4 指輪研究の日々
「ショーキ、行くぞ!」
俺は頷き、左手親指のトパーズを叩く。放たれた風の力がラルフの剣に注がれ、剣は光輝いた。
「ゼイヤーーッ!」
旋風をまとったラルフの斬撃が洞窟トロールの巨体を一撃で両断した。
「こいつが群れのボスだろ。俺たちの勝利だ!」
ラルフは剣を鞘におさめ、笑いながら俺の肩を強く叩いた。ラルフは小柄で、まだ少年の面影を残した若者だが、ヤデム・エリムでも一、二を争う剣士だと俺は思っている。勇敢で、機転が利く。そして何より勝利に貪欲だ。
ここ最近、俺はラルフと組んで洞窟や廃墟を荒らしまわっていた。
鍛冶神殿ヤデム・エリムの周囲には入り組んだ洞窟や坑道、古代都市の廃墟などが数多くある。腕に覚えのある戦士たちはそのようなダンジョンで戦利品や鉱石をあさり、鍛冶屋はそこから武具を作り出すのだ。
そして俺は彼らに、指輪や腕輪の制作を頼んだ。今では宝玉付き指輪も種類が増え、火炎のルビー、電撃のエメラルドに加えて、冷気のサファイア、毒のアメシスト、風のトパーズを所有するに至った。
さらに指輪魔術の新しい知識も増えた。これはヤデム・エリムの図書館でモローグと一緒になって必死に文献をあさった成果で、古い石板にオベタル神に関する記述を見つけたのだ。石板の損傷が激しく、解読には二カ月もかかった。
だがその甲斐あって、指輪魔術の新たな可能性─祝福について学ぶことができた。
祝福は、火を噴いたり毒を叩きつけたりする攻撃的な魔術とは違う。武器に魔法の力をこめたり、鎧を強化したり、戦士に活力を与えたりできるのだ。
これは人差指に嵌める指輪がカギになる。火炎なら竜、電撃なら雲、風ならハヤブサなど、決められた意匠をかたどった指輪を、人差指に嵌めるのだ。すると繰り出される魔術は攻撃から祝福にかわる。
これを突き止めた時はあまりの嬉しさに酒場で浴びるほど飲んだ。モローグは恨めしそうに酒をずっと見ていた。
俺はさっそく竜やハヤブサの指輪を鍛冶屋に注文した。ダンジョン探索で金を稼ぐが、儲けた先から指輪代で無くなっていく。これは仕方がない。
さらに、こうなると魔術の切り替えのために指輪を付け替える必要が出てくる。エレメントを変えるために親指の宝玉指輪を取り替えたり、祝福するために人差指のを取り替えたり。
指輪の付け外しも意外とコツが要る。特に焦るとダメだ。ピンチの時こそ落ち着いて。というわけで精神力も鍛えられた。
もちろん失敗もした。付け替えの際に取り落とし、指輪をなくしたことも一度や二度ではない。坑道内で落としたエメラルドの指輪が縦穴の底に吸い込まれていったときは、さすがに泣いた。その日はあまりの悲しさに酒場で浴びるほど飲んだ。モローグは恨めしそうに酒をずっと見ていた。
俺は半年ほどヤデム・エリムに居座り、悲喜こもごもの指輪魔術生活を送った。ここで出来る調査もあらかた終えたので、俺はこの都市を後にすることにした。
するとラルフが俺と一緒に行きたい、と言い始めた。俺たちはすっかり相棒になっていたのだ。相変わらず俺は声が出せないし、彼がいれば大いに助かる。
俺が大きく頷くとラルフは「よっしゃ!」と叫んだ。頼むぞ。
こうして指輪魔術師ショーキ、霊体師匠モローグ、剣士ラルフは次の冒険に足を踏み出した。
やってやるぜ!
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