絆の力は絶対負けない
切っ掛けがあるとするなら、赤奈と桜が優秀過ぎたことだろう。
◆
「さあ。やりましょうか桜」
「はい赤奈先輩!」
魔気無異学園の生徒達は、日々たゆまぬ努力を続けているため、放課後に自主特訓する生徒は全く珍しくない。それは赤奈と桜も同じであり、彼女達は放課後、屋外の大規模訓練場へ足を運んでいた。
「野咲と伊集が来たか」
「キズナマキナの二人だ」
(本当は目立たない訓練場があればいいんだけど……)
(相変わらず見られてるわね……)
目立っていることを自覚している桜と赤奈が内心でぼやくが、残念ながらそうはいかない事情がある。高火力高機動になりやすいキズナマキナは、屋内の訓練場を破壊してしまう恐れがあるため、彼女達がキズナマキナとして訓練をする場合は、屋外の訓練場に限定されていた。
余談だがまだ手探り状態の絆システムとキズナマキナは、最初期は更によく分かっておらず、想定外の出力で様々な計器や設備を破壊した歴史がある。
話を赤奈と桜に戻す。
学園で数少ないキズナマキナなので目立ちはしている彼女達だが、クラスでの授業中ほどではない。その数少ないキズナマキナ達が、一堂に会する機会があるのが放課後訓練だ。現に訓練場の幾つかの場所では、異能と機械の力がうなりを上げている。
「桜じゃん、やっほー! 野咲先輩こんちは!」
「ども」
「
「お疲れ様」
同じキズナマキナである一年生の鏡谷真黄と針井心白が、桜と赤奈に声を掛ける。
彼女達は所謂ギャルと呼ばれるような分類だ。真黄は日焼けした肌と長い金の巻き毛を持ち、同い年どころか赤奈よりも豊満な体つきで、戦闘服が随分窮屈そうだ。しかしこれは態とであり、男子生徒の視線を感じても、寧ろニヤニヤしている。
もう片方の心白は真黄とは真逆で、白い肌と白い髪を持ち、小柄で女性らしい起伏も少ない。そして表情にも乏しく、桜達に短く挨拶すると携帯端末に目を落として、周囲のことなどお構いなしだ。そして彼女にも男子生徒は視線を向けるが、それは真黄へと向ける視線の更に下、むき出しの臍だ。
意味が分からないことに心白の臍はむき出しで、そこには黄色と白に輝くハート形の臍ピアスが揺れていた。
(わ、若い子の感性が分からない……)
赤奈は、男達に自分の体を見せつけている真黄と、臍とピアスを露出させている心白に、自分の常識が悲鳴を上げているのを感じた。
「そんじゃ頑張ってねー。あたしらも適当に頑張るから」
「またね」
「うん!」
(悪い子達じゃないんだけど……)
桜と同じと言えなくもないフレンドリーな真黄が手を振り、捉えどころのない心白もまた、キズナマキナとして腕を磨くため訓練場に来ているのだ。その様子に赤奈は、自分と感性が違うだけで、性根は真面目なのだと思う。
「って言うか今月ピンチだよねー。どっかに金だけ出してくれて、会わなくていい気前のいい男とかいないかなあ」
「いくらでもいると思う」
「確かに! なんたってあたしと心白だもんねー! この前ツーショットをブログに上げたら、閲覧数が超やばかったし!」
「そんでもって、結局会いたいとか言い出すまでがお約束」
「あははは!」
(やっぱり分からない……)
真黄と心白が、去り際にこそこそと話していた内容を聞いてしまった赤奈は、全く違う感性に戸惑うのであった。
「じゃ、じゃあ始めましょうか」
「はい!」
気を取り直した赤奈が、訓練用に貸し出されている式神符を使用すると、学生達にとってなじみ深い黒い棒人間が現れた。
「ちょっと強めに設定したけど大丈夫かしら?」
「赤奈先輩となら大丈夫です!」
「ええ。私も桜となら」
赤奈の言葉に、桜は全く問題ないと気合を入れる。
この棒人間の利点は、強さの調整が非常に大きな範囲で可能なことだ。赤奈が調整したのは、単独なら三年生の精鋭でも手古摺るような程で、二年生の赤奈と入学したばかりの桜が相手どれるようなものではない。
しかし、彼女達は強い絆で結ばれたキズナマキナである。
「マキナモード!」
「マキナモード展開!」
桜が赤い光に、赤奈が桜色の光に包まれると、機械の力を身に纏う。
「行きます!」
先手必勝。相手になにもさせず打ち砕くが座右の銘のような桜が、腕と足に備え付けられたブースターを稼働させる。だが桜の弱点は防御力の無さだ。攻撃するための腕と、移動するための足にしか装甲がないため、がら空きの他部分を正確に反撃されると、もろにダメージを受けてしまう。
「装甲追従!」
それを補うのが赤奈のペタルアーマーだ。赤奈が纏っていた蕾の装甲板は、桜に追従しながら装甲がない部分を補い、その弱点を消し去る。そして、一部の装甲板が無くなったことで身軽になった赤奈は、残っていた装甲板に備え付けられているブースターで、無理矢理桜の後を追う。
「ビッグパアアアアンチ!」
「リフレクション!」
桜が若干推力を落とし、赤奈とタイミングを合わせてほぼ同時に襲い掛かる。
大質量と速度で全てを粉砕する最強の矛と、反撃する攻勢防御と素の防御力を併せ持った最強の盾だが……。
棒人間がそれを解決する手段にして諺がある。
矛盾。
全く余裕なく、間一髪で桜の機械腕を躱した棒人間はそれを引っ掴むと、体全体の力を使って推進力の方向に歪みを生じさせる。
「しまっ!?」
(合気!?)
それに覚えがある桜は血の気が引いた。彼女の知るそれよりは遥かに劣り、遥かに拙いが、柔よく剛を制すに嵌ってしまった場合、どうなるか身をもって知っている。
(矛先をずらす!)
桜はとっさの機転で、ブースターの向きを変えた。
「そんっ!?」
赤奈が一瞬遅れて、棒人間の意図に気が付く。
「きゃあ!?」
「うっ!?」
桜と赤奈から悲鳴が漏れる。
赤き機械腕と桜色の装甲がぶつかり合い、質量と攻勢防御で放たれた力もまたぶつかり合ってしまう。
その結果、桜と赤奈の纏う機械と金属は大きく損壊し、至る所でひびが入っている。だがそれでも赤奈が無事なのは、経験を積み始めた桜がとっさにブースターの向きを変えたからだ。そうしなければ、赤奈は戦闘不能に陥っていただろう。
「あれ、二年と一年が設定していい強さじゃないだろ」
「ああ。ちょっと背伸びしすぎたな」
それを見ていた上級生達が、技量と状況判断能力を併せ持つ棒人間の強さは、赤奈達には早すぎると話していた。
「赤奈先輩!」
「まだやれるわ!」
「私もです!」
だが桜と赤奈は戦う心構えを持つキズナマキナなのだ。お互いを案じることはせず、素早く態勢を立て直すと、再び棒人間に挑もうとする。
その時、絆の力が溢れた。
「え!?」
「これは!?」
桜と赤奈の指輪がお互いの色に強く輝き、それは一つとなって共鳴し合う。
その光が桜と赤奈を包み込むと……。
「な、な、なんじゃこりゃあああああああ!?」
「はいいいいいい!?」
「どうなってんだ!?」
「きゃあああ!?」
「ロボットだああああ!」
見ていた生徒達が一斉に悲鳴を上げる。
大きな腕。大きな足。大きな胴。大きな頭。全てが大きい。
全長5メートルほどの、赤と桜色に輝く小さな巨人が訓練場に降臨した。
その腕と足は、桜が纏っていた物をさらに巨大にしたものであり、全身の装甲は赤奈の装甲板で構成されている。
これがなにを意図しているか明らかだ。盾と矛が別々のものだから矛盾を起こす。それならば一体となればいい。それが桜と赤奈の絆システムが導き出した結論なのだが、このように二人の力が合体を起こすなど前代未聞だった。
後にマキナモードフェイズⅡと呼ばれる力の先駆けであり、個別コードネームでギガントマキアと呼ばれる存在は、こうして産声を上げた。
「分かる。桜との絆が」
「私も! 赤奈先輩との絆が分かります!」
ギガントマキアの内部で、まるで浮いているような赤奈と桜が、お互いの色に輝きながら両手の指を絡ませ合う。
その絆の力はどこまでも高まりあい、二人だけの世界を形作ったのだ。
「早速ドカンとやっつけましょう!」
「それは……ちょっと止めた方がいいわね」
意気込む桜を、赤奈が苦笑気味に止める。
ギガントマキアの力を持ってすれば、猪口才な技を持つ棒人間など、あっという間に叩き潰せるだろう。しかし訓練場中が蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていたため、それどころであなかった。
「解除は……どうすればいいのかしら……」
「えーっと……な、なんとなく……」
そのため彼女達が最初に試行錯誤をするのは戦うことでなく、ギガントマキアの解除方法という締まらない結果になってしまった。
◆
そう。これがきっかけだ。
マキナモードフェイズⅡという力は瞬く間に業界に広がり、それを知った新しき神がその二人に、特に浄化の力を持つ赤奈に興味を持つきっかけ。
しかしそれは、自らもそうであるくせに、神が人の生を滅茶苦茶にすることが嫌いで嫌いで仕方ない血統の末裔を刺激することを意味していた。
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