第15話 精鋭部隊
おれは半日かけてじっくり計画を練った。
夕方になって、「神智」スキルで村の様子をたしかめると、兵たちの隊長が到着したことがわかった。
意外にも、兵士を率いているのは女騎士だった。白馬にまたがり、ハーフプレートアーマーを身につけた姿は、堂々としていて威厳があった。
おれはクレールと部屋を出た。応接室に行くと、ビルヒニアが退屈そうに待っていた。
「隊長が村に到着したぞ。おれたちもさっそく行こう」
「よかろう」
ビルヒニアは
「クレール、きみはここで待っていてくれないか?」
「いえ、わたしはマサキさまについていくつもりです」
「だけど、どんな危険があるかわからないんだ」
「危険だからこそ、よけいにお側にいたいんです」
クレールは
「なにをぐずぐずしている。はやくしろ」
ビルヒニアが苛々したように言った。
「……わかった。クレール、一緒にいこう」
「はい」
クレールはうれしそうにうなずいた。
それから、おれたちは野外用の服に着替えて、城館の中庭へおりた。すでに兵士たちはそろっていて、馬車も用意されている。
今回、ビルヒニアが率いていくのは十四人の兵士だった。
この兵士たちは、かつて大陸の北部平原で大きな戦争が起きたとき、もっとも激戦区だったエリアで回収した死体らしい。
そのとき彼らが身につけていた鎧には、猛将として恐れられたタンネンベルク侯爵の特務親衛隊であることを示すエンブレムが刻まれていたという。つまり、ビルヒニアにとっても、この
おれたちは馬車に乗りこみ、兵士たちを引きつれて城館を出発した。
まず向かった先は、山のなかにある製材所の廃墟だった。ラゾロ村からはかなり近い場所にある。
製材所へ着くまでのあいだに、おれはもうひとつ手を打っておいた。ビルヒニアの従者に農民のふりをさせて、女騎士のもとへ向かわせたんだ。
隠れていたおれたちを発見した、と嘘の報告をさせて、製材所まで兵士たちを誘いだす計画だった。
製材所へ行く途中で、山道が狭くて険しくなったので、おれたちは馬車をおりることになった。
「なぜ、我がこんな山道を歩かねばならんのだ」
ビルヒニアはずっとぶつくさ言っていた。
やっと製材所の廃墟に着くと、ビルヒニアは兵士に運ばせていた絨毯を敷き、椅子とテーブルをならべた。
「我はもうここから動かぬからな」
「ちゃんと兵士を指揮できるならいいさ」
「女騎士の部下たちに怪我をさせずに追い払え、と言っていたな。なぜそんな面倒な真似をする必要があるのだ。まとめて殺してしまえば世話がないというのに」
「ダメだ、絶対に殺すなよ。これは命令だ」
「ふんっ」
ビルヒニアはむくれた顔になり、それっきり口をきかなかった。
2メル(一時間)ほど待つうちに、森のむこうから大勢の人間が近づいてくる気配がした。いよいよ捜索隊がやってきたらしい。
「ビルヒニア、頼んだぞ」
おれが言うと、ビルヒニアは無言で顎をしゃくった。たちまち屍兵たちが音もなく飛びだしていく。まるで狩りにむかうオオカミの群れだ。
それにくらべて、捜索隊のやつらはすっかり
まとめて殺せば世話がない、とビルヒニアが言ったのは、決して大げさな表現じゃなかったのかもしれない。
しばらくして、木々のむこうに捜索隊の兵士たちが見えてきた。隊長の女騎士は先頭を歩いている。
製材所の廃墟を目にすると、女騎士は立ち止まった。手をあげて合図し、部下たちを横に広がらせる。部下たちは、ゆっくりと製材所をとりかこんだ。
やがて兵の配備がすんだところで、女騎士は剣を抜いた。剣を高くかかげた後、振りおろして突入の合図をしようとする。
だが、それより早く、ビルヒニアが指を鳴らした。
「うわっ!」
女騎士の部下たちが悲鳴を上げた。いつの間にか背後に忍びよっていたビルヒニアの屍兵たちが、いっせいに襲いかかったからだ。
屍兵たちは、約束どおり武器をつかわなかった。素手で殴り、蹴り、投げ飛ばして、捜索隊の兵士を痛めつける。怪我をさせないっていうのは程度の問題で、打撲や骨折くらいは許すしかなかった。
女騎士の部下たちは逃げまどった。必死に槍を振りまわすやつもいたけど、あっさり武器を叩き落とされ、腰を抜かして逃げていった。
混乱と争いはそう長くはつづかなかった。ふと気づいたときには、捜索隊の兵士はみんな逃げ散っていた。残ったのは、呆然と立ちつくす女騎士だけだ。
任務を果たしたビルヒニアの兵士たちは、整然と引きかえしてきた。
「さあ、あとはおまえの出番だぞ」
ビルヒニアがあくびしながら言った。
おれはうなずくと、緊張しながらゆっくりと女騎士のところにむかった。
「貴様、何者だ!」
女騎士がおれにむかって剣をかまえる。
「落ち着いてくれ。あなたの部下はだれひとり殺してないし、あなたのことを傷つけるつもりもない」
「……もしや、きさまはマサキ・カーランドか?」
「ああ、そうだ」
「なるほど、狩っていたつもりが、逆に狩られたというわけか」
女騎士は悔しそうに唇をかむ。
「ええと、あなたの名前を聞いていいかな?」
「……アルテミシア・マリヴォーだ」
「よし、アルテミシア。おれはただ、落ち着いてあなたと話をしたいだけなんだ。その剣を下ろしてもらえないかな」
「何を話すというのだ」
「フラヴィーニ伯の命と魔法陣にかかわる、重要な話だ」
「なにっ!?」
アルテミシアの顔色が変わった。
「……いいだろう、その話を聞かせてもらおうか」
アルテミシアは剣を鞘におさめた。
おれはほっとして、肩の力をぬいた。
そのときだった。
近くの木の陰から、人影がとびだしてきた。一直線におれにむかってくる。その手には短剣が握られていた。
「マサキ、死ね!」
それがアゼルだと気づいて、おれは驚いた。とっさのことで体が反応しない。棒立ちになったまま、アゼルが突っ込んでくるのを見つめた。
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