変わっていく黄と白
(なんでだ?)
変化した真黄に気が付いたのは、男子生徒達が一番最初だった。
彼女は春先から制服の胸元を広げていたのだから、夏が近づいてくるなら猶更そうだと男子生徒達は思っていた。しかし、今の真黄の制服の胸元はぴっちり閉じられ、男達の視線の集中を防いでいた。
次に仲のいい女子生徒達も気が付いたが、こちらは真黄と仲がいいだけあってかなり直接的に言葉にした。
「真黄って急に清楚になったよねー。それかお淑やか?」
「あたし元々清楚でお淑やかだしー!」
「ふっ」
「鼻で笑われた!?」
その友人達も、若干おしゃれに改造されているとはいえ、それでもきちんと制服を着こなしているギャルの真黄に違和感があるようで、彼女の元々お淑やか発言を鼻で笑った。
「やっぱあれだよ。心白と付き合って身持ちが硬くなったんだ」
「愛ってやつだー」
「その心白は相変わらず臍丸出しなんですがそれは」
好き放題言い合う真黄の友人達。まさに学生らしいノリだろう。
「まあでも、神の社に行くことになったんでしょ? 服はちゃんとしとかないとね」
「うん、そうそう」
急に真面目な話を振ってきた友人に、真黄もまた真面目な顔をして頷く。これ以上友人達のノリに巻き込まれては堪らないと思ったのかもしれないが。
心白と真黄は奈落神の社に招かれているため、ちゃんとした服装を心掛けているのはそうおかしい話ではない。
(なんていうか、一条さん以外の男に肌見られたくないんだよねー)
本音は違うが。
桜と同じく真黄もまた、気にしないどころか面白がっていた男子生徒からの視線が気になり始め、肌の露出が減っていたのだ。
そしてこれまた赤奈と同じように歪な男性像を持ち、男とはそういうものだと思っていた真黄は、墨也という基準を設けたことで、考え方も若干変わっていた。尤もその基準、とんでもなく色々と高い。
「心白は全く変わんないけど。まさかとは思うけど臍出しで社に行かないよね? ね?」
「た、多分」
一方心白の外見は全く変わっておらず、社に臍出しで行かないよねと聞かれた真黄は少し目が泳いでしまった。
その心白もまた微妙な変化がある。
「あ、心白ちゃん!」
「やっほ」
常に真黄と行動していた心白は、最近になって同級生である桜ともよく行動を共にしており、時折赤奈と二人で会話しているところを目撃されている。
ただし、他の時間は真黄と一緒であるためこの二人が破局したという噂は流れず、共通点である禍津神のことで繋がりが強くなったのだろうと思われていた。
(やっぱり桜の指輪が妙に黒い。一条さんとの繋がり……)
心白は桜の指で輝く赤い指輪、いや、赤と黒が混じり合っている指輪を見て、そこに墨也の残滓を感じ取った。
自覚はないが心白の中に若干の疎外感がある。
たった一週間とはいえ、心白達のトラウマを打ち破り、向き合うきっかけを作ってくれた墨也との生活は、心白と真黄の人生に深々と突き刺さって抜き取れなくなっている。そんな相手と確かな繋がりがある物的な証拠として、桜の指輪が黒くなっているのだから、心白は自覚のない疎外感を抱いていた。
尤もそれ以外はあまりない。彼女達は仲間なのだから。
◆
「湖の精霊に銀のプロテインか金のプロテインの選択を突き付けられた場合はどうするべきか……」
アホ丸出し。もしくは脳筋丸出しなことを呟きながらコーヒーを淹れている墨也の部屋には、桜と赤奈だけではなく、心白と真黄の姿もあった。
部屋から脱出した後、お礼に訪れた真黄と心白は桜と赤奈にも事情を説明して、今や四人の美少女が筋肉ダルマの部屋を訪れるようになったのだ。
余談だが墨也のアパートは、彼の手で対ご近所さん、対お巡りさん用に認識を散らす術が展開されている。
「うー。なんか社に行くの緊張してきたかも。心白は?」
「女は度胸」
「さ、流石……!」
真黄は近々訪れることになっている奈落神の社のことを考えそわそわして、普段通りの心白に感銘を受けている。
「臨時の社を気に入ってな。それをちょこっと統合本部と鎮守機関が増築しただけだから、仰々しいものじゃないぞ」
「修行場みたいと言えばいいかしら? あ、奥に墨也さんが気に入っている滝があるわ」
「実は滝行が好きでな。社の滝でしたら関係者がすっ飛んでくるからやらないが」
その奈落神の社の主である墨也が自分のもう一つの根城を説明して、赤奈がほほ笑んでそれを捕捉する。
ただ、真黄と心白は巫女として訪れる訳ではない。桜と赤奈はダークマキナモードと一部で呼称されている、墨也との絆で発現する力を持っているから巫女として目されているが、真黄と心白のマキナモードフェイズⅡは墨也との関係性を明確に表さない。そのため心白と真黄は、あくまで奈落神にお礼を言いに行く立場で社を訪れるのだ。
現時点では。
「桜と赤奈先輩、やっぱり巫女服ー?」
「え!? 学園の制服だよ!」
「ほうほう」
ふと真黄は、桜と赤奈は巫女なのだから、巫女服を着ているのではないかと思って桜に尋ねると、なぜか元気娘はほんのり頬を名の通り桜色に染めて否定した。
「ま、向こうの社にいるのも俺だし、桜と赤奈も同行するんだ。そう緊張することはないさ」
「分かりました、い、墨也さん!」
「はい墨也さん」
そう締めくくった墨也に応える真黄と心白だが……桜と赤奈が彼を名を呼んでいることに気が付き、彼女達もまた名を……。
学友達の知らないところで真黄と心白は更に変わっていくのであった。
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