第1話 学園祭の始まり


==白石真弓視点

学園祭が始まる。

登校して最初にホームルームがあるけど、その後はすぐに準備に入る。

みんなそれぞれ楽しみにしている感じだけど、私、白石真弓にとってはそれほど楽しみではなかった。


私は部活に入っているわけでもないし、このクラスでは展示もなにもやらない。


もともとクラス展示は自発的にやるものなのだけれど、このクラスの有力メンバーが他のことで全然活動できないからだ。


クラスの中心メンバーである、イケメン眼鏡の山口くんは、生徒会で忙しい。なんといっても会長だからね。あ、私としては特に彼をイケメンだとは思ってないけど、周りの連中が言うのよね。


イケメン眼鏡、とか鬼畜メガネとか。何が鬼畜なんだか意味がわからないけど、そういって盛り上がっている人たちがいる。あの人たちの単語はあまり理解できないことがある。日本語をしゃべっているし、知っているはずなんだけどわからない。わざとなのか、デュフフフ、などと変な笑い方をしたり、突然ハアハアなどと言う。何なのかしら。


攻めとか受けってどういうことなんだろう。カプとか言われてもわからないし、名前の順番を変えるだけでキャーキャーとかデュフフとか言っている。なんだか目が怖いときもあるので、そんな話をしているときには近付かないようにしている。


それはさておき、中心人物がいないのよね。もう一人、女子のリーダーとも言える高橋香苗さんは、綺麗だしクラス委員もやっていてリーダ-シップもあるんだけど、彼女も生徒会副会長で忙しいのよね。


彼女は三大美女の一人と言われてる。黒髪ロングヘアで、整った顔立ちだ。いわゆる正統派の美人ね。欠点としては、三重野君と仲良しなことかしら。


そう。三重野晴君。私が好きだった人。

ついこの前、きっぱり振られちゃった。


私がこの学校にいるのは、彼のお陰だ。陰キャで瓶底メガネのぱっつん頭の私がイメージチェンジできたのも、彼のお陰なの。


私は彼に振り向いてほしくて、ダイエットもしたし髪型も替えてイメチェンした。眼鏡もコンタクトに替えた。努力の甲斐あって、それなりに見られる、中の上か上の下くらいにはなれたって思ってる。。


そして、二年になって念願の同じクラスになれた。


でも。


同じクラスには、三大美女がいた。アイドルみたいな高部希望(たかべ のぞみ)さん。

さっき言った、黒髪美女の高橋香苗さん。そして、スポーツ元気少女の倉沢珠江さんだ。


三人、誰が見ても美女、あるいは美少女だ。一人だけいれば、ミス秀英学園と言われても不思議はない。そんな女の子たちが三人もいるのだ。


私はなかなか三重野君のハートをつかむことができなかった。


というのも、彼は突然イケメンになり、美女三人と仲良しになって、なぜか学校中の女の子とキスをしまくっていたのだ。意味がわからない。


それなのに、彼は私にキスをしてくれなかった。何度も頼んだtのに。



そして先日、最後にキスしてくれた。最後にね。 私が彼を忘れるために。

で、めでたく最後のお別れのキスを果たし、私は彼を忘れた…。


…と言いたいところだけど、なかなか人生はままならない。

だって彼は私の席の後ろに座っているのだから。嫌でも毎日目に入る。


あの日、私はたしかに彼を忘れた。 

…そして、翌日思い出してしまったのだ。何これ。意味わかんない。


キスなんかしてもらったから、またキスしてほしくなっちゃった。

本当ならなんだかの加護があって、願いがかなうはずだったのに、なぜか叶わなかった。

彼への思いは、まだくすぶっている。


でも、もうあからさまにはしないつもり。彼にお願いして、忘れるためにキスしてもらったから。

彼の気遣いを、無にしたくないから。


…話がどんどん飛ぶわね。


クラスの中心人物の高橋香苗さんは、生徒会副会長で忙しいからやっぱり無理。


スポーツ少女の倉沢珠江さんは、陸上部の練習でやっぱり無理。


あと、もう一人の長身イケメン長江君も、バスケ部が忙しいからやっぱり無理なのよね。


しいて言えばアイドル系美少女の高部希望さんなんだろうけど、彼女も特に率先して何かやろうとはしかなった。聞いたときに、なんだか別のプロジェクトが忙しいとか言ってたものね。


あと、妹キャラの原中理恵さんもいるけど、彼女はあくまで妹キャラであって、誰かのサポートすることがあっても、自分で何かするような感じじゃなかったのよね。


私もそんなつもりはなかったし、結果としてクラスの出し物はなし、となった。


こういうのって、結局リーダーシップを取る人がいないと無理なんだよね。私も特にやりたいものがあったわけじゃないし。



…というわけで、学園祭が始まった。

朝のホームルームが終わると、荷物を持って(あるいは片付けて)各人、どこかへ消えていく。部活の人はそちらへ。友達と回る、何ていう人もいるし、もちろんクラスメイトが集まって回るグループもある。


ただ、私はあまり気が乗らなかった。だから、クラスの子の誘いにも応じないで、ちょっとこの教室で物思いにふけって見ようかな、と思った。



すると突然、三年生の男子2名が入ってきた。

「はい、この教室は更衣室として使うので、皆さん移動してください!」

大柄な先輩が声をあげる。

皆、鞄を持って出ていく。先輩二人は、机を片付け始めた。といっても部屋の端によせて、スペースを作るだけだが。


何となく、私も手伝うことにした。

とくに理由もないんだけど、どうせ暇だし、いいかなって。


机はすぐに片付いた。先輩はどこかから衝立を持ってきて、ドアの前に置く。

「どうもありがとう。助かったよ。」先輩は言う。ちょっとさわやかな感じだ。


「どういたしまして。」私は答える。でも特に彼に関心はない。


「あー。。こちらカツオ、二年B組終了・どうぞ。」突然先輩が話始めた。


よく見ると、ヘッドセットをつけている。このインカムで誰かと話しているんだろう。」

「ああ、ハル、お前のクラスだ。」


え?話している相手は三重野君じゃないの。


「ああ、手伝ってくれるかわいい子がいたからすぐ終わったよ。え?誰かって。ちょっと待てな。」


彼はそう言って、私のほうを向いた。

「手伝いありがとう。俺は三年の左右田勝男だ。あなたの名前を教えてくれる?」


突然言われて、反射的に答えてしまう。「二年B組の白石真弓です。」


「真弓ちゃんか、ありがとう。」左右田はそう言うと、インカムに話しかけた。

「白石真弓さんだ。かわいい子だな。知ってるか? ああ、そりゃクラスメイトだしな。じゃあ、次行くわ。」


左右田先輩はそう言って、もう一人とともに教室を出ていった。


別に、私は三重野君にアピールしようと思ったわけじゃないのに…。ちょっと複雑な心境になった。


この部屋は更衣室になったことだし、どこかに移動しよう。

私はそう思い、教室を出た。



出たとたん、荷物を持った女の子にぶつかってしまった。

彼女は段ボール箱を抱え、その上にいろいろ載せていたようで、荷物が崩れてしまった。



「ごめんなさい。壊れてないかしら。」私はそう言って、荷物を拾う。

「大丈夫ですよ。」可愛らしい声が聞こえた。

見ると、ちょっと垂れ目の、元気な感じの可愛らしい女の子だ。なんだか、どこかで見たことがあるような気がする。


「荷物拾ってくれて、ありがとうございます。白石真弓先輩。」彼女はそう言ってきた。

え?この子、私を知ってる…?


「この前、学校の門で会ったじゃないですか。うちの兄と一緒に。」


兄?もしかして…


「自己紹介しますね。上から読んでももみえのえみ、下から読んでもみえのえみ、そんな私はみえのえみ~ 三重野晴の妹、バド部のエミちゃんこと、三重野笑美です。兄がいつもお世話になっております。」


笑美はそう言って、頭を下げた。


「…お世話できたら良かったんだけどね…」私はぽつんと本音をもらした。


「あ…」笑美ちゃんは何かを察したようね。

まあ、言わぬが華ってことで。


私は、笑美ちゃんの荷物をいくつか手に持った。

「どこまで運ぶの?少し持ってあげる。」


単なる気まぐれだ。どうせ暇だし。


「え、それじゃ悪いですよ。」笑美ちゃんは恐縮した。


「いいのよ。また落すと、今度は壊すかもしれないでしょ。そうじゃなくても汚れるしね。どうせ暇だし。」


何となく彼女に得点を稼ぐのは悪くない、とも思ったのは内緒だ。

笑美ちゃんは、私のオファーを受けた。


「じゃあ、お願いしますね。助かります。新校舎の3階の東側です。」


二人で話しながら校舎の廊下を進む。

「三重野さんは、何するの?クラス?部活?」

私は聞いてみた。


「エミでいいですよ。みんなそう呼ぶし。」笑美ちゃんは屈託なく答えた。

「バド部で、お化け屋敷やるんです。これは毎年恒例で、人気なんですよ。」


なるほど、お化け屋敷は学園祭では恒例だろう。小さい子からカップルまで、人気があると思う。


「エミちゃんもお化けやるの?」私は興味本位で聞いてみた。


「いえ、私は賑やかしです。効果音出したり、風を送ったり。水かけることもありますよ。」


水をかけるってのはちょっといただけないね。

「そんなことしたら、水浸しで困るでしょう。」私は疑問に思って聞いてみた。


「あ、水って言っても、水鉄砲をこっそり撃つくらいですよ。ちょっと冷たいだけです。でも、暗闇で首とかに当たったら、ちょっと怖いですよ。」


なるほど。バド部は毎年お化け屋敷をやるだけあって、いろいろノウハウがたまっているみたいだ。


話しているうちに、お化け屋敷の教室にたどりついた。

飾り付けが佳境に入っているようだ。笑美ちゃんは、「白石さん、ここまで手伝ってくれてありがとうございます。お兄ちゃんにも言っときますね。」と笑顔を見せてくれた。


今更言われても仕方ないんだけど、とりあえず頷く。

笑美ちゃんは、そのまま「おまたせ~」と言いながら教室に入っていった。


あの子、やっぱり可愛いな。それに性格も良くて明るい。あんな女の子が身近に居たら、私なんてアウトオブ眼中になるわよね…。


などと、またちょっと落ち込んだ。 三重野君のことはもう忘れたはずなのに。



==


真弓ファンのために、復活です(笑)

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