第50話 愛し合ったあとで
真一郎は、沙也香が仕事上では頼りであり一番信頼できる存在である。急用があって会社に出られないときには、時々、彼女に直接に連絡をすることがある。それはあの愛菜と過ごした翌日のことだった。
その朝、沙也香の携帯電話が鳴った。
「おはようございます、部長。携帯にこんなお時間に珍しいですね」
「悪いな。まだこんな早い時間で」
「いえ。大丈夫ですよ部長。今コーヒーを飲んでいるところです。私はいつでも部長の専属秘書ですから」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると助かるよ」
そこで彼は秘書の沙也香に用件を伝えた。
「了解しました。また、新しい彼女とホテルですか?」 沙也香は笑いながら言った。
「まあ、そんなところかな。よろしく」
「はい、了解しました。部長」
真一郎は、会社には午後から出社することに決めたので気が楽である。ようやく身体が目覚め始めた愛菜は、昨夜の余韻が残っているようである。
「ねえ、真一郎さん。もう一度したいです」
「おやおや、元気な愛菜ちゃんだねえ。アルバイトは大丈夫なのかい?」
「はい。今日はお休みしちゃいます」
そう言って愛菜は真一郎に抱きついてきた。この若い女はどうやら弾けたようである。その朝の愛菜は人が変わったように積極的になっていた。
女は一度身体を許すと、タガが緩み、驚くほど変貌する時があるようだ、それが愛菜なのか……。
若い愛菜は真一郎の上に、ピチピチとした肉体を密着させ迫ってきた。
「凄いな、愛菜ちゃん。どうしたんだい朝から」
「だって……愛菜、真一郎さんを好きになっちゃいました。昨日みたいに狂わせてください」
(俺はこれを喜んで良いのか?)
昨日、喫茶店で会ったときの彼女とは別人のようだった。彼はこの時から、若いピチピチとした彼女に
午後から大事な会議が入っているというのに、若い娘に夢中になり、もうそれさえも頭にない。秘書の沙也香は真一郎が来るものと思って、特に告げていなかった。
真一郎は
しかし、彼の身体の四肢と陰茎は、まだ愛菜の身体を憶えている。窓の外の景色を見ながら、頭の中では彼女との性の余韻を楽しんでいた。
昨夜は、自分が積極的に若い愛菜にアタックして彼女を楽しんだつもりだった。しかし、今朝になってその愛菜に逆襲されるとは思ってもみなかった。
彼が今まで相手にした女たちは、彼の年齢に応じた女達だった。三十代半ばの女性達は、しっとりとして、その肌が吸い付くようであり四十代ともなれば、さらにそれに艶やかさが加わる。
そうした彼女達とのセックスでは彼のやり方で様々に愛してきた。
その女達のことを彼はタクシーの中で思い出していた。昨日から、かつて愛した鮎川房江の娘の愛菜を愛し、愛人にしてしまった。いつもならば女達から哀願されたのだが、昨日は自分から言い出してしまったのだのだ。
(愛菜を自分から愛人にすると言ってしまった……俺は少し気力と体力が衰えたのかな)と思ってしまう。
しかし、自分を心から慕い、尽くしてくれる秘書の沙也香もいるのだ。俺という男は今二人の女を愛人にしている。
今までならそんな自分を認め、有頂天になっているだろう。
だが、二人の女を愛人にしていながら、心から素直に喜べない自分がいる。
(俺とはどういう人間なんだろうか? 女なしでは生きていけないのか?)と真一郎は自問していた。
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