人の力

「真黄真黄―。真黄と心白のブログ、最近は更新してないんだね」


「い!? 見てたの!?」


 ある日の休み時間。真黄は女の友人から、自分のブログの更新が滞っていることを指摘されて驚いた。


 ブログで際どい姿となり男の欲をくすぐりながら、投げ銭で儲けていた真黄は、まさか同性の友人が見ていたとは思わず、意表を突かれたのだ。


「偶にね。飽きたの?」


「いやあ、なんというか……」


「ふーむ。あ、分かった」


 友人はブログの更新が滞っている理由を興味本位で尋ねたが、真黄が言い淀んだので理由を推測する。


「心白のためでしょ。やっぱり身持ちが硬いねー」


「そ、そうそう! そんな感じ!」


「やっぱりね」


 そして真黄と心白が肌を他人に見せることを嫌がり、写真をアップロードすることを止め始めたのではないかと結論すると、真黄もどこか照れたように答えたので納得した。


 納得していないのは真黄のブログを見ていた男達だ。そこらのトップアイドル顔負けで、芸能事務所に勧誘されたことは一度や二度ではない真黄と心白の写真を見るために、多くの男達がブログに駐在していると言っていい。それなのにここ最近その更新がぱったりと途絶えていたため悲鳴が上がっていた。


 尤もその理由は、友人が推測したものとは若干違ったが。


 ◆


「ねーねー桜。墨也さん以外の男に肌を見られるの超嫌なんだけど分かる?」


「分かる!」


 あまり大きなものがなくさっぱりとしている桜の部屋で教科書を広げた真黄が、ブログの更新が滞っている原因を告げると、強い同意が返ってきた。


「あ、やっぱり? 桜って訓練用の服を大きめのに変えたでしょ? それで同じなんじゃないかと思ったんだよねー」


 真黄は勉強をするため桜の部屋を訪れた筈なのに、最初の話題が男のことなのだから、一緒に桜の部屋にきている心白は気分がいいものではない。


「私は気にならないけど、言いたいことは分かる」


 こともないようで、心白は表情を変えず白い腹部で揺れる臍ピアスを見せつけながら机の前に座る。


「なんかさあ、視線が違うよ視線が。他の男は胸だけど墨也さんなら胸筋見てるよね。それと目」


「うんうん! 私もそう思う! 自分を見られてるって感じる!」


「私は腹筋見られてる」


 若干妙な例えをする真黄だが桜は変わらず強く同意して、心白も臍ピアスではなく腹筋を見ながら頷いた。


「それと顔を向けたら絶対視線がぴったり合う」


「分かるー」


「そうだよね!」


 心白の言葉にも真黄と桜が同意する。


 実は墨也の美的感覚はかなり独特である。人類を遥かに超えた認識能力で、人体の筋繊維の動きを見極めているような男であるため、顔立ちも表情筋と骨格の延長上で認識している。それ故に、一般的な感性での美醜は理解していても、本人は体に刻み込まれているどう生きたかの証や目の輝きで人間を判断していた。


 だからこそ墨也は、人のために戦く覚悟を持つ桜、赤奈、真黄、心白を素晴らしい人間として見ているのだ。


「そんで男ってそういうもんだと思ってたんだけど、墨也さん知っちゃったら他の男に肌を見られるの嫌になって、ブログのやる気が出ないんだよね」


 そして歪んだ人生と男性観を持っていた真黄は、墨也を基準にしたことでブログを更新する気が失せてしまっていた。


「ま、ブログを閉鎖するかは後で考えるとして、今は勉強勉強っと」


『ブーーーーーーーーーーーーーー!』


 甲高く不快な音が桜、心白、真黄の携帯端末から鳴り響いた。


「え!?」


「はいい!?」


「また?」


 目を見開いて驚く桜、口が妙な形になる真黄、首を傾げる心白だがそれもその筈。


 つい最近鳴り響いたばかりの音は、そう頻繁に鳴っていいものではないのだ。


「行かないと!」


「よーし!」


「出撃」


 端末の情報を読み終わった桜、真黄、心白はマキナモードを展開して夕暮れの空に飛びあがる。


「桜!」


「赤奈先輩!」


 それは彼女達だけではない。瀬田伊市の各地でキズナマキナの推進装置の光が空へと伸び、赤奈も桜達と合流して目的地へとスラスターを向ける。


 目標はとある村。


 突如現れた、存在しない筈なのに存在する場所。


 鬼を呼び出す門と化した特異点。


 そして……人が生み出してしまった噂の集結地点。


 溢れていた。


 魑魅魍魎。


 百鬼夜行。


 伝説が生み出した鬼達。


 人面犬が。


 人面魚が。


 首無しライダーが。


 てけてけが。


 鳴り響く電話が。


 トイレの花子さんが。


 ジェットババアが。


 合わせ鏡に潜む魔が。


 水に濡れた女が。


 他に幾つも幾つも、幾人も幾人も、幾体も幾体も。


 廃村から溢れてしまいそうなほどの妖怪達。


「攻撃開始!」


 対するは緊急展開したキズナマキナと現地のマキナイだが、広範囲の殲滅に特化している桜と赤奈のダークマキナモードは、発動条件が全く分かっていない。


 そのため今再び、人間対妖異の大規模な戦闘が勃発したのであった。















 衰えに衰え見る影もない現代の力ではなく、よりにもよって人々の想像以上に力を持った都市伝説系妖異との戦いが。
























 しゃきりと刃物の音が鳴り響いた。

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