世界再生

 大広間にてタローは全員に呼びかけ、箱の使い方を説明した。そしてクダリ以外の全員の願いで、世界を元通りに戻すことになった。

 大広間の中心に箱が置かれ、それを大勢の人が取り囲む。

 クダリたちは輪の外に置かれ、世界再生を見守った。

 音頭を取るのは、武術家のニッカールコ。若いながらも使命感でリーダーシップを発揮する。


「みんな! 余計なことは考えずに、いつもの生活を思い浮かべよう! こんなことになってしまう前の、穏やかで平和だった日々のことを!」


 タローとマリは並んで、ともに世界再生が無事に終わることを願った。真っすぐ人の輪を凝視するタロー、両手を組んで目を瞑るマリ。

 そして理想の箱が光を放ちはじめ……それはどんどん強く、大きくなって、大広間全体を包みこんだ。



 光の放出は数分間は続いた。光が収まった後、全ては元に戻った。

 女王のしもべたちは翼を失って普通の人間の姿に。元獣人のオオカミは縮んで中型犬ぐらいの大きさに。空は青く澄んで、太陽は西の空にある。

 世界再生が無事に終わったことを、人々はよろこび合った。

 願いを叶えた理想の箱は――まるで自らの役目を終えたかのように、輝きを失ってバラバラになっていた。

 城の正面の大扉も元に戻っていた。そして……その大扉が引き開けられて、武術家のガルニスとスターキンが突入してくる。

 広間にいた全員の注目を浴びて怯む二人に、ニッカールコが声をかけた。


「ガルニス、スターキン、無事だったのか! でも、ちょーっと遅かったな! もう終わった後だぜ!」


 二人は苦笑いして、その場に尻もちをついて座りこむ。タローたちの助けになろうと急いで駆けつけたのは徒労だったが、落胆よりも安堵が勝っていた。

 それから少し遅れて、ノーナンヤーも城に駆けつけ、ガルニスとスターキンから話を聞いて、同じく座りこんだ。


 本当に何もかも元通りになったことに、タローは徐々に不安を感じてきた。彼は隣でもらい泣きしているマリに声をかける。


「マリさん、ちょっとついてきてください」

「えっ、何?」

「嫌な予感がするんです」


 彼女は困惑しながらも、彼の後についていく。

 タローがマリを連れて向かったのは、上の階――展望室だった。

 マリは高所から元通りになった世界を見渡そうと誘いかけられたのかと、のん気なことを考えていたが、実際に展望室に出てみて、そうではなかったことを理解した。

 ――展望室の玉座には、支配の女王が腰を下ろしていたのだ。

 確かに、世界は元通りになった。女王の存在までも。

 タローが懸念していたことは、これだった。


「やっぱり……!」


 神器壊しの剣を構えるタローと、ブレスレットに手を添えるマリ。

 だが、女王は穏やかな顔で二人に優しい目を向ける。


「初めまして、私は支配の女王。この世界を統治する者。クダリ殿、よく参られた。しかし、少年よ……まずは武器を収めてはくれないか」


 警戒する二人に、女王は尚も言う。


「見たまえ、良い日和だ。武器は似合わない」


 女王からは以前の厳しさや敵意が感じられない。何かおかしいと、タローもハナも怪訝な顔になる。

 敵意の無い者に、いつまでも刃を向けることは憚られ、タローは剣を収めた。

 女王は柔和な笑みを浮かべて、タローに礼を述べる。


「ありがとう。城の中は自由に見て良いよ。それとも私に何か用なのかな?」

「いいえ……」


 女王が演技をするとも思えず、タローは困惑した。

 そんな彼にマリが横から囁く。


「タローくん、支配の女王も生まれ変わったんだよ。みんなの願いを受けて、優しい女王様に」

「……そうみたいですね」


 タローは半信半疑だったが、頷かざるを得なかった。他に説明がつかないのだ。


 長らく――何百年も女王が統治していた世界で、人々は女王のいない暮らしを想像できなかった。元から神器だった女王は、一人のクダリの願いではなく、多くの人々の願いを元に再構成されたのである。その証拠に……支配の女王を生み出したクダリの男性は、どこにも姿が見えなかった。

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