第27話 秋の公園


翌朝、岡谷はまた普段通りに起きた。もう習慣になっている。週末でも平日と同じだ。

友人たちは、「土日くらいゆっくり寝ていろよ。」というが、これが岡谷のペースなのだ。


もちろん、興が乗って夜更かし、下手すると夜明けまで音楽を聞いたり弾いたり作ったりすることもある。だが、眠くても岡谷は同じ時間に起きてしまうのだ。


まあ、週末であれば昼寝することはあるのだが(笑)。、


曲を仕上げた翌朝、つまり日曜の朝だ。


岡谷が起きて洗顔し、キッチンに行くと、母が今日も朝食を取っていた。


「孝雄、おはよう。」「おはよう、母さん。」

二人は挨拶をかわすr。


「朝ごはんは出来てるからね。パンは焼いてね。コーヒーは入ってるからね。:

母は言う。


今日もばっちりメイクを決めている。美容師の母は今日も朝から出勤だ。たぶんお金のためじゃなくて、自分が働きたいから働いているんだろう。


岡谷は思う。


最近FIRE (Financial Independence, Retire Early) なんて言うけど、それだとたぶん暇で飽きるよね。


母を見ていてそう感じる。彼女は、お金のためじゃなく、自分の満足のために働いているのだから。


岡谷は、お気に入りのホテルブレッドを出し、バミキューダのトースターでトーストにする。このトースターは、ふっくら、しっとり出来上がるという評判にたがわず、とても美味しいトーストができるので、孝雄も満足の一品だ。


ほどなくパンが焼け、コーヒーとパンとソーセージとオムレツ、そしてサラダが食卓に並ぶ。


(といっても、大体は母が作ったものを岡谷が自分でならべているのだが。)



岡谷が食べているうちに、母は仕事に行った。岡谷も食事を終えて食器を軽く流して食器洗い機に入れ、自室に戻った。


作品を再度チェックする。そして昨日アップした音源が聞こえるかどうかも確認する。

うん。文句ない出来だ。


待ち合わせには、まだ時間に余裕がある。


キーボードの電源を入れて、ちょっと心に浮かんだコードを奏でてみたが、何だかしっくり来ない。


そこでアコースティックギターを取り出して弾いてみる。ギターならこの進行は悪くない。


そしてまた、キーボードに戻り、アドリブで弾いてみる。途中からジャズピアノっぽく演奏する。これはこれで楽しいが、今日はやはり何だか違う。


いま弾く曲は、オーソドックスな歌謡曲みたいな感じが良さそうだ。アイドルソングでもいい。ちょっとあこがれを抱く異性に思いを伝えるようなものもいいかな。


岡谷はキーボードの上に指を滑らせながら、いろいろ思いをはせていく。


これは作曲用ではない。あくまで、気分を高揚させるための道具だ。



一通り弾いたら気分が落ち着いた。


ということで9時半を過ぎたので、岡谷はキーボードとタブレットなどを抱えて家を出る。


カラオケボックスは11時にオープンなのでその少し前に待ち合わせということにしていた。


だが、岡谷は念のため早めに電車に乗り、駅に着く。 まだ10時24分だった。


まあ、いいか、と思って岡谷がふと見ると、紺色のコートを着た麗奈がすでに待っている。


普段と違い、メイクを濃い目にしているが、それも似合っている。岡谷は少しドキッとした。


時間がまだ早いこともあり、岡谷は内心驚いて、麗奈のところに走る。


「麗奈ちゃん、おはよう。待たせてごめんね。」」岡谷は平身低頭である。


そろそろ寒くなってきた。麗奈は学校でも着ているような紺色のコートを着込んでいた。



「寒いのに、待たせちゃって本当にごめん。でもカラオケまだ開いてないんだよ。」


岡谷は言い訳するように言う。


「私が気になって早く着いただけだから、気にしないでください。」麗奈は恐縮したように言う。


「私、こういうところは遅刻したくないので、早く出るんです。早すぎろ時もあるけど、待つのも実は嫌いじゃないんで、気にしないでいいですよ。」


岡谷は不思議に思う

「ただ待つのって、面倒で退屈じゃない?」


「まさか。」麗奈が答える。

「待っている間、その人のことを考えたり、その人とどんなことがあったか、なんて思い出したりしてます。」


麗奈は続ける。

「場合によっては、、その人の知らない一面は何だろう、と考えてみたりもします。 推理小説を読むみたいでなかなか面白いですよ。退屈はしません。」


(ということは、麗奈ちゃんは僕のことを思い出していてくれたのかな。)

岡谷は思う


。これはやっぱり嬉しい。ますます彼女を手放したくなくなる岡谷だった。


ただ、まだそれを表に出さない。


「ちなみに、待っている間、僕のことはどう考えていたのかな?」

岡谷はちょっと意地悪く聞いてみた。



まあ、こんなところで悪口を言うはずもない。

それがわかっていて聞くから、岡谷も人が悪い。



麗奈は笑顔で答えた。


「岡谷さんは、私の文章に命を吹き込んでくれたんです。

それがとても嬉しくて。

それに、曲に詞をつけるのは、初めての経験でした。

最初は難しかったけど、制約があるのが逆にまた面白いんです。 


なんだか俳句や短歌を作っているみたいな感じで、とても楽しくできました。」



作品のことばかりで、僕のことが出てこないな…


岡谷はちょっとだけがっかりした


まあそれはそれで、仕方ないことだ。


カラオケボックスのオープンまでまだ時間があるので、二人は少し散歩することにした。


学校のほうへ向かい、途中で反対に曲がると公園がある。


二人はそこまで歩いて行って、ベンチに座った。


「もう紅葉が始まっていますね。」麗奈が言う。

確かに、木々が色づいていて、枯れ葉も舞い散っている。


「最近、紅葉がどんどん遅くなるって言われますけど、もう紅葉しているんですね。」煉


「まあ、そうは言っても秋だからね。」岡谷は軽く答える。


「秋って、悲しい曲が多いのは何故でしょうか。」麗奈が聞いてくる。


岡谷は、考えたこともなかった。とりあえず思ったことを言ってみる。


「まあ、そういうイメージだよね。枯れ葉が落ちるとか、夏の激しさが和らいで、冬が近付いてくるのがもの悲しいとか。」


岡谷は続ける。

「やっぱり、寒くなってくるってのはもの悲しいかもね。


冬になっちゃえばもう開き直れるけど、だんだん寒くなるというのは悲しいかもね。」


「でも、食欲の秋とか、読書の秋とか、スポーツの秋とか、夏場の暑さがなくなって、アクティブに動ける季節でもありますよね。


スポーツの秋に相応しいい曲なんてないような気がするんですけど。」


言われてみると、そうかもしれない。「秋の気配」なんて曲は、僕があなたからはなれていく、っていう、身も蓋もない歌詞だしなあ。


あれ?岡谷は気づく。

「曲だけじゃなくて、むしろ歌詞の問題だよね。もの悲しいとか、別れとか、そんな歌詞がついた曲が多いからかもね。もちろん、曲ももの悲しいのが多いんだけど。


たとえばジョージ。ウィンストンの曲なんて、オータムってアルバムがあって、それは全部秋だからまあもの悲しいよね。」


「夏に出会って、秋に別れるってパターンもよく聞きますよね。それも悲しいですね。」」


なんだか、ちょっと暗い話になりかけてしまった。そこで麗奈が話題を変えてきた。


「あの、岡谷さんは、ラッキーリーフって知ってますか?」。


「いや、知らない。幸運の葉っぱ?どういうのを言うの?」岡谷は尋ねる。


「枯れ葉です。地面に落ちる前に掴めば、ラッキーなんですよ。ラッキーリーフって言って、アメリカの子供なんかはよく追い掛けて遊ぶそうです。」



なるほど。そういうことをしたい年頃ってのは確かにあるだろうね。


「ちなみに、花吹雪でやると、ラッキーペタルです。日本の桜の花吹雪の季節には、ラッキーペタルを追い掛ける在日アメリカ人の子がたくさんいるんですよ。」


「麗奈ちゃんは物知りだね。」岡炭いは感心して言う。


「いえいえ、ただの受け売りですよ。」麗奈は謙遜する。



「とりあえうずやってみようか」岡谷は言って、落ちてくる枯れ葉を待つ。


ところが、なかなか落ちてこない。ふと気が付くと、遠くに落ちてくる。あっちばかりだ、と思い動いてみると、いままで自分がいたところにやってくる。


これは自然の法則なのだろうか?それともマーフィーの法則?



などと岡谷は考えながら枯れ葉を追い掛ける。


やっと一つ捕まえた。


「お疲れ様でした。岡谷さん、きっといいことありますよ! じゃあ、そろそろ行きましょう。」


麗奈が言う。


岡谷が時計を見ると、すでに11時を15分も過ぎていた。


「ああ。そろそろ行こう。やることはいろいろあるからね。」岡谷も言う。


そういえば、今日、何をするのか、麗奈にはちゃんと説明していなかったな…。


それでも誘いをOKしてくれたのはやはりデートだと思ったからかな。


デートじゃない。いや、男女が約束して会えば、それはデートじゃないかな。


まあ、宿題のやりとりとか、何たら委員会の集まりとかはデートじゃないしな。


じゃあ、今日のこれは、デートじゃないのだろうか? そもそもデートの定義って何だろう。


岡谷はちょっと混乱しかかったが、生来の気質もあって、まあ、いいか、と思った。



彼女がデートだと思わなくても、自分がデートだと思えばこれでデートなんだしな。

しかもカラオケで、密室だ。


もちろん、怪しい動きをするつもりはないんだけどね。



岡谷は麗奈とともに駅の方向に向かって歩き始めた。


目の前に、どんどん枯れ葉が落ちてくる。 一枚は顔に当たり、肩にくっついたりしている。


ラッキーリーフを捕まえようと思うとなかなか捕まらないのに、気にしないでいるとやってくる。


これこそ、マーフィーの法則ってやつだな。 岡谷は心の中で笑った。


ーーーー

(作者)

うーん、カラオケまでたどり着けませんでした。

当初決めていたタイトルを変更せざるを得ませんで。


あと、携帯だと読みにくいのに初めて気づきました。今後は改行を増やします。前のやつも少しずつ変えようかな。

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