第16話  それぞれの火曜日 星野志保(1

お知らせ:都合により、バンドのリーダーの名前を山咲雅也から、沖峰幹夫に改名します。混乱申し訳ありません。




==星野志保視点==


火曜日の朝。

なぜか、朝早く目が覚めてしまった。


今日は普通に学校がある。


でもまだ起きるには早い。


私は、今までのことを振り返ってみることにした。


私はもともと優等生で通っていた。小学校でも、中学校でも一番から落ちたことは無かっった。運動はいまいちだけど、学業でいえばいつでもトップ。それが当たり前だった。


だから、地元でトップのこの秀英高校でも、私が一番だと信じて疑わなかった。


でも、その自信は、入学式でいきなり崩れ落ちた。

成績トップがなる、新入生代表は、私ではなかった。小柄でメガネをかけた、尾中孝直という男の子だった。彼は私と同じクラスになり、あろうことか、私の隣の席になった。 


まあ、お互い背が低いので、前のほうの席になることは当たり前だけど、よりによって隣とは。


外見はさえない男なのに、私より成績が上? 信じられないし、許せない。誰を許せないのかって? 尾中孝直と、私自身、両方よ。


中間テストでは挽回しないと。私はそう思って勉強に励んだ。


数学の試験の直前の休み時間も、解き方がわからない問題を見ながら考え込んでいた。答えはあるんだけど、その導き方がわからない数学の問題だ。


その時、尾中孝直の声が聞こえた。

「この問題なんかの場合、三乗に関するこの公式を使っていいんだ。これを代入して展開していけばこうなる。これを整理すれば…。

これは私に言っているのではなくて、彼の後ろの席の男の子に対して説明しているのだ。



たまたま同じページについて考えていたらしい。尾中君の説明はクリアで、わかりやすかった。


本番の試験で、その問題が出た。私は彼に教えられた通り、数式を解いた。


中間テストの結果は、私がトップ、2点差で尾中君が二番だった。私は辛くも逃げ切ったが、実はこれは尾中君のおかげであっることに私は気づいていた。あの問題の配点は3点。


私があの問題を解けなかったら、彼がトップだったのだ。私は彼に助けられただけで、本当の一番は尾中孝直だったのだ。


でも、誰もそれを知らない。当人、尾中君さえも。


試験の結果が貼りだされ、私が一位、彼が二位となったあと、彼から「星野、一位おめでとう。」と言われた。


これほど屈辱的な賞賛はなかった。

彼は本気でそれを言っていた。しかも、全然悔しそうではない。「いい天気だね。」というのと同じような雰囲気で言ってきたのだ。


彼にとって、一位であることはそれほ大きな問題ではないようだった。それがまた私をいらだたせた。


私は二度連続で彼に負けた。私がそれをとても悔しく思っているのに、彼は何とも思っていないように見える。


その日以来、それまで以上に私は尾中君のことを気にするようになったあ。


彼に負けたくない。その感情が常にある。それを確保するためには、彼の日常生活、行動を知る必要がある。


なぜかそう思った私は、彼を毎日観察するようになった。 彼は理数系は得意だが、国語や英語はいまいちの部分がある。少なくとも私と比べると、文系科目は劣るけど、理系は私より上。 もちろん、トータルで見たらどんぐりの背比べみたいなものだけど、お互いの得意に差があるので、バラナスは取れている。


これでお互いに教えあったら、鬼に金棒、というかパーフェクトだね、などとふと思った。 あれ?なぜ私はそんなことを考えるのだろう。


彼が何をしようとも、私には関係ないはずなのに。


期末テストも頑張った。2点差で私が一位。今度こそ、一位を取れた!

私は嬉しかった。


尾中君に自慢してやろうと思った。

「また一位だね、おめでとう。」自慢する前に、尾中君に言われた。


「あ、ありがとう」私はちょっとどもりながら答える。

彼を二度もくだして(本当は初めてなんだけど)、爽快な気持ちになるかと思ったら、そんなことは全然なかった。


何故だろう?考えてみる。たぶん、私は尾中君の悔しがる顔が見たかったのだ。


でも彼は平気な顔をしている。内心は悔しいんだろう。私はそう思いたかったが、彼にはそんなそぶりは無かった。


「星野は夏休みはどうするのかな?」いきなりそんなことを聞かれた。

私には大した予定はない。


部活動にも入っていないし、両親の実家も地元なので、帰省もない。


「特に大した予定はないよ。友達と近所に遊びに行くくらいかな。あとはお祭りをどうしようかな。」


とりあえず言っておく。あれ?友達って誰だろう。自分で言いながら、ちょっと考え込んだ。考えってみると、夏休みに遊ぶ友達なんていない。


ましてや、お祭りに行く相手なんか。


彼は平気な顔で。「そうか。僕も同じだよ。祭りなんてあったんだな。まあ、その辺で会ったらよろしくね。」


それで会話が終わった。

どうせなら、遊びに誘ってくれればいいのに。 私はそんなことを思った。

お祭りにでも誘ってくれたら、浴衣を着こんで出かけたいな…。


…あれ?なぜそんなことを考えるんだろう。その時、私は彼を意識していることに、初めて気づいた。


でも、夏休み中には、何も起きなかった。友達?からの誘いはなく、お祭りには行かなかった。


彼はクラスのメッセンジャーグループに入っているので、私にも連絡がすぐ取れる。 でも彼からの連絡はなかった。


私から連絡なんて、死んでも嫌だったけど。


夏休みの終わりころ、たまたま生徒会副会長の高橋香苗さんに会った。


これは完全にたまたまの機会だったのだけど、香苗さんは千載一遇の機会だと思ったみたいだ。


彼女から、学園祭の後夜祭の手伝いをする人がいないか聞かれた。口ぶりからは、私にやってほしいという感じが伝わってくる。


後夜祭の手伝いをすると、だいたい翌年の生徒会にも係わることが多いらしい。


これはチャンスだ。私は、自分がやる、と言い、また他の人も誘うことを高橋さんに告げた。尾中君を誘う口実が出来た。。

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