異文明を求めて宇宙を探索する者

@Alliance

第1話

“クロックアップ、完了しました"

 その音声で意識を取り戻した。

 宇宙空間の移動はとにかく時間がかかる。そのため、移動中は情報処理回数を極限まで減らしているのだ。

「対象の情報」

 そう指示すると、宇宙船AIが答える。

“当該恒星系の第3惑星。衛星は1個。母星の大きさと比べると大きい部類と思われます。重力はやや強め、大気はやや濃く、惑星に着陸するにはⅡ型ポッドの使用が必要です”

「現存する文明は?」

“故意的に発せられる電波は検知されません。1次探査の結果、明らかに非自然的な構造物は散見されますが、その構造物から想定される文明は滅びていると考えられます”

 この惑星に訪れたのは、この惑星から射出されたと思われる宇宙船を発見したからだ。

 宇宙船はかなり小さかったが、調べた結果この銀河の中心からの座標が記載されていたため、この星系を発見できた。

 それなりの文明が存在している可能性も期待したが、どうやらいつもどおり既に脱出したか滅びたあとだったようだ。

 しかし、滅びているならそれはそれで都合は良い。遺跡の調査なら誰の許可も必要ないのだから。

「着陸準備」

 指示して、調査のための準備を始める。

 まずはアバターだ。未知の文明を調査する場合、その文明を生み出した生物と同様の姿形を模した物の方が都合が良い。

 幸い、その生物の姿形についての情報も得ており、比較的似た素体は既に用意が出来ている。外見については細かな調整も可能だが、それは知的生命体を発見してからでよいだろう。

 あとは、調査のための機体の選定だ。

 惑星上で活動させる自律型機体はそれぞれ特化した役割をもっているが、Ⅱ型ポッドに載せられる機体数は12体が上限だ。

 効率よく探査するためには、機体の運用を工夫しなければならないのだから、最初に送り込む機体選びは重要だ。

 知的生命体がいないのであれば、交渉不能な生命体が存在する可能性がある。それらに対処するため、戦闘能力を持つ機体は最低でも1体は必要だ。さらに、かつてあった文明レベルがある程度高かった場合、ダークマターが存在している可能性もある。

 それを考えれば、戦闘能力を持つ機体は3体は必要だろう。行動先で応急処置や補給をするため、支援機も2機は必要だ。

 文明の遺跡を発掘する際、長期にわたり放置されていた場合は地表を掘削しなければならない。その際に埋もれた遺跡を破壊しないよう掘り出す掘削機体も必要だ。最初だからまずは多めに4機あれば十分だろうか。

 残り3機のうち1機は偵察機。残りの2機は探査特化型。

 本格的な探査は掘削機体で遺跡を発見発掘後になる。地表部分のものについては2機もあれば十分だろう。

 決めた構成をAIに指示し、アバター操作室へと向かう。

 今回の場合は直接惑星に降り立っても大きな問題はなさそうだが、ダークマターの事を考えれば、破壊されるおそれがないとはいえない。

 もしもの場合はこちらから直接支援する事も出来る。降り立ちたければ安全を確保したあとでも遅くはない。

 そうして、アバター操作室でポッドが地表に到達するのを待つのだった。

 

 約4万秒後。

 Ⅱ型ポッドは無事に地表に着陸した。

 想定より時間がかかったのは、出来る限り文明の跡がありそうな場所を選定したからだ。

 大きな大陸の比較的地形の安定している個所をスキャンし、長大な建造物がある場所に着陸した。

 こちらからのエネルギー補給を試したところ、最大6機同時で1機当たりのフルチャージにおおよそ9万秒かかることが算出された。

 まずは6機ずつ9万秒交代で運用とする。

 掘削機3機と偵察機、掘削機の護衛に戦闘機1機と支援機1機の6機を編成し、ポッドから出発させた。

 掘削機は垂直に掘り進めさせ、どの程度埋もれているかを調べる。文明が滅んでからどの程度経っているかはわからないし、この惑星の活動状況もわからない。長い時間が経っていれば深く埋もれているのは当然だし、惑星の活動状況が活発であれば短い期間で深く埋もれてしまっている可能性もある。あまり深くなければ良いのだが。

 戦闘機と支援機は掘削現場付近で待機。簡易なレーダー探査では大きな生命体は確認できなかったが、稀にレーダーで探査できない生命体も存在しているのだから、油断は禁物だ。特にダークマターはかなり近づかなければ検知できないのだから。

 とはいえ、ダークマターについては、遺跡が発見されるまではそれほど注意する必要はない。やつらが現れるのは文明の跡地にほぼ限定されるからだ。

 もちろん、例外が無いわけではないから全く注意しなくても良いわけではない。

 偵察機は、まずはこの周辺一帯の地形情報を集めてもらう。この大陸はかなり大きいため、大陸全ての情報を集めるには少なくとも10回ほどの回数がかかるだろう。

 事前探査では、空中に偵察機の脅威となるような物体は確認されなかったが、もし探査中に偵察機がロストした場合は逆に都合が良い。ロスト地点に何かがある可能性が高まるからだ。

 それがダークマターだったとしても、それはそれで文明の跡が付近にある証拠ともなるし、ダークマターじゃなければ知的生命体が生き残っているという可能性も出てくる。

 何らかの痕跡でも発見できれば儲けものと思いつつ各機からの報告を待つのだった。


 2万秒後、掘削機が非自然構造物を発見した。思ったよりも浅い。

 発見したのは巨大な建物の一部のようだが、その付近に地下遺跡が発見された。

 地下遺跡は荒廃しているものの構造物自体は健在で、探査機で探査できそうだ。

 通路が健在だということは、もしかしたら埋もれていてもそれなりに原型を保った建造物などが発見できる可能性がある。

 掘削機は探査には向かないため、この通路を発見した掘削機をいったん戻し、探査機、戦闘機、支援機の3機をその通路に向かわせることにした。

 戻した掘削機はすぐにメンテナンスにまわす。

 わずかな時間だとはいえ、掘削機の状況を確認すれば、掘り進めた場所の状況が多少は確認できる。

 時間というものは非常に貴重だ。我々の元となった文明は、宇宙でもかなり進んでいた方ではあったが、ついぞ時間遡行の方法は見つからなかったのだから。

 とはいえ、そんなものが見つかっていれば、こんな遺跡探索を必要も意味もなかったのだから、現況を考えれば無くて良かった、ともいえるのかもしれない。

 とにかく、消費した時間を取り戻すことはできないのだ。少しでも節約できるに越した事はない。

 探査機を向かわせてから2万秒後。探査機から通信が入った。どうやら何かと遭遇したようだ。送られてきた映像を確認する限り、やはりダークマターと遭遇したようだ。

 ダークマターが現れたという事は、この文明の知性レベルは中程度以上だという事は確定と考えてよいだろう。

 発見したのは1体のようだが、1体しかいないという可能性はほぼない。遺跡内で戦闘をするのは避けたいが、ダークマターの性質上やむを得ない。

 ただ排除するだけならさほど難しくはないし、戦闘機のみで対処は可能だ。だが、遺跡にできる限り影響を与えないようにしようとすれば、戦闘機に細かな指示を与えなければならないため、アバター機を同行させる必要がある。

 アバター機が破壊されるおそれもあるが、遺跡が壊れる事に比べればマシなのだから。

 ダークマターが存在しているのが解った以上、その排除に向かうには万全を期す。

 地下遺跡に向かわせた戦闘機、支援機は戻り次第メンテナンスにまわし、完了後、戦闘機2機、支援機1機、アバター機で向かう。向かっている間は、掘削機で遺跡周辺の掘削を進めれば時間ロスも少なく済むだろう。

 報告から5千秒後、地下遺跡から機体が戻ってきた。各機体を確認した所、戦闘機の表面の一部が切り取られたような跡があった。断面は平面的で、まるで刃物で切られたような痕に見える。

 戦闘機の表面は、そう易々と傷つけられるようなものではない。もちろん、文明レベルが我らを超えているのであれば話しは別だが、周辺の星系に同様の自然環境の惑星はなかったし、宇宙空間に大規模な構造物やその痕跡も存在していなかった事を考えれば、この惑星の文明レベルが我々のものを大きく超えていたとは考えにくい。

 しかし、この損傷が地下遺跡で受けたものであることは間違いないのだから、ダークマターではない未知の何かがある、という可能性も考慮しておいた方が良さそうだ。状況からは考えにくいが、異文明の同業者という可能性もある。ダークマターに気を取られすぎず注意した方がいいだろう。

 戻った機体をメンテナンスに送り、それが終わるまでの間に探査機のデータを確認したところ、地下遺跡の映像からそこがどういう場所かが多少解った。

 地下遺跡は、どうやら地下通路だったもののようだ。一定区間ごとにやや広くなった場所があるのは、そこと建造物をつなぐ分岐点のようなものだった可能性がある。

 通路の床面には、金属製の棒が散らばっている。構造物の建材のように見えるが、地下通路を伝うように散らばっているため、やや文明レベルの低い場所に見られるレールウェイであった可能性が高そうだ。

 もしかしたら、ここに存在していた文明でも遺跡として扱われるようなものなのかもしれない。そうなると、広くなっている場所から構造物にたどり着けない可能性もある。

 いや、あまり可能性だけで考えても仕方ない。この上層部の掘削状況を確認すればそのあたりは判明するだろう。過去の文明を推測するのはそれを確認してからにするべきだ。

 戻った戦闘機のメンテナンスが終わったのを確認し、地下通路に向けて出発した。

 地表部は夜になったが、気温はそれほど下がってはいない。やはり大気が濃いからなのだろう。そのせいでエネルギー供給はしにくいが、環境が安定しているのは良い事だ。環境の変化が激しい場合はそれだけで機体に損傷が生じる場合があるのだから。

 掘削機の掘った縦穴から地下遺跡へと向かう。地下遺跡付近で重力操作装置を作動させ、できる限り衝撃を与えないように降り立った。

 地下遺跡は、探査機の映像でみたものよりも荒廃が進んでいるように見える。スケール感は映像よりも実物の方が広い。機体が2機ならぶと狭いように見えていたが、実際には3機は並べないが2機ならやや余裕があると言えるだろう。

 戦闘機2機を前方、後方に支援機とアバター機という編成でダークマターと遭遇した地点を目指し進み始めた。

 地下遺跡は概ね通路のようなもので、時折広い場所に出たが、どこかに繋がっていると思われる場所はほとんどが崩れ、土砂が流入してきている跡となっていた。その跡から判断すると、この惑星の知的生命体はあまり大きくないと考えられる。おそらくは重力の強さに関係しているのだろう。

 壁や床などに文字と思しきものが描かれているが、宇宙で回収したこの惑星からと思われる宇宙船から得られた文字の情報とは大きく異なっている。しかも種類もかなり多そうだ。解析させるのに必要な情報量を集めるのに難儀しそうである。

 ただ、数字と思しきものについては数字の描かれている円形の文字盤を発見したため、同じものが使われていることが確認できた。

 これはある程度進んだ文明だと良く見られる兆候だ。他の惑星でも、文化や使う文字が違っても、計算に用いる数字はどこも同じ、ということはよくあることだった。

 我らの文明では、はるか古代に母星を捨てた時に、古代の歴史については不要という理由で母星ごと破棄されたため、過去の歴史を知る術はすでに失われている。

 今、我らがこうして異文明の遺跡を探索するのは、我らの進化の歴史を探る、という目的もあるのかもしれない。

 円形の文字盤を発見した場所からさらに進み、ダークマターと遭遇した地点の付近で、動く物体の反応があった。大きさ的には、どうやらこの文明の知的生命体の想定される大きさと同程度のようだが、アバター機よりもやや小さい。

 戦闘機を前方に出し、戦闘の準備を完了させる。使用する武器は射出型のネットだ。これでダークマターを捕らえ、ネットを縮ませる事でダークマターの塊を分解し霧散後回収する。

 霧散さえ出来ればダークマターは有用なエネルギー物質だ。回収して利用できるに越したことはない。

 とはいえ、第一目的は排除だ。他の探索者の中には、ダークマターを回収しようとして反撃に遭い、調査を断念せざるをえなくなったという例もあるのだから侮る事はできない。

 どのように動くのかと注意しながら、物体の反応のあった方にじりじりと迫っていく。

 方法は不明だが戦闘機の表面を削り取ったのだ。遠距離からでもこちに攻撃をしてくる可能性は高い。

 わずかずつ進んでいくと空間が開け、複数の柱が見えてきた。おそらくはこの地下通路の空間を支える柱だろう。広くなっているという事は違う場所に続く通路に入ったのかもしれない。天井の高さも、機体の高さの2倍ほどはある。

 その時、戦闘機が反応した。迎撃態勢をとり、斜め上方に射出機を向ける。

 その方向を確認すると、こちらに向けて手足を2本ずつと頭部をもった生命体を模したダークマターが飛び込んで来た。かなりの速度だが戦闘機なら確認さえすれば行動予測で反応できる。

 しかし、思わぬ結果がもたらされた。

 戦闘機がダークマターの行動予測を行った上で射出したネットが避けられたのだ。ネットを射出した瞬間、真っ直ぐこちらに向かって突っ込んできていたのに、空中で急激に方向転換し回避したのだ。

 おおよそ慣性を無視した動きだ。これまでに得ていたこの文明を築いた知的生命体の情報からも、その動きは想定できない。

 もしかしたら、それとは別の何かを模している可能性もあるのだろうか。しかし、その特徴は宇宙船で得たものと酷似していたのだから、違う生命体とは考えにくい。

 ともかく、姿を捉え動きを確認できた。次に射程距離に入ったら確実に捕らえる。

 そう思い遠ざかったダークマターに視線を向けたとき、支援機が前に割って入った。それと同時に支援機の腕部がはじけ飛ぶ。

 腕部は脆い方ではあるが、地下遺跡に入ってから見た金属程度では傷つけられるようなものではない。それが、腕部の真ん中あたりが綺麗に切断されたのだ。もし支援機が間に入らなければ、アバター機が真っ二つにされていた可能性もある。

 すぐに支援機の情報を取得すると、柱の陰にもう1体のダークマターがおり、それがこちらに向けて何かを射出したようだ。

 しかし、それに当たり爆発したりしたのであれば理解できるが、切断されたというのはどういうことなのか。

 どれほど硬く鋭い金属で斬りつけられたとしても、こうはならない。そもそもそんなものが射出されたのであれば、それが確認できるはずだ。射出後にすぐ回収できるように紐状のものが付いていた……

 そこまで考えて、一つの可能性に行き着いた。確かにそれならば支援機の腕部を切断することも、それを利用して空中で急激な方向転換をすることも可能だ。

 単分子ワイヤー。

 単一の分子で構成された非常に細いワイヤーで、高速で振るう事によって対象物を切り裂く。それを生成し切り裂く道具として使うという研究記録は我らよりもかなり進んだ文明の跡地で発見された事があるが、結局それは作り出す方法が実現できないという理由で破棄されたものだと解った。

 記録をもとに検証したが、我らの文明でも不可能だった。それがこの文明レベルの惑星で可能となっていたとでもいうのだろうか。

 非常に考えにくいが、遅れた文明でも何かに突出した技術を持つという事は希にある。そういう可能性もあると考えて対処するべきだろう。

 幸い、それを使ったと思われるダークマターも捕捉できた。知覚できない武器を使っていたのだとしても、動きから予測すれば回避し対処することは可能だ。

 それに、相手の戦術も見えてきた。1体が陽動でこちらの体勢を崩し、後ろから本命の攻撃をしてくるという事なのだろう。

 これまでの傾向では、非常に強い単体か、もしくは多数の軍隊という事が多かったが、このように少数で連携して襲ってくるというのは初めてだ。

 こちらを侮っているのか……いや、ダークマターはそのような思考回路は持たない。あくまで知的生命体の模倣をしているに過ぎないのだ。

 それ故に、ダークマターの振る舞いを研究しようというチームもいたが、あのチームは実績をあげられているだろうか。

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

 戦術が解れば対処方法も判明する。

 支援機が攻撃を受けてから24秒後、再びこちらにダークマターが飛び込んで来た。今度はさっき飛び込んで来たのとは反対方向からだ。さっきと違いその腕部に棒状の武器らしきものを持っている。

 どのような物かはわからないが、不用意に受けるのは危険だろう。代わりは用意できるとはいえ、むざむざ機体を破壊させる事はない。

 戦闘機と支援機は牽制しつつ回避させ、アバター機をワイヤー持ちのダークマターの方へと向かわせる。正面から行ってはワイヤーの餌食になる可能性が高いから、飛び込んで来たダークマターを避けるように大回りし、真横に近い斜め方向から迫る。

 こちらの反応が意外だったのか、飛び込んで来たダークマターは迷うように頭を振り、最終的にアバター機の方へ空中で急激に方向転換し、武器を構えて飛び込んできた。

 しかし、その動きは今度は予測の範囲内だ。あらかじめ準備していた圧縮空気砲をそのダークマターに打ち込んだ。

 空気砲がダークマターに当たりその身体を構成していたダークマターの一部が霧散し、空中でその動きを止めた。

 そこへすかさず戦闘機がネットを射出してダークマターを捕らえる。そして即座にネットを絞り全体を霧散させる事に成功した。

 これであとはワイヤー持ちだけだ。

 アバター機の接近に気づいたワイヤー持ちはこちらに向けて腕部を伸ばしてきた。射出武器であれば超光速でもない限り対処できるし、ワイヤーでも解っていれば対処できる。

 ダークマターは伸ばした腕部を半秒ほど止め、次に大きく振りかぶった。

 なにも予測していなければ、その腕部の動きを予備動作と判断したかもしれない。が、それこそがこちらに仕掛けてくる動作だと判断し、腕部が動き出すのと同時に天井付近まで飛ぶことでワイヤーによる攻撃の回避に成功した。

 ワイヤー自体を視覚で捉えるのはやはり難しいが、空気の動きでワイヤーの動きは解る。

 ワイヤーは5本。おそらくダークマターの手にあたる部分の指の数が5本だからなのだろう。その先端から伸びている事も空気の動きで判明した。

 そこまで解ればもうワイヤーは脅威ではない。見えなくてもどこにありどう動かしているかが解ればその動きは予測可能なのだから。

 しかしだからといって連続での攻撃をさせる必要はない。

 ダークマターが迎撃態勢を整える前に、圧縮空気砲を天井に向けて撃ち、その反動を利用して盾を構えたままダークマターへと飛び込んだ。

 質量の差はそのまま武器となる。盾は単分子ワイヤーは防げないかも知れないが、亜光速で飛来する空間物質でも弾ける代物だ。知的生命体を模した部分に直撃すればひとたまりもあるまい。

 果たして、回避行動を取ることもできず盾に直撃したダークマターは腕部と脚部の一部を除き爆散し、残った部分もその形を保てず崩れていく。

 ワイヤーもダークマターの一部だったようで、暗い霧となって周囲に揺蕩っていた。

 戦闘機には周囲の索敵、支援機にはダークマターの回収を指示し、状況を確認する。

 こちらの被害は支援機の腕部の破損だけだ。想定外の攻撃を受けた事を考えれば、この程度の被害で済んで良かったと言うべきだろう。

 空気砲を打ち込んだ天井を確認すると、大きな穴が空いていた。地面を見ると、崩れた瓦礫が小山を作っている。

 とっさだったとはいえ、遺跡に余計な傷をつけてしまった事は悔やまれるが、元に戻せないのだからしかたない。それに、ワイヤー使いとの戦闘が長引いた方が被害は大きかっただろう。実際、柱がワイヤーによりバラバラに切り刻まれている。

 天井部分には穴も空けてしまっているし、柱が失われたことで崩れる可能性がある。支援機で応急処置し、崩れる前に資材をもちこんで補強した方が良さそうだ。

 そう考え天井の穴を見ていたとき、穴から何かが落下し、瓦礫の小山に積み重なった。

 よく見ると、それは瓦礫ではなく書物のようだ。我らの文明では遙か古代に失われたものだが、多くの文明でよく見られる記録媒体の一つなのでよく知っている。

 瓦礫の山に近づき、書物を拾い上げて開いてみると、かなり痛んではいるが文字はなんとか判別できそうだ。瓦礫の山をよく見ると、大きさはまちまちなれど、かなりの数の書物が瓦礫に混ざり埋もれている。まるで宝の山のようだ。

 これほど、元の状態に近いと思われる遺物が発見できた事は非常に幸運だ。だいたいは地中に埋もれ潰れ、痕跡から推測するしかない。書物に至っては、原型を留めていても内容が確認できない事がほとんどなのだ。この惑星の文明について知る大きな手がかりとなる事が期待できる。

 子機で回収できる範囲で書物回収して引き返し始めた。エネルギー残量に余裕のあるうちに戻った方が良い。それに書物から文字の解析解読を行うのにはかなり時間がかかることも予想される。

 少しでも早く始めた方が良いだろう。解読できれば、発掘する指針になる可能性もあるのだから。


 20万秒後。

 発掘作業を進めつつ行っていた文字の解析解読が概ね完了した。

 回収し判読できた書物は300冊。かなり多いと言っても良いだろう。しかし、回収し

た書物はそのほとんどがこの惑星の知的生命体による創作物だという事も判明した。

 解読を始めた当初は、平行世界に転移するさまざまな方法が模索され、転移先の世界の情報が書かれたものだと考えたのだが、その転移方法のどれもが生命活動の停止を条件とし、そうではないものはそもそもその方法が曖昧なものだったのだ。

 多くの書物に共通して書かれていた文言「この物語は作り物である」という一文が判明したときは大いにがっかりした。

 だが、それのおかげでダークマターの使っていた単分子ワイヤーの正体も判明した。その作り物の話の中に記載があったのだ。

 ダークマターについてはよく解っていない事も多い。そもそもなぜその惑星の知的生命体の姿を模すのかすら解っていないのだ。

 しかし、こんな空想の産物と言えるような物を模すというのはこれまでに聞いた事がない。いや、もしかしたら、この平行世界というものが実在していて、そこからこちらに転移させたという事が実際にあったのだろうか。

 円盤状の文字盤についても正体が判明した。これは時間を指し示す道具だったようだ。

 秒の単位については、我々と同様の基準だったようだ。科学力についてはそれなりに進んでいたと考えて良さそうだ。

 時間については、60秒を1分、60分を1時間、24時間を1日としていたようだ。我らの母星でも、それに近い桁上がりを採用していたらしいが、宇宙空間を移動するようになった後は、秒で統一する事となったため失われたものだ。

 1日とはこの惑星の自転の1回転を基準としたようだが、計測を行った結果、この惑星の1回転は、この文明の単位で表すと25時間32分19秒だった。かなり誤差が大きい。

 もしかしたら、この惑星の知的生命体の滅亡となにか関係しているのかもしれない。

 あと1万秒……約3時間後に沿岸の拠点が完成する。完成次第、拠点へと移動し、その先の島の調査に入る予定だ。

 島を調査する理由は、入手した書物のほとんどがその島で作られたらしいことが解ったからだ。

 偵察機から得た情報では地表部に見られる遺跡の状態がかなり悪く、地形も調査のしにくい状況のようだが、ダークマターの反応が多数見られた事から考えると、ここで発見した書物と同等のものか、それ以上のものが見つかる可能性もある。

 我らの文明でも平行世界は理論上存在しうる、というのが限界なのだ。もし平行世界の存在を証明できれば、我々の最終目的である「宇宙の終わりの回避」の方法が見つかるかもしれない。

 そのためにこうして遺跡の探索を行っているわけではないが、大きな何かを見つけたいという思いはある。

 未知のものを見つける事こそ、我ら探索者の最大の喜びなのだから。

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