第2話
彦次郎は何かを隠しているのは解るのだが、実は私は土間の風呂敷包みが恐ろしくて知ろうとはしなかった。
土間の風呂敷包みには一体何があるというのだろう。
ふと、彦次郎を見つけたが、汗も流れる暑さの中で、彦次郎が土間から出ていくところだった。
私は怖くなって、彦次郎に声が掛けられずにいた。私の頼みでお梅が水汲み場まで様子を見に行った。
お梅が首を傾げながら戻って来た。
「変ですね。お菊さんはいませんよ」
「どこへ行った?」
「血もなにもないのですから。宗次様の勘違いでは?」
「え?」
私は水汲み場にお梅と一緒に様子をもう一度見に行った。
そこには、お菊の贓物や衣服。血液、髪の毛が盛大にばら撒かれていた。
私は悲鳴を上げてお梅を置いて、逃げ出した。
私は廊下を半狂乱になって彦次郎の部屋へと走ると、彦次郎はまた土間から出てくるところだったようだ。
「彦次郎! お菊が死んでしまった! あの風呂敷包みにはなにがあるというのだ!」
彦次郎は真面目な顔で首を振り、
「そんなことは、起きませんや。きっと宗次様の見間違いでしょう。さ、さ、今日はもう寝ましょう」
彦次郎は優しくそう言ったが。
私は怒りで真っ白い顔が更に白くなった。
彦次郎を乱暴にどかし、土間の風呂敷包みに荒い呼吸で近づいて行った。
「宗次様や!」
彦次郎の叫びに耳を貸さずに私は風呂敷包みを開けた。
風呂敷包みは紅色の布で出来ていた。
何の変哲もなく。
結びをほどくと、中から世にも美しい女性が現れた。
「お慕い申しております」
私は白装束のその女性の透き通る声を聞いた。
「あなたは? ……一体誰なのだ?」
朱色に染まり出す顔で、私は呆けた声を発し、その女性から目が離せなくなっていた。
「私は桜木と申します。お武家様からの嫁でございます」
彦次郎は真っ青になって、私の腕を掴んだ。
「宗次様や! 逃げますぞ!」
彦次郎は私の腕をグイグイと引っ張り、私も逃げ出した。
後ろから泣く声がこだます廊下を走り回っていると、お梅の死骸。奉公人や妹たちの死骸などが横たわっていた。
皆、口の周りが真っ赤になっていた。
彦次郎は奉公人たちが使う8畳間の布団部屋へと入ると、押入れに私をねじ込んだ。
「いいですか。ここから出てはいけませんや!」
そう言うと、彦次郎は廊下へ出て桜木から大声を張り上げて逃げ回った。
私は恐怖と混乱で一心不乱に呼吸を整えていたが、桜木の声がその暑い夜は耳から離れなかった。
お慕い申しております……お慕い申しております……お慕い申しております……。
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