さんのように感じるのだ。
俺はそこも気に入って、買う気にもなったのだ。
「いえ、大丈夫です。
確かに半年前までは、私は北の白狼族の村に住んでおりました。
しかし、突然どこかの貴族の軍隊が攻めてきて、村を蹂躙し、壊滅させられました」
「ええ?そんな事が?」
「はい、私の父は族長でしたが、果敢に戦って命を落としました。
私達の部族は勇敢で強いので有名だったのですが、不意打ちを受けた上に、圧倒的な数には勝てず、村は消滅しました。
私は母や弟と一緒に逃げていたのですが、混乱の中、いつしか散り散りになり、私は敵兵に捕まり、そのまま奴隷として売られました。
母と弟はどうなったのか、その後わかりません」
「そうだったのか・・・」
なるほど、族長の娘だったのか。
道理で気品があるはずだ。
それまで幸せに暮らしていただろうに、辛かっただろうな。
「それは・・・残念だったね・・・」
「はい、でもバーゼル奴隷商館では奴隷商館とは思えないほど、やさしく取り扱っていただきました。
アルヌ様が私に必ずお前にふさわしい御主人様を見つけてあげるからとおっしゃっていただいて、その言葉通り、こうして御主人様に買っていただいて幸せです」
「いや、ミルキィを幸せに出来るかどうかは、これからの僕次第だから。
もちろん、そうなるように僕も努力はするけどさ」
「とんでもありません!
奴隷の私をこんなに厚遇していただいて、こうして一緒に食事をして、同じ物をいただくだけでも勿体無いくらいなのに、ましてや自分の部屋までいただけるなんて、まるで奴隷ではないみたいです。
もう十分に幸せです!
これでは昔の村での私の生活よりも良い位です。
この御恩には必ず報いますから、どうか末永く可愛がってください」
いかん!この子、けなげだ!
俺はこういう子に弱い!
泣けてくる!
う~む、これじゃ何が何でも幸せにしてあげたくなるじゃないか!
「あ、ああ、そうだね」
「大丈夫ですよ。ミルキィ。
この家で御主人様と一緒に暮らしていれば、きっと幸せになりますよ」
「はい、私もそう思います、エレノアさん」
「そうですニャ!
ここは幸せを呼ぶ家ですニャ。
ボクもここで御主人様と暮らせて幸せですニャ」
「はい、ペロンさん」
「ボクの事はペロンでいいですニャ。
ボクもミルキィと呼びますニャ」
「はい、わかりました、ペロン・・・」
その後は皆で楽しく食事をした。
うん、家族が増えるっていいな。
そして食事が終わった後は・・・ふふふ、そう、風呂だ!
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