確認作業

(改めて思うが中々凄い世代なんじゃないか?)


 キズナマキナが社の中にいる間、墨也は彼女達のことについて考えていた。


 彼は銀杏と紫の体が、意図的に取捨選択した遺伝による肉体であると教えられていたし、その前から見抜いていた。そして幼少期からの教育が透けて見える彼女達は、同年代では比類ない能力を持っていると言っていい。


(今まで見たことがない肉体だったな)


 まだ若い墨也は、純粋な人間による千年近い遺伝子の掛け合わせで作られた結晶を見たのは銀杏と紫が初めてであるが、筋肉から内臓、肌に至るまで常人とは強さが違うことも見抜いていた。


 実際彼女達は、女として一時的に最優秀の男を捕らえる、もしくは遺伝子のみを組み入れることに特化した柔らかな体や体臭を持ちながら、その内側は練りこまれた強靭さを併せ持っている人工宝石だ。


 だが逆を言えばその研磨された宝石に劣っていない、一般の血統で発生した突然変異の原石が桜、赤奈、真黄、心白なのだ。次代の星と表現されているのは誇張でなく、大成すれば凄まじい存在になるだろう。


(まあウチも突然変異だらけか)


 尤も墨也の家系にいる突然変異共はそれこそ突然で変異し過ぎている連中なため、世代全員が特大の危険人物だらけである。


(さて)


 墨也は身内の厄さについて一旦置いておいて立ち上がる。


 再び社の外に出たキズナマキナは全員がマキナモードを展開しており、先ほどあった変身の隙がない。もし今の墨也に表情があるならニヤリと笑っていただろう。


「では仕切りなおそう」


「フルブースト!」


 闘神が修行の再会を告げた途端、キズナマキナは全身のスラスターを噴射させて突撃する。


 だがここである意味墨也の必殺技、もしくはお約束が発動した。


「石野目と戸鎖だったな。料理は出来るのか?」


 邪神流戦闘術の一端。関係ないことを話しかけて集中力を乱しましょう。である。


「はあああ!」


「てやああ!」


 だがお約束とはつまり対策されやすいことでもあり、既に桜から墨也の戦法を伝えられていた二人は、気にすることなく殴り掛かった。


 余談だがこの質問に対する二人の答えは、全くできないになる。


 紫と銀杏は次女で次期当主という訳ではないが、それでも古くから続く家のお嬢様であるため、食事とは使用人が用意してくれるものである。そして学園に入学後も寮か食堂で食事をしているので、いざというときの戦闘術や高度な教育を受けてはいても、家事に関してはさっぱりだった。


 そのせいで構わず殴り掛かったように見えて若干目が泳いでしまった。


「敵地で寝泊まりする可能性もある。簡単なキャンプと食事の準備ができる程度の知識と経験があっても損はないと思うぞ」


「ぐあっ!?」


「きゃっ!?」


 ほんの少しだけだろうと目が泳いだ隙を見逃す墨也ではなく、彼はありきたりでありながらしっかりと経験に基づいたアドバイスを送りながら二人を投げ飛ばす。


 実際に真黄と心白、桜は敵地で寝泊まりした経験があるので、生活スキルは役に立つかもしれない。


 なお戦いに集中しているため桜達はキャンプという言葉に反応しなかったが、平時だった場合は自分達が墨也とキャンプしている姿を想像しただろう。


「正道から離れたことには慣れてないみたいだな。戦いにおいて卑怯汚いは誉め言葉になる」


 紫と銀杏に関してまた別のことも墨也は見抜いていた。


 実家で政治的な汚い手段は学ばされている二人だが、戦闘訓練はあくまで自衛と肉体スペックの維持向上を目的に施されたものであり、高度ではあっても深く突っ込んだ内容とは呼べなかった。


「おお!」


「せやあ!」


 そんな銀杏と紫は投げ飛ばされてもめげずに。いやそれどころか嬉々として立ち上がると、再び墨也に挑みかかる。


 彼女達もまた墨也と相性が最悪なまでに最高なのだ。


 特定分野で自分達より優れた最優秀な男を求める一族の生まれなのに、彼女達の目の前にいるのは純粋な人間状態でも頂点に位置する肉体的到達者で技量も完成している男だ。


 もし墨也が格闘技界に殴り込めば、全ての権能を封じ込めた完全な100%の人間状態でも歴史に名を残すだろう。


 墨也の曽祖父ですら、ひ孫に対しあの若さで良くも悪くも完成し切っている闘神にして人間と評するのは尋常なことではないのだ。


 更には肉体的な物だけではない。この男は醜い仮定と結果を見せつけられ神の理不尽を受けた銀杏と紫を、例え世界が敵に回ろうと守ってみせると宣言する精神性を見せつけてくる始末だ。


「雑になってるぞ。周りと合わせろ」


「ぐげ!?」


「んきゃ!?」


 その精神性を知ったうえで何度挑みかかっても敗れている銀杏と紫は、無意識に墨也の強さを刻みつけるように確認しているようだった。


(これひょっとして……!)


 一方、なんのヒントもなく投げ飛ばされ続けているは桜達は正解を導き出した。


「さっきと違って勝利条件なしで、私達を限界まで追い込むのが目的かもー!?」


「正解だ真黄」


「ぬあー!?」


 真黄は墨也の意図が今回は頭を使わせるのではなく、純粋に肉体へ負荷を与えることだと見抜くが、次の瞬間には投げ飛ばされる。


 この一連の修行は勿論キズナマキナを鍛えることが目的だが、別の視点から見れば……未だかつてない密度で乙女達が墨也の強さと逞しさを確認する時間でもあった。

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