理想の箱
「理想の箱?」
タローが繰り返すと、知の神は解説をはじめる。
「創造の力を変換して、理想のものを生み出す箱だ」
「何とかしたいのは、『モノ』ではないんですが……」
「理想の箱が生み出すものは、物体だけとは限らない。世界そのものを改変することもできる」
それなら何とかなるかもしれないとタローは思うも、しかし重大な疑問が一つ。
「そんなの、どこにあるんですか?」
「私の推測では、おそらくは支配の女王が持っていたはずだ」
「いや、見た覚えがないです」
「どこかに隠したのだろう」
「その箱って、どんな見た目をしてるんですか?」
「大きさは君たちでも片手で持てる程度。正確な正六面体で、それぞれの面が違う色をしている」
箱の特徴を聞いたニッカールコは、全員に呼びかけた。
「よし、みんなで手分けして探そう! 城のどこかにあるはずだ!」
タロー以外の全員が、地下の保管庫から出て、理想の箱を探しに向かう。
一人残ったタローは、知の神に問いかけた。
「神様はこれからどうするんですか?」
「神とは何とも仰々しい……。私は神と呼ばれるほどの存在ではない。それに私にはテクデクススという名がある」
「テク、デク……? 言いにくいから、神様でいいですよ。それで今後の予定は?」
それなりに話が通じるので、彼は知の神を恐れなくなっていた。ただ外見が気持ち悪いだけで、中身は良識的なのだ。
いい加減な態度のタローに、知の神は脳についた全ての目を半開きにする。
「……まあ、よい。少し、この世界を見ようと思う。それから再び眠りにつく。この世界の者たちは、私を受け入れがたいようだからな」
「そうですか……」
淋しいことだとタローは思ったが、知の神の外貌がグロテスクであることは、否定しようがない。人間とは深く関係しない方が、双方のためだろうと割り切った。
タローと知の神は、ともに空となった地下の保管庫から出て、大広間に上がる。
その時には既に、マリが回復の杖を使って、塊となっていた女王のしもべと獣人の怪物を、まともな姿に戻した後だった。女王のしもべは翼こそ消えていないが、人型に返り、獣人は脚の長い大きなオオカミとなって本能のまま山の中へ。
今は親衛隊たちも「理想の箱」を探し出すのに協力しているが、まだ見つけられていない。
タローは知の神に問いかけた。
「神様、箱の隠し場所がどこか知りませんか?」
いくら神だからと言っても、結構な難題を吹っかけている自覚は、彼にもあった。明確な回答を期待していたわけではない。少しでも手がかりを得ようと思って、それとなく聞いてみただけ。
だが、知の神は予想外に重要な答えを返す。
「支配の女王にとっても、『理想の箱』は世界改変に必要な道具だったはずだ。隠す可能性のある場所は二つ。絶対に見つからない自信のある場所か、自らの手元」
「――となると、展望室に?」
「そうかもしれないな。女王が最後にいた場所だろう?」
二人は階段を上って、展望室へと向かった。
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