第12話 それぞれの火曜日 真弓 (1)
==白石真弓視点==
朝はやっぱり5時半に目が覚める。でも、今日からまた、走ることにした。
まずは体力づくりをしよう、って思ったからだ。
まだ朝は暗い。 それに、あまり長い距離を走るわけじゃない。
ちょっとリラックスしてから、着替えて、タオルを首に巻いて走り出す。
久々だし、とりあえず今日はゆっくり。体がほぐれるくらいにしておく。
戻って、シャワーを浴びて朝食。髪の毛が生乾きのままだけど、先に朝食にする。
そのあと髪の毛をブローして、軽くメイクしてから着替えて学校へ。
学校が近付くにつれ、同じ学校の生徒たちが周りを歩くようにいなる。それはいつものことなんだけど、なんだか いつもと違い、周りから視線が来る。
「ほら、あの人だよ。」といったひそひそ話も聞こえる。
悪いこと言われてるわけじゃないから、とりあえず放置する。
そのうち、赤バッジ一年生の女の子が一人、やってきた。
ちょっと小柄で、黒いショートカットの髪型。
私は面識がない。でも、向こうから声をかけてきた。
「白石さん、おはようございます!:」
「おはようございます。」私は無難に返事をする。
「…すみません、あなたの名前が思い出せません。あの、どちら様でしたっけ?」
私は問いかける。名前を忘れてる、というか最初から知らないのだ。
彼女はぴょこんと頭を下げた。
「あ、絡むのは初めてだから、ご存じなくても仕方ないです。 1年B組の坂峯みかさといいます。私、合唱部なんですけど、白石さんの声に感動しました。 合唱部で、一緒に歌いませんか?」
なんと、合唱部の勧誘だった。彼女は一年生なのに、勧誘やるんだね。
「お誘いありがとうございます。私も、歌が大好きです。 でも、やりたいことがいろいろあるので、合唱部には入れません。ごめんなさい。」
私はそう言って、頭を下げた。
みかささんはびっくりして、向こうも頭をぺこぺこ下げた。
「ごめんなさい、謝ってもらうようなことじゃありません。そんなつもりじゃなかったんです。単純に、一緒に歌えたら楽しそうだな~って思っただけです。」
「どこかで一緒に歌う機会があるといいですね。」私はそういって笑顔を見せた。
別に、アイドルを目指すわけじゃない。歌いたいだけの私だから、そんなに気取る必要なんかない。それに、ジャンルだって別にアイドルソングでなくていい。
みかささんが離れていったと思ったら、今度は1年生の男の子がやってきた。なんだか緊張してて可愛らしい。
「し、白石さん。僕は1年A組の…。ひでぶっ」言いかけたところで、突然彼は突き飛ばされたように私の前から離れていった。
あれ??と思うと、そこには尾中君がいた。
「真弓さん、朝から変なのにつきまとわれましたね。すみません。あいつは、僕からしっかり言い聞かせますから。」
どうやら知り合いみたい。
「そんなに気にしおてないから大丈夫。でもありがとう。こういうの、慣れてないから、どうしていいかわからなくって。」
私は正直に答えた。急に来たモテ期。男女ともにモテる感じ。どうしよう。
あの3大美女は、こんな人たちをうまく相手にしてたんだね。すごいなあ。
私は素直に感心した。
「告白とかは、笑顔で断っていれば大丈夫ですよ。そのうち落ち着きますから…きっと。」
なんか、最後のほうはちょっと自信無げだなあ。それはちょっと困るかも。3年生が来ると、小柄な尾中君じゃ対処しきれないかな…
って、何、尾中君がいることを前提に考えるの? 彼だって忙しいんだから…。
「まあ、僕も真弓さんをいつも守れるわけじゃないですから、申し訳ないですけど自衛もしっかりしてくださいね。」
まあ、当たり前だよね。
それから学校までは、尾中君と連れだって歩いた。
「あの子だ。あの歌のうまい子。」
「隣にいる頼りないメガネの一年坊主は何だ?」
「なんか、あの体形でボディガード気取り?」
「いや、まさかな。単なるファンだろうね。」
「あ、あの子、後夜祭やってた子だよね、たぶん。」
「あ、そうだったかも。でも、背が変わらない、目のくりっとした女の子のほうが可愛くて目立ってたから、男の子のほうは覚えてないや。」
何か、いろいろ言われてるなあ。
私は気にしないけど、尾中君のほうがちょっと気になるな。
横目で見ると、やっぱりちょっと動揺している感じだ。
「尾中君、気にしないでね。私なんかより尾中君のほうがずっと優秀なんだからね。」
私はそういって慰めた。尾中君は黙ったままだった。
学校の昇降口で尾中君と別れて、自分の教室に行った。
もう学園祭の面影は残っていない。
教室に入ると、クラスの女の子たちが何人か寄ってきた。
「真弓、あんなに歌うまかったの?すごいね。」とか
「何だか他のクラスの男の子たちが噂してたよ。」とか
いろいろ言われた。
男の子たちが私を見る目も、ちょっと変わったかも。
でも…三重野君はまったく変わらない。
彼の態度は何なの? 「俺はお前には興味ない」と全身からオーラを出している。
別に、付き合ってくれとは言わないけど(もちろん本当は言射たんだけど!)、せめて、
少しは興味あるそぶりだけでもしてほしいなあ。
昼休みになると、学園祭前は生徒会室で食べていた三重野君も高橋香苗さんも教室で食べるようになったので、美女ランチがフルメンバーで復活している。
あの3人の綺麗さは、やっぱり別格だね。
妹キャラの原中理恵さんにはまだ四分六分くらいで対抗できるかもしれないけど(もちろん私の負ける可能性のほうが高い)、あの三大美女はやっぱり物が違う。
いくら私がアイドルっぽくしたって、本当のアイドルである高部希望さんにはとてもかなわない。彼女に並ぶのは、それこそタカノゾミでしかないなあ。
当然、知性とおっぱいの大きさでは高橋香苗さんに勝てる要素はないし、スポーツ少女のしなやかさにも私は勝てない。
そうね。ダイヤモンドとガラス玉くらいの差がありそうね。自分で言うのも何だけど。
私は、クラスの女の子たちとお弁当を食べた。
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