第3話 いきなり! ステージ (改訂版)


私、白石真弓は忙しかった。


なぜか、廊下には私との握手のために男の子たちが並んでいるのだ。

どうやら、行列が行列を生んでいるらしい。


それだけではない。

いつのまにか、Dクラスの私の元クラスメイト、小今里舞子が、客引きをしている。


「はい、二年生の隠れたマドンナ、白石真弓ちゃんとと握手したい人は並んでくださ~い。 みんな、直前に手をアルコール消毒してくださいね~。


握手したら、順番にお店に入るんですよ~。」


どうして、こうなったのかな。


でも、それを考える間もなく、私は握手を続けた。

上目遣いで手を握る、それだけ。


でも、どの男の子も、目が泳ぐ。左右に動く子もいたけど、だいたいが私から目を下にそらして、それからずっと動かない。


男の子って、みんなこうなのかなあ。三重野くんは、そんな感じなかったけどな。


途中で握手した3年生のちょっと暗い先輩なんか、握手のあと、「18年間生きてきて、母親以外に手を握られたのは初めてだ!当分、。手は洗わない。」


とか言っていた。

もちろん、「そんなこと言わないで、ちゃんと洗ってくださいね。」とフォローしておいた。


私との握手が終わると、みんなお店に入っていく。

「かわいい子が待ってますからね。」と言って送り出すんだけど、時々、中から「おいなんだこの芋畑は」とか、「看板倒れだ~」とか声が聞こえてくるけど、意味がわからない。


行列はとぎれないけど、お店も一杯で、人が何人か出て行って、片付けたら次を呼ぶ、ということになった。

それでもすごい行列は続く。 でも、一応一時までって約束だったので、12時半くらいで受付を終了した。

最後の握手が終わったのは12時55分。まさにぴったりだ。


舞子が来て、「真弓、ご苦労様でした。はい、これ約束のおにぎり券ね、とってもありがたかったわ~。できたら、このあともやってくれない?」


そうは言っても、私だって展示を見たいし、明日は中学の同級生、怪しい関西弁をあやつる遠藤由美も来る予定だ。


「うーん。明日の午後ならお手伝いできるかな。でも、あまり期待しないで!」

私はそう答えておいた。


「一応、明日また連絡するね~」舞子はいう。去年同じクラスだったから.メッセンジャーやメルアド、携帯番号はわかっている


「まあ、楽しかったから、気が向いたらね。」私はそう言って、更衣室で制服に着替えた。制服と言っても、まだ衣替え前だし、暑いので、上はブラウフとリボンだけだ。、サッカー部と料理部の共同売店に向かった。


「あの…」なんだか声が聞こえたような気がしたが、たぶん気のせいだと思い、そのまま進んだ。

最初のほうで握手をした瓶底メガネの1年生の男の子だったようだけど、よく聞こえなかったし、私は気にも留めなかった。


お昼時間を少し過ぎていたけど、料理部・サッカー部合同の店はまだ混んでいた。

もらった券を「Jリーグセット」という、サッカーボールおにぎり二つとカップの味噌汁のセットと交換する。


席がないので、移動することにした。 教室を出ようとすると、「本当に、三重野君のおかげね~」と女の子の声が聞こえた。どうやら料理部の人みたいだ。


「ああ、まさにそうだな。つぶれそうだったサッカー部も復活したし、俺たちも仲良くなれた。三重野って、目立たないようで本当は凄い奴だったんだなあ。」男の子はサッカー部の部長さんだ。


三重野君、いつの間にこんなに人望がある人になってたの?もともとjは目立たなくて気づかないくらいだったのに。


私は、落ち着く場所を求めて、体育館のほうへ移動することにした。


体育館では演劇やらバンドやら、ずっと何か催し物をやっている。中tでは食事はできないだろうけど、体育館の脇にベンチがある。あの辺なら、多分ゆっくりできる。


秋風に吹かれながらの昼食も、悪くないと思う。隣に三重野君がいれば、もっといいんだけど。


体育館脇に行くと、何やら男の子3人が頭を突き合わせている。一人は私も知っている、去年のクラスメイトだ。たしか、沖峰幹夫(おきみね みきお)くん。


「もう一度電話してみるよ。」彼はそう言って、スマホを手に取った。

「…あ、ヤマサキだけど、調子はどうだい? ああ、そうか、うん、その声を聴いたらわかるよ。お大事にな。じゃあ。」


何やら深刻そうだ。

私は、おにぎりとみそ汁の袋を持ったまま、聞いてみることにした。

「ヤマサキくん、どうかしたの?」


ちょっと長めの茶髪をなびかせて、沖峰くんが答える。

「ああ、白石か。ひさしぶりだな。…ちょうどいい。お願いがあるんだけど。」

いきなり聞いてきた。なんだか必死な感じだ。


「誰か、歌が歌える女の子、紹介してくれないか?今すぐに。」


今すぐ、ってずいぶん急な話だよね。

「何それ?とりあえず事情を教えてくれる?」私は聞いてみた。



彼らは2年D組でバンドを組んでいて、これから演奏なんだけど、ボーカルの女の子が風邪をひいて声が出ないそうだ。


たぶん、和風喫茶も休んだ子だね。

私は聞いてみる。


「どんな歌をやるの?」


「NOASOBIと、いろものがかりと、あいひょんの歌だよ。歌えそうな女の子知らないかい?」


私は答える。

「たぶん、私全部歌えるよ。たぶん、歌詞見なくたって大丈夫だよ。」


「本当かい!」沖峰君は飛び上がって喜んだ。

「ぜひ、歌ってくれないか。実は、うちの順番は3時からなんだ。」


もう2時近い。


私は答えた。「いいよ。でも、先におにぎり食べさせてね。そのあとで、ちょっと音合わせしよう。」


3人はハイタッチした。他の二人はやっぱりD組で、背が高い時松牧人(ときまつ・まきと)君がギター、それからちょっと背がひくくて、丸いメガネをかけている岡谷孝雄(おかたに・たかお)くんがキーボード、そして沖峰君がベースだそうだ。


空き教室へ行って練習しようかと思ったけど、移動時間が勿体ない。

電源はないけど、岡谷くんのギターで練習することにした。


彼のギターはセミ・アコースティックというらしく、エレキギターと普通のギターのハイブリッドな感じで、電源なしでもそれなりに音が出る。


まずはいろものがかかりの曲をやってみる。

ギターに合わせて小さな声で歌ってみる。うん。音は合っている。


どこまで歌うか、間奏や繰り返しをどうするか、など打合せせていく。

特に、NOASOBIの曲は長いので、うまく切っておく。


それぞれを二度ずつ練習したら、もう15分前田。

私たちは、急いで体育館のステージ脇に行った。


前は演劇で、どうやら終わったところで、舞台挨拶をしていた。


「ギリギリセーフだな。」沖峰君は言った。


舞台袖から、生徒会長の山口君がやってきた。彼はどうやら一日こちらの係らしい。

会長なのに、全体を見なくてもいいのかな?


「オカタニ、準備はいいかい?」山口君が聞いてくる。


「ああ、もう大丈夫だ。強力な助っ人も連れてきたし。」丸メガネの岡谷君は笑顔で答える。

山口会長は私を見た。


「あれ、白石さんがピンチヒッターになったの? がんばってね。」山口会長はさわやかな笑顔を見せた。私は無言でうなずく。


舞台の幕が下り、女の子が迎えに来た。あ、この子は生徒会の子だ。たしか山口君と付き合い始めたって聞いた。だから二人でこっちでやってるのね。うーん。職権乱用?



「バンド名はグリーンアップルですね?」彼女が沖峰くんに確認する。


沖峰くんはちょっと立ち止まって。「ごめん。改名させて。俺たちは、ホワイトエンジェルだ。」 突然名前を替えるって何だろう。


「即興にしてはいいね。」時松君が言う。、岡谷君も「ホワイトエンジェル、いいじゃないか。よし、それで行こう。凛子ちゃんはいないし、白石さんがメーンだからね。」


よくわからないけど、バンド名は決まったようだ。


「スタンバイお願いするよ。」山口会長が言う。


3人は、楽器に電源をセットし、チューニングをする。私はマイクの位置を確認し、二つあるうちの片方のマイクスタンドを少し下げる。


沖峰君が、山口君に親指を立てる。


生徒会の女の子が、アナウンスをする。

「次は、2年D組の沖峰くんが率いるバンド、ホワイトエンジェルです。どうぞ!」


幕がゆっくりとあがっていく。

観客席は暗いけど、それなりに人がいるのが見える。


MCは沖峰君だ。


「こなさん、みんばんわ。」

会場がしーんとする。


「あ、違った。みなさん、こんばんは!」受けを狙ったようだ。


「おい、まだ真昼間だぞ。」横から岡谷くんが突っ込む。


「細かいことは気にしないの!そんな僕たち、ホワイトエンジェルにちょっとお付き合いください。

じゃあ、行きます!」


キーボードが軽くコードを弾き、すぐ止まる。

ここは音の高さを教えてくれるためだ。


私は歌い始める。

「浮かぶように、溶けてゆくように…」

一曲目はNOASOBⅠだ。


私のアカペラが響く。そしてすぐ、キーボードの軽快な伴奏が始まる。

オリジナルはキーボードだけだが、ギターとベースもうまくアレンジしてハーモニーを奏でる。


私も大好きな曲なので、軽快に歌う。カラオケよりずっと気持ちいい。


一曲目が終わったところで、予想より大きな拍手があった。

口笛を吹いている人もいた。

結構受けたみたいだ。


沖峰君がバンドの紹介をする。

「えー。さっき名前が決まったホワイトエンジェルです。じゃあ、バンドのメンバー紹介をします。」

と言って、三人の紹介をしたところで、私の紹介になった。


「我々の救世主、突然現れた純白の天使、僕らにとってのホワイトエンジェル、ボーカル、白石真弓さんです!」


拍手喝采だ。

ああ、ホワイトエンジェルって、私のことだったのね。何か嬉しいな。あと二曲頑張ろう。


次は、いろものがかりの曲だ。これも大好き。

軽快にノリに乗って歌い、いよいよ最後の曲だ。


あいひょんの「あした社会が終わるとしても」

知っている人は少ないかもしれないけど、私は大好きだ。 あいひょんはギターの弾き語りも多いけど、こsれはバンドをバックにした曲だ。このメンバーにちょうどいいから選んだんだろうか。


イントロが始まり、そして私は歌いだした。イマドキの曲と違って、早さはそれほどでもない。


あした社会が終わるとしても、僕は君と一緒にいたい、そんな曲だ。私もなんだかそんな恋、もう一度したいな。


そう思いながら、心をこめて歌い上げる。


ラスサビの前で、突然事件が起きた。


突然、停電し、場が真っ暗になったのだ。会場は真っ暗だ。バンドの音も聞こえない。

どうしよう…。





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