繋がり続ける黒
部屋に閉じ込められて早くも六日。真黄と心白は無意識に安心感を求め、墨也を挟んでソファに座りゲームをしていた。
「一条さんは今年の夏にある魔気無異学園の学祭に来ます?」
心白が魔気無異の学園祭に墨也がくるかどうかを尋ねた。
「興味はあるな。心白と真黄は一年生だったか。入学前に行ったことはあるか?」
「いえ」
「あたしもないでぎゃわ!?」
「ふっふっふ。油断大敵というやつだな真黄。そう、学祭だがテレビでやってるのは見たことある」
関心はあっても忙しかった墨也と、学園一年生の真黄と心白は、魔気無異学園の学園祭を実際に体験したことがない。しかし、マキナイの教育機関で行われる学祭は注目を集めており、毎年メディアで紹介されているため、その様子を知っている者は多い。
「今なら自営業みたいなもんだし、ずっと前から休みを通知してたら問題ないか……行ってみるかな」
病院勤務で忙しくいく暇がなかった墨也だが、一国一城の主となった今ならその時間を確保することもできるため、行ってみるかと乗り気になる。
「あ! じゃああたし達が案内しますね!」
「ありがたいがクラスの出し物があるだろう。学生の青春なんだからそっちを楽しむといい。なにをやるか決まってるか?」
「えーっと、パフェですね」
行く気になった墨也の案内を買って出た真黄は、つれない返事が返ってきたので思わず素直に出し物の予定を口にする。
これが通常の男なら二つ返事で真黄の誘いに乗ったであろうが、墨也は通常の男というカテゴリーからは程遠かった。
色々な意味で。
「そうだ。ボディビルの催しはないか? 普通の学祭ならミスコンとかがあるだろ? マキナイは体を鍛えているんだからそういった類のものがあっても不思議じゃない」
「あーえー……ねえ心白、あったっけ?」
「多分ない」
(でもミスコンの方はあった気がする。しかもエントリーなしの妙なのが)
「そうか……」
斜め上をかっ飛ばす墨也の質問に、困り果てた真黄が心白に助けを求める。しかし心白がどんなに思い出しても、ミスコンは小耳に挟んだがボディビルの企画など存在せず、墨也は残念そうにしていた。
「あ、そうだ。あたしらキズナマキナのデモンストレーションみないなのもあるんで、よかった、ら……」
真黄は賢明にもぶっ飛んだ意見を一旦置いて、学祭の行事の一つであるキズナマキナの実技演習があることを口にしようとした。
しかし真黄と心白は、自分達のマキナモードの武器である鏡と針が、トラウマである父と母に密接に関わっていることに気が付いて体が震える。直前。
「この前に真黄と心白が大ムカデと戦っているところを見ててな。ありゃ立派なもんだ。人のために戦える意思の力だった。俺が保証する」
鋭い洞察で事態を察した墨也がゲームを止めると、真黄と心白の頭にポンと大きな掌を乗せてそう言った。
「だからきっと大丈夫だ」
墨也は言葉をそれほど重ねていない。しかし、真黄と心白はトラウマを打ち砕いた手の感触と、彼女達がトラウマを乗り越えられると信じていることが分かる声を聞き、震える前に恐怖は霧散した。
「ああそうだ。店の休みで思い出した。基本的に日、祝は休みだから店にはいないんだ。何かあったら俺の家に来るか電話してくれ。住所と電話番号を教える」
「っ!」
突然話を変えた墨也がそう言うと、思わず真黄と心白はびくりとした。
墨也との奇妙な関係はこの場で完全に終わるものではなく、現実世界に帰っても続くのだと言ったに等しい。その繋がりを望んでいた真黄と心白にすれば、まさに願ってもないことだった。
「あとこれは内緒なんだが、社にいる神としての俺は抜け殻に近いとはいえ繋がってる。緊急事態があったらそっちにも来るといい」
「はい!」
「分かりました」
次々に繋がりを補強する墨也に、真黄と心白は伏せていた目を向けて頷くのであった。
◆
◆
(なんか、気が付けばあっという間だったなあ)
いよいよ部屋と真黄達の繋がりがほぼ断ち切られ、恐らくこの部屋での最後の就寝時間。真黄は布団の中でごろりと寝返りをしながら今までのことを思い返していた。
(ご飯作ってー。掃除してー。勉強してー。ゲームしてー。笑ってー)
常人にとっては当たり前のことでもその経験がなかった。もしくは乏しかった真黄と心白にとっては大事な時間だ。その核となる部分に墨也が入り込んでいたが。
(……そういえば桜と野咲先輩は、一条さんの巫女ってことになるよね)
深く考えての思考ではない。ただ、墨也と桜、赤奈が自分達と違う繋がりを持っていることに気が付いただけの話だ。
(野咲先輩は確か……ちょっとお社に行ってお話しするだけって言ってた。今みたいな感じ?……なんだろこの……なんか?)
赤奈の言葉を思い出した真黄は、彼らの交流を想像してよく分からない感覚を覚えた。
それは嫉妬や羨ましさとも言えないような、単純に仲間外れにされた際に感じるような幼稚な感情だったが、今までそんな経験がない真黄は戸惑った。
(うーん……)
そして実は桜を友人だと思っている真黄は仲間意識が強く、それもあってより自覚がない疎外感が湧き出ていた。
(ま、よく分かんないけどいっか!)
ただ、トラウマを除けば元々図太かった真黄は、部屋での経験である意味更に逞しくなっており、深く考えず寝ることにした。
一瞬だけとはいえ、黒く染まった指輪に気が付くことなく。
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