第20話 牧人のナンパ
チャラ男イケメンベーシストの時松牧人は、ぶらぶらと駅前を歩いていた。
時間つぶし、というかナンパ相手を物色していたのだ。
実はこの前、校内の女の子に二股かけていたのがバレて、両方から振られてしまったのだ。
どっちもまだヤル前だったので、逃がした魚はちょっと大きい。
今回、白石真弓くらいなら何とかなるのかと思っていたのだが、ちょっとあの一年生がついていると難しいかもしれない。
というわけで、とりあえず駅前にやってきた時松は、一人でスマホをいじっているセミロングの髪型の,ちょっと背の高い女の子に目を付けた。
あの制服は城北高校だ。自分の悪評は伝わっていないはず。
よく見ると、背が高いけど顔の作りは結構可愛い。ちょっときつい感じもするけど、気にないくらいだ。これは行くしかない。
時松は彼女に声をかけた。
「ねえ、そこの可愛いお嬢さん、時間あるならちょっとお茶しない?」
あまりにべタな声かけだが、それなりにうまくいくのだ。 ただしイケメンに限る。
世の中の不公平を実感する人たちもいるだろう。まあ、百戦錬磨のイケメン時松でもナンパは毎回成功するわけじゃない。
それこそ10回に一回成功すればめっけものなのだ。その意味、努力と根性のスポーツ(?)であり、簡単にできるものではないのだ。モテない奴は、それをやったことがないからわからないだけだ。
ただ、モテないやつが百回やってもうまくいかないことだって考えられる。やはり世の中は不公平なのかもしれない。なのかもしれない。
それはさておき。
「ねえ、そこの可愛いお嬢さん、時間あるならちょっとお茶しない?」
時松は声をかけた。
反応すれば儲けものだ。
彼女はちゃんと反応してくれた。大きな目をぱちぱちとさせている。
「うーん、1時間以内ならええよ。」
ちょっと怪しげな関西弁だが、OKしてくれたんだから問題ない。
「じゃあ、ちょっと行こうか。君、近くで見てもやっぱり可愛いね!」
この辺はたぶん常とう句である。知らんけど(笑)。
「兄さん、ええ趣味しとるな。うちに声かけるなんて、なかなか目が高いで。」」
やっぱり怪しげな関西弁である。
「そういってくれると嬉しいね。可愛いと思ったから声かけたんだ。残念少女なら声かけないよ。」
時松はいう。これは本心である。イケメンはより好みできるのだ。
「そんなこと言うて。おたくの高校でも可愛い子がぎょうさんおるやろ。」
この辺はなかなか真実をついている。
「ま、そんなことないけどね。とりあえずお茶行こうぜ。」時松はそういって彼女をカフェ Afternoon Kiss に連れて行こうとした。
「あ、そこはちょっと堪忍な。」女の子が言う。
何かわけがあるのだろう。
そこで、別のカフェに行くことにした。
ここは駅前でAfternoon Kissと人気を二分する、カフェ・レインボーだ。従業員のエプロンに虹のマークがついている。
席へ案内されると、時松はアイスコーヒー、女の子はオレンジジュースを頼んだ。
「まずは名前教えてよ。俺は時松牧人。マキトでいいよ。秀英高校の二年だよ。バンドでベースやってる。」」
「うちは遠藤由美。城北の二年生や。同い年やね。」
ほお。なかなかラッキー。まあ、高校生なんだから確率は三分の一なんだけど。
「マキトくん、バンドやってんねんな。この前の学園祭でもやったの?うち、行ったで。」
お、もしかして俺のバンドの演奏も聞いてたかな。
「うん。体育館で演奏したよ。俺が一番目立ってた。だけど、途中で停電しちまってさ。」
時松はあの時のことを思い出した。あの時、目立ってたのは間違いなく白石真弓だ。
「ああ、あの時な。うちも見てたで。NOASOBIとか演奏してたバンドやろ。
停電したときは大変やったな。」
おお、彼女も聞いててくれたのか。
「聞いててくれて嬉しいよ。あそこでベース弾いてたのが俺だよ。」
ちょっと自慢してみる。
「ベースって、実は全体のリードするから目立たないけどバンドの要だとか言われるやんか。実際どうなん?」
おお、なかなか本質を突いた質問だ。この子、話すと一層面白いな。
「詳しいね。実際、ベースがいるから引き締まるんだよね。フォークデュオとかならさておい、エレキギターがあるならベースは必須だね。ドラムが無くてもベースは絶対だよ。」
「そうなんね。そういえば、ベーシストはえらいモテモテ、って聞くわなあ。
うちのおとんも昔言っとったわ。ベーシストの佐藤なんたらいうのが、アイドルを連れ去ったのなんだのって。ようわからんけどな。」
そんな昔話もあるんだろう。
「まあ俺は、惚れたら一筋だけどな。」大嘘である。
「そんなこと言うて。たくさん女の子泣かせてきたんやないの? マキトくんイケメンやし。」
「そんなことないって。それに、秀英には、ユミちゃんほど可愛い子はいないしね。」
とりあえず由美を褒めてみよう。
「バンドで歌ってた女の子とかどうやの?」
「ああ、あの子はもともとバンドの代役なんだ。当日ボーカルの女の子が風邪ひいちまってね。あの子は、歌は結構うまいけど、外見がちょっと残念だし、好みじゃないもの。
ユミちゃんのほうがずっと可愛いよ。」
ここは本心プラスお世辞である。。
実際、時松はこの遠藤由美に興味を持ち始めていた。
ちょっときつめの顔をしているが、打てば響くように反応が早く、しかも的確だ。 話をしていて心地よい。
ぜひ仲良くなって、体の相性も試してみたいところだ。
話がはずんでいるうちに、由美に電話がかかってきた。
由美はスマホの発信者を見て、嬉しそうに電話を取った。
「あ、ヨシキくん、終わった?うん。近所におるから、10分で行くわ。待っててな。」
彼女はそう言って電話を切った。
「マキトくん、楽しかったわ。でももう行かなあかんねん。」
「じゃあ、連絡先交換しようよ。」とりあえず次回につながないと。
「うーん。うち、彼氏おるから、遠慮しとくわ。堪忍な。」
先にしておけばよかった、と時松は悔やんだ。
「声かけてくれたお礼に、一つ教えてあげたいことあるねん。」由美は真顔になった。
時松もちょっと真面目に聞こうかと思う。
「マキトくん、イケメンやし、女の子の扱いもうまそうや。でもな。上から目線やねん。自分なら女の子よりどりみどりや、思ってるかもしれんけどな。女の子も見とるんよ。」
そんなに上から目線かな。
「相手を可愛いと褒めるのはええ。でもな、他の女の子をけなしたらあかん。特に、一生懸命頑張っている子を悪くいうんは、その子を侮辱しとるようなもんや。
たとえ好みでないにしてもな。けなしたり、評判を落としたりしたらあかんで。それは頑張っている子に失礼や。 そこだけしっかりせな、な。」
彼女はそういって立ち上がった。
「あ、ここは黙っておごられとくわ。おおきに、ありがとうな。ご馳走様。」
最初からおごる気ではあったけど、なんだか食い逃げというか飲み逃げに遭った気分だ。
「じゃあ、またそのうち会えるかもな。マキトくんにええ子が見つかることを願っといてあげるわ。ほな、ダーリンが待っとるさかい、先いくわ。」
由美はそういって去っていった。
こうやって見ると、逃がした魚が大きいような気がしてくる。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。」牧人は独白する。
「しゃーない。またやるか。」
今回は失敗じゃない。
成功のためのワンステップだ。
この試練を乗り越えたら、俺はより大きな男になれる!
(…なぜそう思うのだろう?)
そうして、牧人はナンパに励んだが、結局、翌週火曜日まで、成功することはなかった。
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