第17話 それぞれの火曜日 星野志保(2)

お知らせ:都合により、バンドのリーダーの名前を山咲雅也から、沖峰幹夫に改名します。混乱申し訳ありません。





私が尾中君を後夜祭の運営に誘うと、彼は素直に従ってくれた。これがなぜだか実はわからないけど、私は素直に喜んだ。これで彼と一緒に過ごす時間が増える、と。


それからは毎日、忙しいながらも楽しかった。準備は大変だったけど、彼と一緒だから、別に嫌ではなかった。もちろん、他にもメンバーはいたんだけど。



学園祭の前に、中間テストがあった。

私と彼は、同点一位だった。

私は、勝てなかったのに、なぜかとても嬉しかった。気が合う、なんて思ったりして。



中間テストが終わり、学園祭の準備の追い込みに入った。体育館の進行の手伝い、それから後夜祭の準備と毎日が忙しい。でも、彼と一緒に居られるのが凄く嬉しかった。それに、彼にいろいろ指示されるのも嫌ではなかった。


正直、彼よりも事務作業は得意だし。

ただ、彼は大局を見るというか、全体を大きく捉えるのに私よりも長けているようだった。

細かいことを修正しようとすると、彼は「ちょっと待って。それってそもそも…と言い出すのだが、それが適切なことが多いのだ。


この頃には、いくら鈍い私でも、気が付かざるを得なかった。私は、彼を好きだ。小学校、中学校と、ずっと、周りの女子が男の子のことをどうのこうのいったり、バレンタインにチョコを渡すだの告白するだの言っているのを、私は冷めた目で見ていた。


外見なんてどうってことないじゃない。バカは嫌い。単純な友達ならいいかもしれないけど、つきあうとなったら、私が尊敬できる相手でないと。


それでいて、私だけを見てくれるような人じゃないとね。浮気者は不要よ。


…なんて頭でっかちで考えていた。別に、好きになるような相手はいなったから。スポーツマンだろうがイケメンだろうが興味がなかった。


それなのに。こんな瓶底メガネのチビ男くんを好きになった?ありえない…と思ったのだけど、どうやらそうみたいだ。


背もひくいしイケメンじゃないし…などと思ったけど、ふと自分のことを思う。背も低いし外見も可愛くないし、胸もないし、勉強はできるけど可愛げないし、料理も編み物もできないしメイクもほとんどしない、いわゆる女子力もない。


こんな女の子が、人を好きになっていいのかな。なんて考えたり。もちろん好きになるのは自由だけど、相手に好きなってもらえなければ、付き合うことができない。


でも告白なんてもってのほか。彼が私を何とも思ってないことだけはわかるから。


クラスメイトとして、あるいは勉強のライバルとしては意識されているかもしれない。でも、彼女候補ではないよね。


ただ、彼の外見が大した事がないのは、実はいいのかも。他の女の子が目をつけないから。彼の良さは、私だけが知っていればいいんだから。

ライバルが増えるのは好ましくない。私に競争力がない以上、競争相手が出てこられては困るのだ。




自分の気持ちに気づいてしまった私は、とにかく学園祭の準備で彼と一緒にいる時間を満喫しつつ、この時間が終わってほしくない、と思っていた。


しかし時の流れは残酷なもので(ちょっと大げさかな)、学園祭の当日がやってきた。


ところが、その学園祭で、状況が突然変わってしまったのだ。

そう。彼は、白石真弓さんを見つけてしまった。


学園祭のバンドで、風邪を引いた人の代わりに歌った人。突然の停電のハプニングにもめげず、美しい歌声を響かせた人。


どうやら、尾中君は彼女に心を奪われてしまったようだった。彼女を後夜祭のプログラムに無理やりねじ込んだ。


また、二日目の昼間に準備を抜け出したのは、たぶん白石さんがいた和風喫茶にいっていたったんだろうと私は睨んでいる。


だからこそ、彼女んが持ってきた差し入れを皆に配って尾中君に食べさせなかった。また


また、後夜祭のラスト・ダンスは私と踊らせた。まったく効果はなかったみたいだけど。


なぜなら彼はその前に真弓さんと踊ってきたようだから。悔しい。


翌日の月曜日は打ち上げだった。予定の3時少し前に会場に行くと、尾中君が白石さんと向かい合って話していた。 何、抜け駆けして。



というか、私は尾中君が白石らんとデートしているなんて聞いていなかった。 まあ、もちろん、彼が私にいう理由は全くないんだけどね。


私はとりあえず、尾中君の隣に座った。


打ち上げの席上、彼は「癒しと元気研究会」として白石さんのプロデュースをすると言い出した。  


そんなことを許すと、彼と白石さんが仲良くなってしまう。 それは耐えられない。



だから、彼がメンバー募集したとき、私も手を挙げた。 彼と、少しでも一緒に居られるように、と。


私は別に白石さんのことを嫌いなわけじゃない。ただ、私が好きになった人が、私じゃなくて白石さんを好き、というだけ。



なんだか簡単な一言だけど、現実はそんな簡単に終わるもんじゃない。


彼が白石さんのプロモートをする、と言ったら胸が痛くなった。だから思わず、彼が立ち上げるサークルに入ると宣言してしまった。

学業のライバルだから、という域をすでに越えている。ああ、恥ずかしい。でも尾中孝直という人は、一倍鈍感で、男女の機微なんかわかるはずもなく、私の恋心は気づかれることもなさそうなんだけど。



というわけで火曜日になった。


学校へ行くと、「学園祭お疲れ様」とか「後夜祭の司会、よかったよ。」とか声をかけてくれる人たちがいる。 


なぜかそれだけでも、やってよかったと感じる。


尾中君が来たので、私は声をかける。

「ねえ、尾中君。例の研究会活動は何をするの?」


彼は面倒臭そうに答えた。

「それは、明日まとめてみんなに説明するよ。だから、今日中に研究会立ち上げの手続きを済ませて、明日の放課後、どこか場所を取っておいてくれるかな。」


何それ。人のことを何だと思ってるの? まあ、そういうの、得意なんだけど。 私は答える。

「しょうがないな~じゃあ、申請だしておくね。みんなの入部手続きの書類もいるね。ああ、そこはメッセンジャーで全員に伝えればいいね。とりあえず、何とかするから、明日はちゃんと説明してね。」


面倒臭そうに言ったつもりだけど、彼に頼られるのは嫌ではない。ちょっとだけ顔がほころんだのは内緒だ。


それだけではつまらないので、私は彼に聞いてみる。

「もし、今日放課後に白石さんと打合せするんだったたら、私も同席してあげるから。」


ちょっとだけ牽制球のつもり。まあ彼は試合しているつもりはないかもだけど。


彼の答えはちょっと意外だった。

「今日の放課後は、用事があるんで、放課後は真弓さんと話してる時間もないよ。」


真弓さんがいないなら、私が独占してもいいよね。

「もし白石さんと会わないなら、私と今後の方針について打合せしてほしかったのに。」


でも彼の答えはノーだった。

「残念ならが、時間がない。それに、君にはもう十分働いてもらってるから、これ以上は勉強の妨げになるし、あまり気が進まないな。」


本気かどうかよくわからないけど、なんだか私に気を遣ってくれているような気がする。せいぜい頑張ろう。



私はすぐに、部活動の書類を書きあげた。最初は同好会扱いだけど、うまくいけば部にも昇格可能だ。


まずは同好会として教室の使用を確保し、ゆくゆくは部室ももらうし学校からの補助も狙う。

そのためには、まずは入部届が全員分必要だ。私は皆にメッセンジャーで連絡すると同時に入部届を印刷し、昼休みを使って2年D組のバンドメンバー4人(ボーカルの凛子さんも当然含む)、それから白石さんの入部届を集めた。


部の設立届は部長である尾中君が署名するので、用紙を準備し、署名してもらってある。

あとは私の分を足して、生徒会室に行って書類を渡す。


山口会長と、香田書記が二人で昼ご飯を食べていた。

この二人、やっぱりつきあっているんだろうな。同じお弁当のおかずだった。


来年は私も尾中君と一緒にお昼を生徒会室で食べたりするのだろうか?


そのためにはハードルが二つある。彼が真弓さんをあきらめてくれること、そして私を好きになってくれることだ。


でも、このサークル活動は1番目のハードルとは逆だ。彼女を応援すれば、彼はどんどん白石さんと接近する。 それをただ見ているのも嫌だ。 そこはちょっと葛藤がある。でも、この活動をサボタージュする気は毛頭ない。それは私のプライドが許さないから。そそれはどんどん勧めたうえで、正々堂々、白石さんと張り合う櫃ようだあるのだ。


なかなか尾中君は私の気持ちに言気づかないだろうから、どこかではっきりさせる必要はあると思うのだが、まだそれを明らかにする勇気はない。



山口会長が言った。

「書類はこれでいいけど、顧問になる先生を探しておいてね。掛け持ちでもいいから。」


そうだった。一応形だけ顧問が必要なのだ。同好会では一応不要なんだけど、部に昇格するにはお金がからむので、責任をとれる先生が必要なのだ。


誰かいるかしら? 普通に考えると音楽室を使っている駒谷珠子先生なんだけど、合唱部だときついかな。



結局放課後に、文芸部の顧問の風見先生に相談したら、快くOKしてくれた。なんだかわからないけど、応援するといわれた。とりあえず一安心だ。


みんなに明日の場所も連絡したし、とりあえず今日の火曜日は充実して、うまく言った日だと思う。


明日がもっといい日になるといいな。



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