死因

三輪・キャナウェイ

死因

 私の前世での死因は、きっと銃弾で胸を撃ち抜かれたことだ。

 それだけ私は空っぽな人間だった。

 例えばの話さ。これが槍だったならこうはいかないと思うんだ。もし槍で、まあ刀でもなんでもいいけど、何かで胸を貫かれたってだけなら、きっと胸は空っぽになるんじゃなくて重たくなると私は思うんだ。心臓か肺の中にしこりでもできているような感じとえばいいのかな。

 これは私の偏見かもしれないけど、もし誰かの胸を凶器で突いたとしたら、そいつはしばらくそれを抜かないと思うんだな。押し込んだり、捩じったりして、ちゃんと殺そうとすると思うんだ。そんな風に中身を掻き混ぜられたとしたら、来世でもそこら辺の具合が悪くなってしまいそうでしょ?

 これに比べて銃弾に胸を撃ち抜かれたなら、きっとそれは一瞬のことだ。勿論弾丸が体の中に残るなんてことも十分あるとは思うけど、きっと前世の私の場合は綺麗に貫通したんだな。

 だから胸の所が、穴が空いているみたいにずっと寒いんだ。

 何をしていても空しいのさ。誰と喋っていても心は明後日の方を向いている。意識が体から滴り落ちていく。上司の話も、先生の話もその穴を通ってどこかに吹き抜けていくし、友達や恋人の話だってそうだ。私はただそんな穴をみんなの言葉が風と成って過ぎる時、ひゅるひゅると奏でられる摩擦音を相槌のようにして口にすることしかできない。

 そしたら聞き上手だと言われたよ。私はどんな話もちゃんと聞いてくれるから話しやすいんだって。恋人だってそれで出来たんだ。まあ一か月で別れちゃったんだけど。

 勿論、それだけじゃない。恋人以外にもさ、友達とか、上司とか、色んな人を裏切ってしまった。小学校から高校までずっと一緒で、部活でも仲間だった子の連絡先が入ったメッセージアプリは卒業と一緒に消してしまったし、私を可愛がってくれていた上司には嘘を吐いて会社を辞めた。

 なんだか耐えられないんだ。みんなは時と共に色んなものを積み重ねていく。技術の話じゃないよ。クサいけど、仲間との絆とか、尊敬できる信頼関係とか、色んなものを他人との間に固く結んでいく。

 でも私はそれが出来ないんだ。これは格好つけてるわけでも、自分に酔ってるわけでもなくて、人なんて一度も信頼したことがない。

 あの日私を怒鳴り散らし、母を打った父が、今では当たり前の顔をして夕食の席に居る。

 あの日私に「他所に女でも作ってるんでしょ」と冷たい声で言った母が、そんな父と自然に笑っている。

 信じられないものばかりだ。信じたくないものばかりだ。

 怖いんだ。だから、きっと私の胸には穴が空いている。

 でも偶に思うんだよ。もしもだよ、もし本当に私の前世の死因が銃弾で胸を撃ち抜かれたことだとして、じゃあ今世での死因は来世に繋がるのだろうか。

 離れた所から撃ち抜かれたとしたら、人の温もりなんて感じることなく死んじまうだろうけれども、もし刃物でそいつの胸を刺して、押し込んだり、捩じったりしたら、血液は交じり合って、体温が溶け合って、運命が癒着してしまわないだろうか。

 もしそうなんだとしたら、私は最愛の人を刺し殺してみたいんだ。

 だって今世の私は胸に穴が空いた欠陥品だけれど、来世はきっとそうじゃない。

 来世なら、人を愛せるかもしれない。

 そんなことを言ったら「気持ち悪い」って恋人に振られたんだ。

 友達に「悩みでもあるの」と言われたんだ。

 上司に「働き過ぎだ」と言われたんだ。

 その度に私は空しくなった。

 だから、みんなと別れてしまった。

 ほら、やっぱり私は空っぽな人間だ。

 こんな自分を刺し殺したら、来世の私の胸はちゃんと塞がっているだろうか。

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死因 三輪・キャナウェイ @MiwaCanaway

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