第51話 秘書と愛人としての振る舞い
タクシーは、郊外のラブホテルから、高いビルが建ち並ぶ街中に入っていた。そこでは若い女達がそれぞれに着飾り、流行のファッションを身につけながら
昨夜から若い愛菜の身体を堪能しただけに、彼女たちを見ると(あの着飾っている服を脱がせれば愛菜と同じ身体をしているのだろうか?)と彼女たちの裸を連想してしまう。
そして愛したばかりの愛菜とはまた違った、熟れた身体をしている沙也香のことが何故か目に浮かんでくる。
あの日、誕生日に誘われたとは言いながら、秘書の沙也香には驚かされた。彼女にあんな性癖があるとは想像もしていなかった。まさか沙也香が『M女性』だったとは。その後に彼女を狭いワンルームマンションから広いマンションを買い、そこへ移させてからは、しばらく真一郎はそこを訪れることが多くなってきた。
沙也香はそれから真一郎の愛人になっていく。彼女は慕い尊敬する上司から、秘書だけではないプライベートの『愛人』として受け入れられたのだが、それは真一郎から言ったわけで無く、沙也香が哀願したからでも無い。
それは上司とその秘書という関係以外にもお互いが引き合い、
二人は会社の中では、誰からも疑われることも無く振る舞い、沙也香のマンションでは関係が深まっていった。
或る日、首輪を首に付け、四つん這いで部屋を歩き終えた沙也香を見ながら、真一郎は彼女に聞いたことがある。
沙也香は興奮状態が醒めず、顔は額から出た汗で光っていた。
「沙也香は、どうしてこういうことに目覚めたのかな?」
「それを言わなければいけませんか?」
「いや、少し興味があってね」
「ごめんなさい、真一郎さまでもそれは言えません」
「そうか。わかった。沙也香にも誰にも言えないこともあるんだろう」
「有り難うございます」
沙也香は理解ある真一郎に感謝し、涙を流していた。それは彼女の少女期のことに関係するらしいが、沙也香はそれを誰にも言えなかった。社内ではクールで優秀な沙也香だが、真一郎に愛されることで心の冷静さを保っていた。人には、誰にも言えないことがあるようだ。
真一郎の秘書である沙也香は始めから真一郎の秘書だったわけでは無い。
彼女は短大を卒業し、ある程度の資格を持っていた。始めは一般事務職で二十二歳で入社して総務課への配属になった。
入社して半年ほど経ったある日、いつも面倒を良くみてくれる村木玲子に声をかけられた。
玲子はそのときに部長秘書をしていたのだが、当時の真一郎は事業部長になったばかりだった。
「沙也香さん。私ね、後半年位したら、結婚して会社を辞めるの。急なんだけれど、その後釜と言っては何なんだけれど、あなたに引き継いでほしいと思ってる。あなたは素直だし、きっと任せられると思うわ。他の人で任せられる人いないし」
「えっ? 結婚されるのですか?」
「そうよ、前から付き合っていた彼がやっと決断してくれたの」
「よかったですね。でも私はまだそんな能力もないですし……」
「いえ、大丈夫よ。今から準備をしておけばいいわ。会社が終わってからの学校があるし、通信講座もあるから。今からでも勉強すれば間に合うわよ。私が前に使った本や資料もあるわ。もう必要ないからあなたにあげる。もし、貴女がその気になればね」
「ありがとうございます。でも何で私が、素直だからですか?」
「あなたは努力家だし、部長さんは素敵な人よ、貴女なら……」
「そうですか、少し考えてみますね」
「そうね。急な話だけれど。私の結婚の話がまとまるとは思っていなかったのね。でもその人のご両親が私を気に入って下さって。だから、後は貴女しか思い浮かばなくって」
沙也香はぽっちゃりとした可愛い女だった。玲子の意を受けて彼女は秘書を目指すことを決めた。それからは玲子のアドバイスを受けて、会社が終わってから通信講座で学ぶ道を選んだ。はたしてその決断が正しかったかどうか……。
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