0083 悪役志願?

 俺はゴロウザにやくざの若頭のように脅しをかける。


「なんだと、お前?

そんな事を言って、この人を脅したのか?

やっぱり屑じゃねぇか!」

「い、いや、冗談だ!冗談だよ!」


冗談?こいつ冗談ですませる気か?

言い逃れをしようとするゴロウザを俺は許さない。

しかし一旦心を落ち着かせて、今度は逆に言葉を丁寧にして、静かに脅しをかける。


「ほほう?そうですか?

あなたは冗談でそういう事を言うのですね?

それならば今から私があなたの町に行って、あなたの息子とやらを捻りに行っても、もちろん、冗談ですませていただけますね?」

「なっ?何だと!貴様まさか、そんな事を?」

「あなたが御自分で言い出した事です。

当然あなたは自分がしようとした事と、同じ事をやり返される覚悟があって、この人を脅した訳ですよね?

ならば、もちろん私がそうしても文句はありませんね?」

「き、貴様そんな事をしてみろ!

俺が許すとでも思っているのか?」

「許す?あなたが許さないからと言って、どうなるんです?

私はあなたの息子を捻る。

それで終わりです、あなたはどうしようと言うのですか?」

「こ、殺してやる!」

「ほっほっほ!あなたの実力でですか?

どうやって私を殺すと言うのですか?」

「貴様、俺はタヌーマの町の実力者だぞ!

そんな俺に逆らって、ただで済むと思っているのか?」

「全くお馬鹿さんですね?

あなたがどこかの町の実力者だからと言って、そんな町に住んでもいない私をどうしようと言うのですか?」

「くうっ!」

「さて、ではとりあえず、あなたの息子とやらを、ちょいと捻りに行ってみますか。

オーレリーさん、行きますよ」

「はい、カーティフ様」


俺が外に出て行くと、ゴロウザが俺に寄ってきて、俺を阻止しようとする。


「行かせてたまるか!」

「おどきなさい!」


俺にすがりつくゴロウザを、俺は無慈悲に突き飛ばす。

ゴロウザは遠くへ転がるが、すぐに起き上がって再び俺に飛びかかってくる。


「やめろ!」

「さっきも言いました、あなたの力で私に敵うと思っているのですか?」


しかしゴロウザは俺の脚にしがみついてくる。

ふふふ、まったくイライラさせるのがうまい奴だよ。


「カーティフ様、よろしければ私が代わりにこの男の息子とやらを、軽く捻りに行ってまいりましょうか?」


おっ、エレノア、ナーイス!

俺もだんだんと、どこかの悪のボスな気分になってきたよ。


「ほほ・・・そうですね。

こんな人ごときに私が出るまでもないかもしれませんね。

それもいいかもしれません」

「なっ!やめろ!やめてくれ!」


必死になって俺たちを止めるゴロウザに俺はニヤリと笑って答える。


「では少々余興でもしましょうか?

あなたが私に勝てたら息子を捻るのをやめてあげましょう」

「な、何だと!」

「いかがです?」

「わかった!」


そう言うとゴロウザは必死になって俺に戦いを挑んでくる。

しかし当然の事ながら俺には全くかなわない。


「うざいですよ」


俺は片手でゴロウザを跳ね飛ばす。

そして俺はゴロウザに素晴らしい思い付きを披露する。


「そうだ!

 私は左手だけで戦ってあげましょう。

少しぐらいは楽しめるかもしれませんよ?」

「なに?」

「せいぜい頑張ってくださいね?」

「うお~!」


ゴロウザは俺に向かって来るが、もちろん俺には通じない。

ゴロウザが振り下ろした手刀を、俺は軽く首の付け根部分で受けると、ニャリと笑って答える。


「やはり、レベル75ではそんなもんでしょうねぇ?」

「くっ」

「参考までにあなたが戦っている私の魔力量は・・・」

「?」

「53万です」

「なっ!」

「ですが

 もちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんからご心配なく・・・」


クックック・・・驚いてる、驚いてる!

実はこのセリフ、一回でいいから言ってみたかったんだよなぁ~

悪の帝王気分もちょっといいもんだ。

しかしエレノアなら53万どころじゃないけどね。

ざっと100万以上は確実か。

エレノア怖えぇ~。


「さて、どうしました?

これで終わりならそろそろあなたの息子を捻りに行きますよ?」

「くっ」


ゴロウザが懸命に何度もかかってくるが、俺に左手一本で軽くいなされる。

その度に土にまみれ、その場で転ばされる。

しかしそろそろ頃合か?

そう思った俺は、次にかかってきたゴロウザを右足で蹴り飛ばす。


「なっ!貴様!左手しか使わないんじゃなかったのか?」

「サービス期間は終わったのさ」


俺がそう言うと、ゴロウザは愕然とした表情をした後で、突然何か呪文を唱え始めた。

ん?聞いた事のない呪文だな?

あれ?この呪文はまさか・・・?

俺はその呪文の内容を察して、反射的に防御呪文を張った。

その防御呪文を張ると、同時に相手が呪文を放つ!


「チア・マギア・エマンチーッ!」


その途端、凄まじい魔法エネルギーの塊が俺を襲う。

防御をしていたものの、流石に俺にも多少の被害が出た。

初めて体験したが、おそらくこれは話だけ聞いていた魔力全放出呪文という奴なのだろう。

俺にはとても敵わないと、気づいたゴロウザが最後の手段として、残った魔力量を全て放出して、俺にぶつけたのだろう。

後から気づいたが、エレノアが周囲に被害が出ないように俺たちの周囲と俺の前に防御魔法を張っていた。


危ない危ない・・・

レベル差が100以上あっても、危うく大怪我をするところだったよ。

まあ、エレノアがちゃんと対応していてくれたから良かったけれど、俺もまだまだ戦闘経験が足りないなあ・・・

しかし、こいつが子供のために必死なのはよくわかった。

性格に問題があっても人の親って事か・・・

ゴロウザは魔力量が0になったはずだが、何とか魔力回復剤を使って、ギリギリ意識を保っているようだ。

魔力量が0になると、本来なら気絶すると聞いているが、こいつもよほど子供が大切なのだろう。

そう考えると、ちょっと可哀想になってきたが、今後の事を考えて、こいつに反省をさせるためにも、もう少し悪役を続けるか?

うん、そうしよう。


「・・・今のは痛かった・・・

痛かったぞーーーッ!!」


うん、確かにちょっと痛かったしね。

ほぼ魔法力の尽きたゴロウザに、俺がジリジリと近寄る。

もはや、俺には適わないと悟ったゴロウザが、ついに土下座をする。


「お願いだ!あいつは、息子は妻が死んでから俺のたった一つの安らぎなんだ!

どうか殺さないでくれ!」


ようやく、素直になったゴロウザに俺もホッとして言葉をかける。


「なぜ最初からそうしなかった?」


うん、これ以上すると、本当にこいつを再起不能にしちゃいそうで、困ったからね。

もちろん、俺は最初からゴロウザの息子を捻る気などない。


「ところで、オーレリー?」


俺が声をかけるとエレノアはため息をついて答える。


「わかっています。

その人の息子も助ければよろしいのですね?」

「さすが!

オーレリーは気が利くね」

「まったく御主人様のお人好しには負けます」

「はは、ごめんね」

「いえ、でも、御主人様のそういうとこ、私は好きですよ」


にゃは~、ボクはそんなエレノアが100倍も好きです。

蕩けそうな俺だったが、気持ちを引き締めなおしてゴロウザに話しかける。


「では、案内してくれ、ゴロウザ」

「は、はい」


俺とエレノアはゴウロザやルロフス夫妻と共にタヌーマの町に向かった。


タヌーマの町について、無事にゴロウザの息子の治療も終わった。


「ではこれで我々は行きます。

言っておきますが、これ以上、絶対に私たちの事を広めないように!

良いですね?」

「はい、それは絶対に!」

「もし、誰かに私達の事をきかれたら、旅の者でどこに行ったかわからない、と言っておきなさい」

「はい」

「ルロフスさん、あなた方もですよ?」


エレノアがルロフス夫婦にも釘を刺す。


「はい、それはもう・・・」

「それとゴロウザさん?

あなた、これ以上あこぎな事をやったら、私はあなたの腕だけではなく、次は息子さんと、家屋敷もろとも消し炭にしますからね?」

「は、はい」

「これをよく見ておきなさい!」


そう言うと、俺は念のため庭にあった大木に魔法を放ち、一瞬で消し炭にする。

その消し炭の周囲はメラメラと燃えて、天を焦がす。

その様子を見て、ゴロウザもルロフス夫婦も度肝を抜かれたように立ち尽くす。


「はっはっは!どうです?ゴロウザさん、ルロフスさん?

 こんなに綺麗な花火ですよ?」

「こ、これは・・・」

「いいですか?3人とも口が軽くなったり、悪さをしたくなったりしたら、この消し炭を見て私の事を思い出しなさい!わかりましたか?」

「は、はい、決して誰にも言いません!」

「我々も二度と誰にも話しません!」

「誓って!」


3人が俺にそう話すと俺もうなずいて返事をする。


「よろしい、ではさらばです。

さあ、行きましょう、オーレリーさん」

「はっ、かしこまりました」


そう言って、メディシナーの町に俺たちは戻った。

うん、何か今回、俺はどこかの悪役感バリバリだったが、まあいいか?

それはそれでちょっと楽しかったしね。

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