0004 初めての魔法
案内された部屋は六畳ほどの部屋で、ベッドとテーブルと椅子がある。
ごく普通の田舎の宿屋のような感じだ。
「ここが御部屋になります。
これから夕飯を作りますので、出来上がったらお呼びしますね。
旅でお疲れでしょうから、それまではゆっくりとお休みください」
「はい、お願いします」
「では、また後ほど・・・」
そう言ってメリンダさんは1階へと戻る。
俺は背袋をテーブルの上に置いて、部屋にあったベッドにバタン!と横になると、大きくため息をつく。
「ふう~っ!!」
まずは、これでこの異世界で仮の根拠地的な物を確保する事が出来た。
しばらくはここを宿として利用できそうだ。
今後はここを中心に村やその周辺を調べていこう。
それにしても本当に異世界に来たんだなあ・・・と感慨深く思う。
しばらく横になってボーッとした後で、俺は起き上がると、本格的にマギアサッコの中の物を確認する事にした。
さすがに外では魔物も出るからおちおちと確認できなかったからね。
俺はマギアサッコの中を順番に調べていった。
武器、防具、様々な道具、食べ物・・・
ちゃんと神様は俺が頼んだ物を全ていれてくれたようだ。
俺は試しにちょっと金の延べ板を出してみた。
1カルガルンの物と、10カルガルンの物を1枚ずつだ。
金の延べ板など前世では持った事はないが、実際に持ってみると、なるほど重い。
これが1カルガルンと10カルガルンの重さか?
地球で言えば、ほぼ1kgと10kgって事だよな?
10カルガルンの方など、片手では持てないほどに重い。
まあ、10kgの米袋を片手で持つのと同じなのだから当然だな。
両方の板を打ち鳴らしてみると、カン!カン!と金属音がする。
う~む・・・こんな金の塊を、今の俺は大小100枚も持っているのか?
まあ、こんな物は当分使う事がないだろうし、大事にしまっておこう。
ひょっとしたら一生使わないで済むかも知れない・・・
何しろ自分は貨幣だけでも、令和の日本に換算して、ざっと10億円以上を持っているんだからな。
普通に生活をしていた自分の前世を考えれば、それ以上の金を使うなど、ちょっと考えにくい。
ガイドブックを読んだり、神様に聞いた限りでは、この世界でもそれだけの金があれば、普通の暮らし程度であれば、一生金には困らないはずだ。
俺はそう考えて、両方ともマギアサッコに収納した。
これを使う事になるのは余程の事態だろうな。
俺はノートや鉛筆、双眼鏡、回復薬など、いくつかの物を背袋に入れなおして、明日からの準備をしてみた。
一通りの事が終わると、夕飯が出来たらしく、クラウスに呼ばれて食堂へ行った。
オイルランプの明かりに照らされながら夕食を食べるなんて、若い頃にキャンプで食事をして以来の事だった。
最近はキャンプでもみんな電気ランプだしな~
メリンダさんの用意してくれた夕食は、豆を煮込んだものと、全粒粉で作ったようなパンだった。
夕食をとりながらメリンダさんに聞いた。
「ところで、この辺でレベル上げに適当な場所ってありますか?」
村の様子も知りたいが、まずはレベルの向上だ。
やはり、どうもレベル10というのは低すぎるようなので不安だ。
一刻も早く、レベルを相応に上げた方が良さそうだ。
この村は平和そうな村なので、大きな町に行く前に、多少の揉め事に巻き込まれても、何とかなる程度のレベルまでは、ここで上げておきたい。
「レベル上げですか?」
俺の質問にメリンダさんが逆に問うように話すと、クラウスが答える。
「やっぱり、北西の森?」
「そうね、この辺だと、北西の森かしらね?」
メリンダさんが同意してうなずく。
「その森の方には相当強い魔物がいるのですか?」
「ええ、北西の森では、アプロを初めとして、そこそこ強い魔物が出ると聞いています」
「あとね、迷宮があるんだ」
「迷宮?」
俺が尋ねると、メリンダさんが説明する。
「ええ、もちろん、話だけで私たちは行った事がありませんが、森の少々奥まった所に、小さな迷宮があるそうです。
小さいので、もう探索つくされて、中に何もないのはわかっているので、あまり人は行きませんが、たまに村に来たレベル上げ目的の冒険者などが行くようです。
そこにはかなり強い魔物もいるとか」
「ほほう?」
強い魔物?
どれ位かわからないが、とりあえずレベル上げに良さそうな場所っぽいな。
「後は東の金剛杉の森にも強い魔物が出るそうですが、そこは村からかなり遠いし、レベル30以上はないと難しいと聞いています」
レベル30?
それは今の俺には少々無理がありそうだな?
とりあえずは北西の森と迷宮とやらに行ってみるか?
「この村に武器屋とか防具屋はありますか?」
もちろん、自前の物は一通り持っているが、実際にこの世界で売っている物を見てみたかった俺は尋ねてみた。
「いいえ、ここは小さい村ですから専門の店はありません。
道具屋が兼任して多少売っている程度で、正直シノブさんが今持っている武器よりも良い武器などはないでしょう。
この村の周辺の魔物を相手にする程度なら小型ナイフか、せいぜい銅の剣でもあれば十分ですから。
確か一番良い武器でも鉄の槍程度で、道具も日用品の他は、せいぜい回復薬と毒消しを売っている程度ですよ」
「そうですか、でも一応そこへも行ってみます」
「僕が案内してあげるよ」
「うん、でも明日で良いよ、今日はもう遅いし、疲れたから寝よう」
「うん、そうだね」
メリンダさんとクラウスにお休みを言って、自分の部屋につくと、俺は魔法を使ってみる事にした。
鑑定やマギアサッコも魔法と言えば魔法だが、あれは単に対象物のステータスを見たり、単なる入れ物のような物だ。
今度は明かりの呪文で、本当に魔法らしい魔法だ。
そういう意味では魔法初体験だ。
俺はドキドキしながら明かりの呪文を唱える。
「ルーモ!」
呪文を唱えると、シュバッ!とまばゆい光が灯り、部屋の中央で光り続ける。
「へえ、こんな感じなんだ」
部屋を照らす明かりを見て俺は感心する。
試しに恐る恐る光の中に指を突っ込んでみたが、別に熱くも何ともない。
どうやらこれは純粋に光りだけのようだ。
ちょっと手のひらで押してみると、光りの位置が動く。
(本当に魔法が使える世界なんだなあ・・・)
実際に魔法を使ってみて、自分が転生したこの異世界を実感する。
俺は炎や氷の呪文も試してみたかったが、部屋の中で加減もわからなかったので、さすがにそれはやめておいた。
そして、初めて自分の魔法で作った光を見ているうちに、段々眠くなってきた。
明日は迷宮に行って魔物と戦うのかと思うとワクワクしてきたが、初めての異世界体験で疲れていた俺は、いつの間にか寝入っていた。
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