変容
奇妙なことに。もしくは当然というべきか。
事件性のあるアイドルグループ内での呪詛は調査中であったため漏れていなかったが、碧が脱退して個人活動するという情報は機密ではなかったため、学園内でもある程度広まった。
この急な脱退は様々な憶測となって飛び交ったが、学園の男子生徒内ではグループの不和が原因で碧が脱退せざるを得なくなったというものが主流になった。
それ故に男子生徒達から見た碧は、以前のスキャンダルに続いて更に弱っているように映った。
「歌川さん、大丈夫?」
「うん! 大丈夫だよ!」
尤も男子生徒達が攻勢を強めようと、碧は以前の空元気ではなく本心から問題ないと断言するが、見たいものしか見ていない者。つまり碧が弱ってチャンスがあると愚かなことを考える者達には分からない。
「おう碧、青蘭。飯行くか?」
「あ、行くー!」
「いいね」
見てわかる明確な変化もある。
最近交友関係が広がった銀杏が教室の入り口で碧と青蘭を誘うと、すんなり話が纏まった。
キズナマキナとしてある程度の連携があった三人だが、銀杏が紫以外の人間を誘うことは殆どなかったし、碧と青蘭も基本的に食事は二人だけの時間だった。
それが今では、学生キズナマキナ八人全員が交流を深めており、今のように銀杏が誘いに来ることもあった。
(歌川さんって、戸鎖さんと天海さん両方に挟まれてる感じ!? そこに石野目さんも加わって……!)
なお一部の女子生徒は碧が、野性的な銀杏と王子様のような青蘭に囲まれた図を想像し、少々危ない空想に浸っているとかなんとか。
「このまま最終学年で、学園二大お姉様の名をほしいままにしようじゃないか」
「なあ碧。青蘭のやつはなに言ってんだ?」
「きっと私達じゃ理解できない野心を秘めてるんだよ」
「そんな野心捨てちまえ」
青蘭は銀杏と共に、その一部女子生徒から熱い視線を送られていることに気が付き、ニヤリと頬を吊り上げて冗談を口にする。
ただ将来的に青蘭の言葉は予言となり、のちに入学してくる後輩女子生徒達が、銀杏と青蘭を二大お姉様に認定することになる。
未来のことはさておき、マキナモードフェイズⅡを発現した碧と青蘭は、鎮守機関から奈落神の巫女として相応しいのではないかと、半内定状態の視線を送っている。もしこれでダークマキナモードを発現しようものなら即座に動きかねない程であり、シフトで悩む老巫女はガッツポーズをして喜ぶことだろう。
それに加え墨也の自室で学生キズナマキナ全員が交流と言う名の模擬戦闘を繰り広げており、碧と青蘭は仲間達の輪に加わっていた。
「あ、丁度良かった」
「紫ちゃんは図書室だったかい?」
「うん青蘭ちゃん。借りた本を返しに行ってた」
更に紫も合流して、古くから続く家の娘二人、アイドルとモデルの二人という異色の組み合わせが食堂へ向かう。
「今日の定食はなにかなあ」
「クラスの奴がから揚げとか言ってたような……なあ紫?」
「うん。そう言ってた」
「ほうほう。から揚げね」
碧の呟きに銀杏と紫が反応して、青蘭が何度か軽く頷く。
キズナマキナとして交流している八人だが、墨也の個人情報も共有されている。
その中にはどうも墨也はから揚げが好きらしい。というか彼の曽祖父がから揚げ強化週間と宣言して、一週間から揚げだけで生活していたような人だということも知っていた。
「自炊できるようにしないとなあ」
「なら碧の手料理をご馳走になろうか」
どこか遠い目になった碧へ、青蘭はニヤリと笑う。
別次元で隔離された碧は、最低限自分で生きていくための能力が必要だと痛感しており、ロケ弁や外食が多かった生活を改めようとしていた。
なお碧の頭のイメージにあるのは、話題に影響されてかから揚げを作っている光景だった。
「あ、皆!」
「お疲れ様」
「うぃーっす!」
「うぃー」
そこへぶんぶんと手を振る桜、微笑む赤奈、妙なハンドサインをしている真黄と心白が合流する。
華やかと言うほかない。
学園で最も魅力ある女子生徒を選べば、殆どがこの八人の名前を挙げるだろうに、全員が揃って行動を共にしていた。
そのため学年に関わらず男子生徒の視線を独占しており、中には足を止めて呆然としている者だっていた。
「あたしら来週の日曜、夏向けに服買いに行くんだけど、誰か一緒に行くー?」
「違う視点での意見を聞きたい」
「あー俺も買わねえとな」
「行こうよ銀杏ちゃん」
「だな」
明るい声で真黄が提案して心白が付け足すと、銀杏と紫が参加を決めた。
「赤奈先輩、私達も!」
「そうね。参加させてもらいましょう」
「青蘭、行こうよ」
「だね」
少し前に服屋でデートしていた桜と赤奈だが、その時とは少し状況が違っているため参加を決め、碧と青蘭も加わる。
「決まりー! じゃあ全員ってことで!」
「いえーい」
ひまわりのように明るい真黄が予定を決めて、心白が無表情ながら盛り上げようとする。
外から見れば単に学生キズナマキナが交流を深めているだけに見えるだろうが、その中心にはどす黒い染みが確かに存在していた。なにせ全員、墨也との模擬戦闘がある日は他の予定を入れていないのだから。
尤もそれは……。
『ブーーーーーーーーーーーーーー!』
緊急時ではない場合の話だ。
「え!?」
「緊急出動!?」
「またー!?」
「絶対厄年」
「どうなってんだよ!」
「四回目!?」
「飛ぼう青蘭!」
「ああ!」
乙女達は慌てて食堂を抜け出して飛翔しながら、今年はどうなっているのかと困惑する。
目的地は蛟と大百足の騒動が起こった場所とは違う海岸。
海が青蘭と碧を呼んでいた。
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