0005 よろず屋

 翌朝、食事をすると、クラウスの案内で、まずは道具屋に行ってみた。

そこは確かに道具屋というよりも、田舎のよろず屋商店のようだった。


「こんちは!ドロテアばあちゃん!」


店の奥に座っていた老婆を見ると、昔の駄菓子屋の主か、田舎の商店の店番しているおばあさんなどを髣髴ほうふつする。


「おや、クラウスかい」

「今日はこの人を案内してきたんだ!」

「へえ、誰なんだい?その人は」

「シノブ兄ちゃんさ、僕をアプロから助けてくれたんだ!強いんだぜ」

「で、何をしにきたんだい?」


ドロテア婆さんの質問に俺が答える。


「少々品揃えを拝見してみたくて」

「おや、そうですか?でもこんな田舎の店に大した物なんかありませんよ」

「いえ、まあ、その、私はかなり遠くからきたので、珍しい物もあるかもしれません」

「そうですか?まあ、どうぞご自由に見てください」

「はい」


俺は古ぼけた狭い店の中を見回してみたが、確かにそこはこれといった物はないように見えた。

しかし何と言っても、俺が初めてみる、この世界での店だ。

それを見るだけでも新鮮な体験で楽しい。

店の中には包丁やまな板、壷、茶碗、皿、ほうき、手ぬぐい、桶やたらいなどの日用品の他に、木剣や小型のナイフ、回復薬や毒消しなども売っている。

へ~火打ち石みたいな物まであるぞ?

もっとも、ライターはおろか、マッチも無い世界だから当然か?

ふと、店の隅の方を見ると、何か木の棒の先に、尖った黒い石を紐でくくりつけた槍のような物が立てかけてある。

しげしげとよく見てみると、俺にはその尖った黒い石に見覚えがあった。

以前、石器の博物館に行った時に、記念に土産として買った石に、おそろしく似ているのだ。

俺はもしやと思い、その槍を鑑定してみた。

すると、それは俺の予想通り「黒耀石の槍」だったので、驚いた。


(へえ~こんな物まであるんだ?)


前世では博物館にでも行かなければ、見る事もない、あまりにも珍しい物が、普通に日常的にあるのを見て、俺は少々感動した。

しかし、これでは中世ではなく、石器時代のようだ。

それとも、この世界では結構普通の武器なのだろうか?

そういえば何かの本で、黒耀石の槍は鉄の槍にも劣らないと読んだ事がある。

一見、こんな石器時代の武器だが、意外に銅の剣よりも強いのかもしれない。

俺が物珍しく、店の品物を眺めている間、クラウスはドロテア婆さんと話し込んでいる。


「これからこの兄ちゃんは魔物を倒しに行くのさ」

「魔物を?」

「うん!森の奥の迷宮にね」

「ほぉ~迷宮まで?」


驚いたように老婆が話す。

あまり迷宮に行く者がいないから珍しいと思ったのか、それとも俺が迷宮に行くにはふさわしくない者に見えたからなのかはわからない。

俺は品物を見ながら適当に答える。


「ええ、ちょっと、どんな所か、興味があるのでね」

「まあ、小さな迷宮だし、下の方に行っても何もないらしいけどね。

ああ、でも、本当に迷宮に行くのなら、何か魔物が置いていった品物があれば、ここで買うよ」

「魔物の?」

「ああ、ほれ、奴らはたまに倒すと、何か落としていく事があるじゃろ?それじゃよ」


ああ、いわゆるドロップアイテムの事か、それを買い取るという事ね。


「わかりました、何か見つけたらもって帰りましょう」

「ああ、よろしく、迷宮の上の方は大した事はないけど、下の方ではそこそこ珍しい物が手に入るっていうからね」

「なるほど」

「ただし、一人で行くならくれぐれも気をつけな。

無茶はしないようにね。

3階より下の魔物は結構強いらしいからね」

「はい、ありがとうございます」


そんな会話をしながら、俺は店にあった銅の剣を手に取ってみる。

長さ30cmほどの短めの赤銅の剣だ。

刃の部分は古い十円玉のような感じの色で、柄の部分には粗末な布切れが巻きつけてある。

俺も神様から貰った銅の剣を持っているが、長さはこの倍ほどで、ピカピカの赤銅色に光っている。

それと比べれば、確かに正直良い物ではないだろう。

普通の剣としては短いが、短剣と言うほど短くもない。

えらく中途半端な剣だ。

試しに鑑定してみると、攻撃力は俺の持っている銅の剣の半分もない。

材質も悪く、手入れもしていない古びた剣だからだろうか?

もちろん特殊効果などはない。

俺は老婆に値段を聞いてみる。


「この銅の剣の値段は?」

「銀貨2枚」


古びた銅の剣が銀貨2枚か。

まだこの世界の相場はわからないが、おそらく、妥当な値段ではないのだろうか?


「こちらの木剣は?」


近くにあった、銅の剣よりは刀身が倍は長い、木剣の値段を聞いてみた。


「大銅貨7枚」


なるほど、気になった俺は、ついでに先ほどの槍の値段も聞いてみた。


「こっちの槍は?」

「大銀貨1枚だよ」


うはっ!「黒耀石の槍」高ぇ!

銅の剣より全然高いじゃん!

やっぱり良い物なのか?

少々、黒耀石の槍にも引かれたが、俺は手に取った銅の剣を差し出した。


「では、これを下さい」

「はい、毎度あり」


俺はこの世界の店に入った最初の記念として銀貨2枚で、古びた銅の中途半端な剣を買う。

小袋から銀貨を2枚だして、老婆に渡す。

この世界で初めての買い物だ。

買った銅の剣を背袋にしまおうとするが、考えてみれば抜き身の剣だ。

いくら古びた銅剣とはいえ、これでは刃先が危ない。


「これに合う鞘はありますか?」

「ああ、そうだねぇ・・」


老婆はその辺をゴソゴソと探すと、それらしい物を見つける。

古びた革の鞘だ。

一応銅剣を入れてみると、多少大きさが違うが、何とか鞘として使えるようだ。

それを見た老婆が話す。


「ま、大した物じゃないから、これは大銅貨3枚でいいよ、買うかい?」

「はい、これも下さい」

「毎度あり」


俺は大銅貨3枚を出すと、鞘を買って、銅の短剣を収めると、背袋にしまった。


「では、行くか?」

「うん」


店を出ると、村を出てクラウスに森へ案内してもらう。

昨日と反対の場所から村を出ると、なるほど500mほど先には森が広がっている。


「ほら、あそこが森だよ」

「なるほど、ありがとう。

じゃあクラウスはまた昨日みたいな事になると危ないから村へ帰っていなさい」

「うん、何か面白い物を見つけたら、後で見せてね!」

「わかった」


俺はクラウスにそう話すと、別れて森に入っていった。

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