碧と青蘭
清楚華憐。
この言葉がよく似合う歌川碧だが、現在は仕事関係で色々と面倒に巻き込まれており、心休まるのは学園で生徒として振舞っているときだけ。などということはない。
学園の生徒の一部。主に男子生徒は、碧の周囲で発生したスキャンダルの真偽はともかくとしてチャンスと考えた。
つまり……。
「歌川さん、大変だったね」
「困ったことがあれば何でも言ってくれよな」
傷心している碧を慰めれば、なにかの拍子に近づけるのではないかと思ったのだ。
「ありがとう!」
感謝の言葉を返す碧は、魔境である芸能界にいたのだから男子生徒の考えくらいは分かる。だがそれはそれとして【心配している】と装っている言葉に対して対応するのは礼儀だ。
そして、自分だけは邪な思いなく碧のことを心配していると思い込んでいる男子生徒達は、碧の反応に気をよくする。
「やあ」
そんな男子生徒達が話を続けようとしたところにやって来たのは、碧のパートナーである天海青蘭だ。
対称的な二人だ。
無垢な白い肌と緑色の長い髪が艶めいている碧が可愛らしい顔立ちなら、青蘭は水泳を嗜んでいるため肌が日に焼け、ショートカットの青い髪で中性的な美貌を誇る。
ただ、青蘭はどこか男性的な荒々しさと鋭さがある銀杏と比べた場合、女性から王子様と持て囃されるタイプであり、中性的な分類でも少々中身が違うだろう。
実際青蘭は男子生徒よりも女子生徒からの人気が高く、モデルとして活動している彼女の写真集を購入するのは同性の少女達が多かった。
「ちょっとお茶しないかい?」
「ぷふ。いいよ。ごめんね皆。また後で」
ナンパ男のような青蘭の誘いに思わず碧は噴き出してしまい、男子生徒達に断りを入れてから席を立つ。
「様になってただろう?」
「そうだね。女の子なら二つ返事で付いて行っちゃうよ」
廊下を歩きながら青蘭が冗談めかして先程のやり取りを自画自賛すると、碧は苦笑交じりに頷いた。
「なあに。私が誘うのは恋人だけさ」
「あはは」
更に青蘭は妖しい台詞を続け、碧は声を出して笑ってしまう。
「さて、私はいつも通り桃にしようか」
「私もそうしようかな」
二人はとりとめもない会話を続けながら、自動販売機で桃のジュースを買ってから屋上へ向かう。
学園の生徒はマキナイであるため屋上から落ちた程度では死なず、常時解放されていた。しかしあまり人が訪れる場所ではなく、相談やあまり人に聞かれたくない会話をするのにぴったりな場所だった。
「多少は落ち着いたね」
「うん」
ベンチに座った青蘭の言葉に碧は頷く。
一部界隈で盛り上がった碧の捏造されたスキャンダルだが、やはり霊的国防に関わっている彼女を公に取り上げるメディアは存在せず、燃え上がった火が延焼することは避けられた。そのため面倒ではあるものの、最悪とは言えない状況だった。
「落ち着くまで休暇気分でいよう。夏にプライベートビーチで遊ぶとかどうだい?」
「プライベートビーチって……伝手とかあるの?」
「ないね」
「もう。なにそれ」
「それなら泳いでいい川の近くでキャンプだ。キャンプなら多少心得がある」
「あ、いいね」
他愛のない会話を続ける青蘭と碧の付き合いは長く、学び舎は小学校からずっと同じだった。
そのため銀杏や紫のように自然と交際を始め、キズナマキナとなった今現在も二人三脚で頑張っていた。
「それにしても今年はちょっと異常だ。どんなに記録を漁ってもこれだけ忙しい年度はなかったよ」
「そうだよね。もう三回も緊急出動してる」
「まあ流石にそろそろ落ち着くと思うけどね」
「それ、フラグって言うんでしょ?」
「おっと。なら黙っておくとしよう」
肩を竦める青蘭に碧は頷く。
大百足と蛟。現代に再臨した都市伝説。そして鬼の軍勢。
一件だけでも大事件として扱われる規模の戦いが、今年に入ってから既に三回も起きているのは異常だ。ついでに言うと統合本部の大混乱も事件と言えるので、関係者一同からは早くも厄年認定されていた。
「そう言えば銀杏と紫の雰囲気が最近は全然違うね」
「うん。紫ちゃんはすっごく大人っぽい感じだし、そのうち銀杏ちゃんは青蘭と合わせて学園の二大お姉様とか言われるんじゃない?」
「なら卒業するときは後輩の女の子に第二ボタンをあげるため、予備を沢山用意しておこう」
「私のことを放っておくのは感心しないなあ」
「おっと。それは失礼しましたお姫様。どうしたら許してくれますか?」
「そうだなー。そそそそうだなー……こ、こ、恋人らしいこととか?」
「畏まりました姫。ですが屋上では外の誰かに見られてしまうかもしれません。どこか二人だけになれる場所へご案内しましょうか? 勿論、私と姫の関係を皆に見せつけるのもやぶさかではありませんが」
「せ、青蘭ー……!」
青蘭は最近雰囲気が変わった銀杏と紫のことについて話題にするが、妙な流れになってしまい碧の顔が真っ赤になる。
「心配しなくても、私の白い肌の部分を堪能できるのは碧だけさ」
「もー! またそんなこと言って!」
揶揄う青蘭と翻弄される碧。
仲睦まじい恋人同士のひと時だ。
まだその間に黒が入り込まない時期の。
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