第18話 暗雲

後日談2 白石真弓の覚醒(18)


暗雲


翌日水曜日の放課後、僕は集合場所である視聴覚室に行く。手にした鞄にはいろいろ資料が入っている。


ほどなく、メンバー全員が集合した。


僕(尾中孝直)、星野志保、それからバンドメンバー四人、すなわちリーダーの沖峰幹夫(おきみね みきお)さん、ベースのイケメン時松牧人(ときまつ まきと)さん、キーボードの丸メガネの岡谷孝雄(おかたに たかお)さん、そしてボーカルの女性、今 凛子(こん りんこ)さん。

そしてもちろん、白石真弓さんもいる。


創部タイミングで7人というのはなかなかのものだと思う。


僕は皆に向かって挨拶した。


「集まってくださり、ありがとうございます。今日は、『癒しと元気研究会』の記念すべき第一回の集まりになります。 まずは簡単に自己紹介をお願いします。」


お互い知っているかもしれないが、挨拶は大事だ。まずは言い出しっぺの僕自身から。


「僕は、今回の発起人、一年A組の尾中孝直です。発起人として部長をやらせていただきます。よろしくお願いします。」


「尾中君と同じ、1年A組、星野志保です。尾中君とは後夜祭の運営で組んでいました。宜しくお願いします。」


…別にそんな説明いらないのにな。


「2年D組、沖峰幹夫です。バンドのリーダーで、ギターをやっています。宜しくお願いします。」


バンド名はあえて言わなかったのかな。グリーンアップルか、ホワイトエンジェルか。


「同じく時松牧人です。ベースです。」

この人はイケメンだけど影が薄いなあ。すぐ忘れそうだ。


「同じくキーボードの岡谷孝雄です。宜しくお願いします。」

この丸メガネの先輩は器用そうな気がする。


「2年D組の、今凛子です。宜しくお願いします。」


そして最後は

「白石真弓です。至らないところも多いと思いますが、宜しくお願い致します。」

彼女はそういって深く頭を下げた。


こういう奥ゆかしさも素敵だなあ。


僕は皆に告げる。

「では、今考えていることをお伝えします。とりあえず資料を配ります。」


一枚ぺらの資料を配る。


M.M.P

(Mayumi Musician Project)


当面の目標:12月のミニライブ

3曲歌唱

・クリスマスソング

・皆の知っている名曲

・オリジナル曲


なぜオリジナル曲か?

 白石真弓独自の魅力を引き出し、皆に印象付ける

 将来のデビューに向けた持ち歌。

 著作権トラブルの回避


オリジナル曲作成方法

詞先

曲先

同時

の3曲を作り、ベストのものを歌唱。他は持ち歌として準備。


ウェブサイトの作成

目的:プロモーション、知名度増加、将来的な収益化を目指す。

コンテンツ

・歌の動画

・プロフィール

・挨拶

・エッセイ

・ポエム

・生配信★

・オンラインライブ★

・投げ銭★

(★は将来の検討課題)



「こんな感じです。」僕はいう。

皆無言だ。


「まずは12月のミニライブが目標です。曲は3つです。一つはクリスマスソングにすると白石さんから聞いています。」


「『グローリア』という曲を歌わせてください。これはバンドは要りません。」真弓さんが言う。


「それから、皆がよく知る曲。できれば、学園祭で歌っていない曲がいいですね。これはあとで考えます。そして最後はオリジナル曲になるます。」


僕は説明する。


「最大の目玉はオリジナル曲です。彼女にふさわしい曲を作って、彼女の知名度を上げていきましょう。」僕は言う。


「オリジナルは3曲作ってもらいます。」


「何で三曲も作るんだい?」イケメン時松さんが聞いてくる。


「その中で一番いい物を選びたいからです。」僕は平然と答える。


「バンドの御三方には、作詞担当、作曲担当、同時制作を選んでもらいます。皆さんそれぞれ作品を作ってください。どう分けますか?」


僕が聞くと、丸メガネのおかたにさんが、「キーボードの僕が作曲だね。アレンジやリズムも入れることになるからね。」と言ってくれた。


沖峰さんは「俺は作詞だね。ピッタリの詞を書いてやるよ。」


そして時松さんが「じゃあ僕が作詞作曲だね。」と答えてくれた。


僕はそれに答える。

「ありがとうございます。次に、今さんには、振付と衣装をお願いしたいです。踊ることになると思うので、曲に合った振付と、衣装をお願いします。衣装は選ぶでも作るでもいいですが、予算には限りがあるのでそこは宜しくお願いします。」


今さんは、静かにうなずいた。


「つぎにウェブサイトですが、作成できる人はいますか?」僕は聞いてみた。


「そりゃ、岡谷しかいないな。」山口さんがいう。


「まあそうなんだが、暇があるかなあ。」岡谷さんが渋る。


「僕もコンセプトやワイヤーフレームはお手伝いしますので、お願いします。」僕が押す。


彼は渋々といった感じで頷く。


「では次にスケジュールです。」僕は続ける。


「12月のミニライブを考えると、あと2か月しかありません。そこで、バンドの御三方には、1週間でめどをつけtもらいます。来週の水曜までに、岡谷さんは一曲メロディを、沖峰さんは作詞を一つ、それから時松さんは一曲丸ごと、途中まででも書いてきてください。音楽の人は録音して、当日聞けるようにお願いします。」


「え…一週間で?」

と時松さんが言う。


「はいそうです。そうしないと間に合いません。もちろん資料というか参考になるように方向性をまとめてあります。」


僕はそう言って、数枚の資料を取り出した。



「まずは作詞です。イメージに合いそうな感じでこんな雰囲気で、というアイディアを集めてみました。参考にしてください。」


中には、抽象的な「白石さんの魅力を引き出すもの」といったところから、「恋する女の子をテーマに、明るく元気でポップな歌詞を。」などと書いてある。感性のある人はそれでわかるはずだ。



曲についても同じように書いてある。こちらはもっと抽象的にならざるをえないが、明るい曲:例として●●、といった感じで世の中にある曲を例にとっているから、たぶん通じるだろう。


シンガーソングライターの時松さんには両方を渡す。



「あとk、岡谷さんには追加でプレゼントです。」


僕はそういってウェブサイトの資料を渡す。



実はこれはかなり大変だ。多くのコンテンツが必要になるわけだし、レイアウトも映えるもので、かつレスポンシブデザインにしてスマホでもPCでも見られるようにする必要がある。



ビデオもエンコードしてアップすることになるし、他のコンテンツも集めなければならない。 岡谷さんはどこまでできるだろう?僕のワイヤーフレームはすでにある。できれば独自ドメインのサーバーも立てないとね。まあ、それはコストがかかるから、将来的な話になると思うけど。



「あと、皆さんから部費をいただくことになりますが、どれくらい必要になるか、これから計算するので少しお待ちください。少なくとも衣装代にある程度かかることは前提にしなければなりませんしね。」


僕はそう言って微笑む。


皆は無言だ。


「じゃあ、宜しくお願いします。今日は解散します。」

僕はそういって、会議を終わりにした。 さあ、MMPの始まりだ。わくわくするな。


場を、沈黙が支配した。

皆の顔がひきつっているのに僕は気づか無かったが、何となく雰囲気は重苦しい。


その空気を打ち破るように、時松さんが真弓さんに「じゃあ、曲のイメージを固めるためにこれから打合せようか。」と声をかける。


リーダーの沖峰さんも

「おいおい、真弓さんは、これから俺と打合せするんだよ。」と言い出した。


そこへ凛子さんが「沖峰くん、話があるから、それはまたにして。」と結構強い口調でいう。


そこへ真弓さんが、「すみません、用事があるので今日は失礼します。」と言って席を立った。


それを契機に、僕も席を立った。星野志保が追い掛けてくる。 バンドメンバーは残るようだ。まあいい。


僕の横に並んで、星野が話しかけてくる。


「ねえ尾中君、本当にこれ、やるの?」と、不思議なことを聞いてきた。


「当たり前だろう。そのための癒しと元気研究会、MMPなんだから。」僕は答えた。


星野は続ける。

「でも、12月にライブをやろうと思ったら、もう2か月しかないよね。しかも期末試験だってあるし。それまでに三曲作って選んで振付と衣装を付けて、バンド練習して本番、って可能なの?」


僕は答える。

「バンドの人たちは、それをやるのが商売、というかまあ目的だろうしね。大丈夫だよ。それくらいやってもらわないと。」


星野は黙った。

真弓さんをプロモートするのが目的なんだから、みんなその目的に向けて一丸となって頑張る。それがこのサークル、いや部活動の趣旨であり、本位なのだから。


僕は、これからやるべきいろいろなことを心の中でリストアップしていた。

やることは山積みだけど、楽しみだ。


星野志保が、ちょっと暗い顔をしていたが、僕は全然気にしていなかった。


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