四騎士と■■■

(恐怖の大王だの黙示録の獣そのものに比べたらマシか)


 高次元から現世に突入しようとしている黙示録の四騎士を阻んだ墨也は、曽祖父が相手取った連中に比べたらマシかと心の中で嘆息する。


『『『『邪魔をするならば死ぬがよい!』』』』


 そして相対する四騎士の目的は至極単純な終焉であり、どう話し合っても激突は避けられない。


 四騎士全ての馬が駆け出して墨也に殺到する。


 ホワイトライダーの勝利の弓。レッドライダーの戦争という破壊の剣。ブラックライダーの全てを奪い去る飢餓の天秤。


 そしてなにより、他の三騎士と違い明確に人を滅ぼすと定められたペイルライダーの滅びそのもの。


 この四騎士を相手にして誰が生き残れるというのか。


(お前さんら、修練をしたって記述はあったかい?)


 少なくとも墨也はなんの脅威も感じていなかった。


 敢えて表現しよう。人に対して上から権能を押し付け、言ったもの勝ちができる者が多い四騎士や、その神話形態の物達は確かに恐ろしいだろう。だがそれは自己研鑽と無縁のものだ。


 墨也の体がぎゅるりと音を立てて圧縮され、権能が割り込んでくる隙間を完全になくす。


 これではもう勝利、戦争、飢餓、破滅の概念が介入することができず、頼りになるのは戦闘者としての技量のみだ。


 つまりどうあがいても闘神を上回ることなどできない。


『馬鹿な!』


 ホワイトライダーによる勝利の矢は難無く躱される。馬鹿なもなにも、必中効果の矢で勝利の概念を叩き込むだけの作業しかしたことがない乗り手の腕など大したものではない。


『ぎっ!?』


 レッドライダーが戦争の剣を振り下ろす前に赤き馬は首を捩じ切られ、地に倒れ伏して闘神に頭を踏み砕かれる。


『なぜ効かん!?』


 ブラックライダーが天秤を振りながら、なぜ自分達の権能が効果を発揮しないのかと驚愕する。それだけで死闘というものに無縁だと分かるし、飛び上がった墨也の膝蹴りに黒い馬の頭蓋が粉砕され、乗り手は振り下ろされた拳に対処することなく叩き潰された。


『オオオオオオオ!』


 別格中の別格であり、滅びそのものであるペイルライダーが突撃する。


 逆を言えばそれで全てが解決する乗り手は、危機的状況に陥ったこともなく、技術や研鑽と言った引き出しなどない。


 つまり権能が通じなければ無力なのだ。


 墨也はゆらりと僅かに身を動かして青白い馬を逸らすと、その横腹に肘を叩き込んで気を流し込む。次の瞬間に爆散した馬から放り出された乗り手の頭めがけて、弧を描くように足を振り抜ききった。


『ああああああああ!?』


 遠距離からの攻撃に徹していたホワイトライダーは、同胞達が瞬く間に葬られたことでパニックを起こし、少しでも遠ざかるため背を向けて馬を走らせる。


 それに墨也は追いつく。


 異様に肥大化した脚部が地を蹴り、短距離走者のようなフォームで白馬に追いつく。


『ごぼっ!?』


 ホワイトライダーが最後に見た光景は、自身の腹から突き出た墨也の手刀であり、消滅した騎手の代わりに白馬の背に立った闘神はその頭部を蹴り砕いた。


「……」


 地面に降り立った墨也に特別な感慨などない。


 権能合戦で勝敗が付かない。もしくは無意味になれば、結局頼れるのは肉体と技術であるという結論は、墨也の高祖父の代から刻まれているものだ。その考えの体現者として完成した闘神を前に、研鑽と経験無き者が立ち塞がれはしないのだ。


 しかし面倒なことが起こった。


『オオオオオオオオオオオオオオ!』


 死したはずの四騎士は、墨也がいなければ滅んでいた筈の、世界に宿った滅びを頼りとして混ざり合い、黙示録と終焉を司るエネルギー体として再構築を果たす。


 そして真っ黒な太陽の如き滅びは、墨也ではなく世界に狙いを定めて雪崩れ込もうとした。


「全封印解除」


 エネルギーの総量で圧し負けると判断した墨也は、あっさりと最後の切り札を行使する。


 墨也の体で白と黒が混ざり合い、天地万物の卵である【太極闘術“地”】の境地に至る……が……。


 明らかに大きさがおかしかった。


 高次の場所だからこそなんとかなっているが、地球でなら星に立つと表現できるような大きさ。


 成層圏すらぶち抜いてしまいかねない陰陽の巨人が、目だけを赤く輝かせて宙に浮く太陽へ狙いを定める。


『ガ……』


 終焉のエネルギー体が慄いたようにぽつりと漏らす。


 世界の内包者と世界そのものと言えるナニカの血が混ざった血統は先祖返りを僅かに起こしていた。


 それこそが。


 ティタノマキアにおいてゼウスに助力しながら、ギガントマキアではオリュンポスの神々と雌雄を決した者。


 蠍にオリオン抹殺を命じた神格。


 ヒュドラの祖母にしてエキドナの母。


 セイレーンの祖母にしてケートーの母。


 ギリシャ神話体系において、大地ではなく世界そのものを意味する女神。


『ガイアかっ……!』


「男だがね」


 世界そのものにはまだ至れてないものの、ガイアを名を冠する圧倒的質量の巨人が、どこまでも基本に忠実な正拳突きを太陽へ叩き込む。


 真っすぐな正拳は破壊の太陽を容易く破壊。


 高次元が弾けた。


「やっぱ筋トレと修行だな」


 現実世界に帰還した墨也は、いつも通りの言葉を漏らしながらプロテインを補充するのであった。

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