0003 少年と村

 村は遠くに見える・・・と言っても、実感では500mほど先だ。

のんびりと歩いていた俺に、何かが向かってきた。

片方は少年のようだが、もう片方は何だろう?

うん、こいつは見覚えがある。

確かイノシシに似ている魔物の一種で、名前はアプロだ。

しかしこいつのレベルは8か、そこらだったはずだが?

この辺にいるのだろうか?

俺がそんな事を考えていると、こちらに向かって走ってきたその少年が叫ぶ。


「うっわー!助けて!そこの人、助けて!」


とりあえず魔物が邪魔だったので、鋼の剣をふるって攻撃をすると、一撃で魔物は倒れた。

レベル8の魔物でも一撃だ。

鋼の剣とは言っても、さすが3倍攻撃の特殊効果つきなだけはある。

この世界に来て、初めての戦いらしい戦いに、俺は感動していたが、それを見た横にいた子供が叫ぶ。


「うっわー!すっごーい!一撃でアプロをやっつけるなんて凄いね!」


魔物に追いかけられていた少年が感心して話しかけてくる。

茶色い髪で青い目をした男の子だ。


「助けてくれてありがとう!お兄さんは?」

「ああ、シノブと言うんだ」

「どこへ行くの?」

「さしあたりは、そこの村へ行く所だったんだがね」


俺はもうかなり近くなっている村を指差す。


「僕の村に?じゃあ、僕が案内してあげるよ」

「そうだな、じゃあ一つよろしく」


俺がそう言うと、少年は歩き出す。


「僕の名前はクラウスって言うんだ、10歳だよ」

「そうか、ところでさっき君が追いかけられていたのは、アプロだったと思うが、この辺に結構出るのかい?」


俺の問いかけに少年は首を横に振って答える。


「ううん、全然出ないよ。

村のあっち側の森には出るって聞いたけど、こっち側に出てくるのは初めて見た。

だから僕はいつも村のこっち側に来る事にしているんだ。

この辺には青ナメクジとジェールか角ウサギ、強い奴でも大芋虫位しか出てこないし、それも滅多に出てこないんだ。

それだったら僕にも何とか倒せるんだけど、あんなのがこの辺に出たのは本当に初めてだったんだ。

村に帰ったらみんなに教えなきゃ」


少年クラウスを鑑定してみると、なるほど


平人 男性 10歳 レベル7


と出ている。

平人と言うのは確かこの世界の普通の人間種の事だ。

エルフやドワーフなんぞと区別するためにそういう名称らしい。

この子は、おそらく子供にしては強いほうなのだろう。

しかし魔物が出ると知っていて、一人で村の外に出るとは、ずいぶんと無鉄砲な子供だ。


「村には何の用事できたの?」


クラウスに聞かれて俺はちょっと困った。

何しろこちらとしては初めて見る村だから寄ってみるだけだったのだが、そう話す訳にもいかない。


「まあ、旅の途中に、ちょっと一晩泊まるつもりで寄る感じかな?」


俺が適当な理由をつけて話すと、クラウスが軽く驚く。


「そうなんだ!じゃあ、うちも宿屋をやっているから、うちに泊まりなよ!」

「いいのかい?」

「もちろんさ!」

「じゃあ、とりあえず行くだけ行ってみるかな?」


そう言うと俺はクラウスについていった。

子供の言う事なので、当てにはならないかも知れないが、取り合えず他には何も知らないので着いて行くしかない。

村に到着して、そのままクラウスの後について村の中を歩く。

もはや夕闇が迫り、薄暗くなって来ているせいか、村には誰も歩いてはいなかった。

まあ、街灯はないんだし、余程の用事が無い限り、夕方以降に外出するなんて事はないだろう。

日本だって、江戸時代はそんなもんだ。

村をほぼ横断して反対側に行くと、そこの村の西側の入り口にほど近い家が、クラウスの家のようだった。

それは村にある他の家よりも大きく見える。


「ただいまー!」


クラウスは勢いよく扉を開けて家に入る。

入った場所は広間になっていて、山のバンガローかロッジの食堂みたいな感じだ。

いくつかテーブルや椅子が置いてあって、明らかに少人数の集団が食事をしたり、休憩を出来るようになっている。

なるほど、この子が自分の家は宿屋もやっているというのは本当のようだ。


中に入ると10代後半に見える女性が迎えた。

クラウスと同じ濃い茶色の髪で、青い目の美人さんだ。

この子のお姉さんかな?


「ただいま!母さん!」


え?お姉さんじゃないの?この人?

若いな~・・・そういえばこの世界は200歳まで寿命があって、中々老けないから100歳過ぎでも、見た目は30代位に見える場合もあるとか神様が言っていたな。

そう思って、俺はこの母親を鑑定してみる。


平人 女性 28歳 レベル12


おう!10代かと思ったら30直前か!

しかもこのお母さん、今の俺よりレベル上じゃん!

そうは言ってもおっとりしていて、戦闘経験はなさそうで、年齢的に生活をしているうちに自然と上がったレベルな感じだ。


「おかえりなさい。

クラウス?こんな遅くまで、どこへ行っていたの?

心配していたのよ?

まさか、また村の外に魔物狩りに行っていたの?」

「うん、東側の外へ角ウサギ狩りに行ってたんだ!

そしたらアプロが出てきて・・・」

「だから一人で外へ出てはダメと行ったでしょう?

いくらこの辺の魔物が弱いと言っても、たまにはそういう強い魔物だって出てくる事がないわけじゃないんだから!」

「ごめん!ごめん!

でもさ!この兄ちゃんが助けてくれたんだ」

「そうですか?ありがとうございます。

本当にこの子は元気がいいのは良いのですが、あまりにも無鉄砲で、外に行っては魔物を狩りたがるので、いつか危険な目に会うかと思うと心配で・・・」


その心配は正しいと思う。

今日も俺がいなければ危ない所だったしね。


「そうですね。

御母さんの心配はもっともだと思います」

「そうなんです。

いくら言っても、この子は私の目を盗んでは、こうして外に行ってしまうし・・・あ、私はこの子の母親でメリンダと申します」

「私は旅の者でシノブと申します。

宿を探しているのですが、この村に宿はありますか?」

「ええ、ありますけど、うちも宿の代わりをしていますので、うちに泊まっていただいて結構ですよ」

「そうですか、ではここに泊まらせていただきます。

一泊おいくらですか?」

「いいえ、うちの息子を助けていただいたのですから、お金なんていただきませんよ」

「そういう訳にもいきませんよ」

「いいえ、本当に結構です」


そう言われてもこちらとしても初めての宿屋だ。

相場も知りたいしな。


「ううん・・・ではこの村の他の宿の金額は一泊いくらですか?」

「素泊まりで、銀貨2枚。

食事2食つきなら銀貨3枚のはずですわ」


確か銀貨1枚は令和の日本で千円位のはずだ。

銀貨3枚ならおよそ三千円だろう。

食事つきでも銀貨3枚とはずいぶん安い気がする。

大した食事ではないのだろうか?

それとも俺の換算が間違っているか、こちらの世界では宿代が安いのだろうか?


「私はこの辺にきたのは初めてでよくわからないのですが、それって、この辺のよその町でも、それ位の値段ですか?」

「いいえ、町の宿だと、もう少し高いですね。

安い宿なら同じ程度でしょうけど、中程度の宿なら一泊素泊まりでも銀貨3枚、2食つきなら銀貨5枚、少々高級な宿なら素泊まりで大銀貨1枚、食事つきなら大銀貨1枚と銀貨五枚位の筈ですわ」


なるほど、宿の値段にもかなり幅があるようだ。


「この近くに大きな町はありますか?」

「ここから馬車で、ちょうど1日程度の場所に、この国アムダールで帝都をのぞけば一番大きな町、ロナバールがありますわ。

他にそれほど大きな町でないなら、途中にちらほらと・・・」

「参考までに、そこで一番高い宿って、一泊どれ位するかわかりますか?」

「さあ、そんな場所に泊まった事もないので、わかりませんが、あそこは大きな町ですから、あそこで一番高い宿となると・・・おそらく金貨1枚以下という事はないと思います」


金貨1枚?

すると高級宿なら一泊10万円以上か?

本当に金額の幅が大きいな?


「ロナバールというのはそんなに大きな町なのですか?」

「ええ、何でも帝都より昔からあった街で、昔はアムダール帝国の帝都だった時もあったそうで、古都ロナバールとも言われています」

「なるほど、ありがとうございます。

では今夜は御言葉に甘えさせていただいて、無料で泊めていただくとして、明日からはちゃんと宿代を御支払いいたしますよ」

「まあ、本当にいいんですのよ」

「いえ、ここに何泊かさせていただく予定ですから、その間ずっと無料というのも心苦しいので」

「わかりました、では御部屋に案内しますね」

「はい」


俺はメリンダさんに部屋へ案内してもらった。

部屋は2階のようだ。

これでどうやら落ち着けそうだ。

階段を上りながらメリンダさんが話しかけてくる。


「それにしても、そのお年で旅をしているとは大変そうですね?」

「え?あ、いや、これでも私は15歳なんですよ」


この世界では一応15歳になれば、大人の部類に入るらしい。

それがあって、俺は自分の年齢設定を15歳にしておいたのだ。

もっとも見た目はもっと幼く見えるはずだ。

案の定メリンダさんがその事を話す。


「まあ、まだ12・3歳かと思いましたわ」

「ええ、よく年よりも若く見られるんです」

「そうですね」

「はい」


しかし考えてみれば、年齢など戸籍もないこの世界なら本人が言ったままが通じるはずだ。

わざわざ年齢と見た目を変える必要はなかったかも知れない。

いや、鑑定魔法があるから、やはり必要だったか?

うん、嘘をつくのも嫌だし、これで正解だっただろう。

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