0006 初めての迷宮

 クラウスと別れて、森に入ると、早速アプロが襲ってきた。

すでに一度対戦した事がある相手だ。

俺は落ち着いて構えると、鋼の剣で一撃を繰り出す。

狙いはあやまたず、アプロに当たり、一撃で葬り去る。

その途端、何か不思議な感覚が全身を貫く。

おや?これは一体何だろうか?

まるで、力が一段階上がったような感覚だ・・・

ん?力が上がる?

俺は自分のステータスを見てみると、レベルが11になっているのがわかった。

どうやら今のはレベルが上がった時の感覚らしい。

レベルアップ音がないのが非常に寂しく感じる。

昨日も何匹か魔物を倒していたせいで、今日はまだ1匹目の魔物なのにレベルが上がった訳か。

しかし、これは幸先が良い。

ここはどうやらレベル上げには良さそうな場所だ。

最初の戦いで、早速レベルも一つ上がり、気をよくした俺は再び森を歩き始める。


しばらく歩くと、また別の魔物が出てくる。

今度は大サソリだ。

確かこいつのレベルは12位だったな。

剣を一振りすると、またもや一撃で倒れる。

大サソリは結構硬いはずだが、どうやら俺の鋼の剣の3倍効果で、それも関係なく倒せるみたいだ。

どうも俺の鋼の剣での3倍攻撃は、この辺で敵はいないようだ。

さすがに今度はレベルは上がらない。

しかしそうして歩きながら何回か魔物を倒して行くと、再び俺のレベルもあがる。

これでレベル12だ。

そしてしばらく森の中を歩くと、高さ5mほどの小さな山があり、そこに洞窟の入り口のような物を見つけた。

そこには看板が立っていて「危険 レベル15以下の者は入るべからず」と書いてある。

どうやらここが話に聞いた迷宮の入り口らしい。

レベル15が適正レベルらしいが、今の俺はレベル12だ。

どうする?入ってみるか?

初めての迷宮で勝手がわからないので、考えた結果、もう少しレベルをこの辺で上げてみる事にした。

もちろん、用心に越した事はない。

俺はとりあえず、マギアサッコから「魔物の鈴」を取り出してみた。

これは神様にもらった道具の一つで、魔物を呼び寄せる鈴だ。

犬笛みたいな物で、音は平人には聞こえないが、腰にぶらさげて適当に歩けば、魔物との遭遇率が格段に上がるはずだ。

果たして数歩歩いただけで、魔物の群れが襲ってきた。

しかしすでにこの辺りでの戦いに慣れてきた俺は片端からなぎ倒す。

この辺の最強の敵は、どうやら大サソリらしいが、それが3匹まとめて出てきても、特に苦労する事もなく、全て一撃で葬り去る事が出来た。

さすがに何回か毒は食らったが、それも状態回復の魔法の服のおかげで、すぐさま毒を無効化する。

そんな調子で20分も戦っていると、レベルが13に上がった。

この時点で、俺は剣を先ほどの道具屋で買った、古びた短い銅の剣に変えてみた。

現在俺の持っている装備で最弱装備だ。

しかしこの装備でも、森の魔物は、ほとんどが一撃で終わりだった。

大サソリが多少硬いので、2回目の攻撃が必要になる場合がたまにある程度だった。

その後も良い機会なので、様々な自分の武器に変えて、その威力や使い易さを試してみた。

中にはまだレベルが低いせいか、重くて振り回せない物もあったし、逆に驚くほどに強い武器もあった。

俺が特に気に入ったのは、アレナックというキラキラと水晶のように輝く材質の透明な剣だ。

これはオリハルコンより多少弱い材質だが、それでも鋼鉄の数百倍は強靭だそうで、冗談のように強い。

軽く振り回しただけでも大サソリが真っ二つだ。

それどころか、その辺の木でも何でもスパスパ切れる。

試しにその辺にあった大きな石を切ってみたら、驚くほどあっさりと切れた。

凄いな!アレナック!

このアレナックの剣は短剣や長剣など、何種類か持っていたが、俺がその中でも気に入ったのは日本刀型のアレナック刀だった。

水晶かダイヤのようにキラキラと光り、魔物でも何でもスパスパと切れる。


そうして森に入って1時間を越える頃になると、ついにレベルが14になる。

この頃になるとレベルが上がったのと、こちらの世界の戦い方に慣れてきたせいもあって、どんな魔物が相手でもほとんど傷つかなくなってきた。

体力自然回復の服を着ているおかげで、まだ回復魔法も使ってないし、魔法力も満タンだ。

ドロップアイテムも薬草や毒消し草など、大した物ではないが、そこそこ集まってきた。

大サソリも銅の短剣でも完全に一撃で倒せるようになったようだ。

まだ適正レベルには1つ足りないが、その分装備が良いから大丈夫だろう。

この状態なら迷宮に入っても、いくらなんでも一撃でやられる事はないだろう。

危険だったらすぐに外に出ればいい。

俺は念のために古びた銅の短剣をミスリルソードに変えると、迷宮の中へ入っていった。



地下一階の迷宮の中は暗かった。


「ルーモ」


俺が照明の魔法を唱えると、中が明るく照らされる。

そのまま歩いていくと、明かりは後ろへと取り残される。

(ありゃ?)

考えてみたら部屋の中だと動かなくて良いから、ずっと照明はその場で照らしていて問題ないが、迷宮では自分が動くので、明かりは後ろへ残ってしまう。

これを防ぐには数歩歩くごとに明かりの魔法を使うしかないが、それも面倒だ。

他に方法はないだろうか?

考えてみれば、他の冒険者などは、迷宮に行く時にはカンテラなどを持って行くのだろうか?

俺は少々考えてみて、自分の額に手を当てながらルーモを唱えた。

周囲は明るく照らされて、ちょうどヘッドライトのようだ。

明かりは俺の額に貼り付けたらしく、首を振ると、その方向を明かりが照らす。

歩いてみると、額に明かりは付いたままで、今度はちゃんと明かりが俺と一緒に動く。

(うん、これでよし)

少々間抜けた格好かもしれないが、俺は満足して迷宮を歩き始めた。

明るくなった迷宮を数歩も歩くと、最初の魔物が襲ってきた。

大こうもりが2匹だ。

俺がミスリルソードを振るうと、あっさりと2匹とも一撃で倒れる。

次に出てきたのはゴブリンだった。

二本足系最弱のイメージがある魔物だが、これまた、一撃で終わりだ。

確かレベルは7位のはずなので、この世界でも二足歩行の魔物の中では最弱なのかも知れない。

また数歩歩くと、今度は巨大なイソギンチャクのような魔物が出てきた。

マンイーターだ。

確か動きは遅いが、体力はあるはずだ。

しかしこれも一撃だ。

それにしてもどいつもこいつも一撃だ。

もちろん、攻撃力の高いミスリルソードの上に、鋼の剣同様に3倍攻撃効果もついているおかげは大きい。

しかし、この手応えなら鋼の剣でも十分だったような気がする。

それにしてもいやに魔物と遭遇するなと思ったら、魔物の鈴をつけっぱなしだったのを思い出した。

(まあ、いいか、レベル上げが目的なんだし)

そう考えて、俺がそのまま鈴をつけたままで移動すると、ほとんど5・6歩、歩くごとに魔物に遭遇する。

まあ、経験値稼ぎには楽だ。

そうこうしているうちに地下2階へ行く階段を見つけた。

階段を降りて2階に到着する。

そこでも魔物を倒しまくるが、全て一撃だ。

2階を探索するうちに、今度は3階への階段を見つける。

そこでさらに地下3階へ降りて試しに一回、魔物を倒してみるが、ここでもまだミスリルソードならば一撃で戦闘は終了だ。

一応、初日でもあるし、慣らしという事で、俺はここで引き上げる事にした。

もっとも帰り道も鈴はつけたままなので、また、何回も魔物と戦う事になる。

結局、迷宮を出た時は、レベルは15になっていた。

薬草や毒消し草など大した物ではないが、それなりに魔物が落とした物もあったので、道具屋へ行く事にする。

村へ帰って、背袋に入った物を道具屋に持っていくと、ドロテア婆さんは、喜んで買ってくれて、それは全部で銀貨2枚分ほどになった。

その後、仮宿に帰ると、メリンダさん親子が迎えてくれる。


「どうでしたか?迷宮は?」


メリンダさんの質問に俺も機嫌よく答える。


「ええ、結構な経験になりましたよ」

「そうですか?そんなに良かったですか?」

「ええ、レベルも5つ上がって15になりました」

「え?」

「ええっ!?」


俺の答えにメリンダさんとクラウスが驚いたように声を上げる。


「え?」


その驚き方に俺も驚く。


「あの・・5つもレベルが上がったのですか?たったの1日で?」

「兄ちゃん、スッゲー!」


しまった!そうだった!

うっかりしていたが、俺は素で経験値30倍の能力を持っているので、本来の30倍、つまり俺の一日分は普通の人間の1ヶ月以上の経験値に匹敵するはずだ。

しかも魔物の鈴を持っていなくて、数人がかりで戦うなら、もっと時間はかかるし、経験値が均等割りになるので、さらにその数倍、3ヶ月から半年位はかかるはずだ。

そりゃ1日でレベルが5つも上がったら驚くわな!

ここは何とかごまかさないと・・・しかしどうしよう?

まあ、真実をいくつか話せば何とかなるだろう。


「ああ、実は私は魔物を引き付ける特殊な道具を持っていましてね。

普段は使わないで、しまってあるのですが、それを持っていると、魔物にわんさか出くわすんですよ。

それこそ5・6歩歩く毎くらいに」

「そんな物が?」


おそらく魔物をおびき寄せる道具など聞いた事もないだろう。

そもそも一般人が好き好んで魔物を引き寄せる理由などない。


「ええ、それに私は結構装備も良い物を持っていますし、回復薬や毒消しも山のように持っているので、普通の人たちがレベルが上がるよりも遥かに早く、レベルが上がるんですよ。

何しろ出てくる魔物を片っ端からやっつけますからね」


その俺の説明に納得がいったようにメリンダさんが答える。


「そうだったんですか?」

「兄ちゃん、スッゲー!」


ふう~・・・相手がロクに戦闘経験の無い人だったので、何とかごまかせたみたいだ。

まあ、嘘は言ってないしな。

今言った事は全部本当だ。

でも、何かクラウスはこっちを尊敬の眼差しで見ているな?

そういやこの子は毎日のように魔物狩りをしているんだっけ?

ちょっと失敗したかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る