クダリたちと神器

 一行は地下室への道中、広間にて塊の怪物と再び対峙した。しかし、戦いになりはしなかった。塊の怪物もまた支配の女王から自由になって、個々の意識を取り戻していたのだ。

 悲惨な姿だった。醜く変形して、他の生き物と混合したという事実を、正気で受け止めてしまうのだから。

 獣人のような怪物は、タローを見て怯え、狂ったように吠えて、逃げようとする。一方で女王のしもべとなった元親衛隊員たちは、口々に殺してくれと懇願する。

 その奇怪さと異様さに誰もが沈黙してしまう中で、武術家のトモクロが一喝して、元親衛隊たちを落ち着かせた。


「まだ手はある! 神器を使えば、何とかなるかもしれん!」


 彼の言葉に希望を持った元親衛隊たちは、嘆きを止めて、おとなしくなった。

 一行は彼らも元に戻せる神器を見つけなければと、改めて地下室に向かう。



 地下室の扉は固く閉ざされていたが、武術家たち三人が力業でこじ開けた。以前にタローがハナと侵入した時は、手元しか分からないくらい暗くて、どこに何があるかも分からなかったが、今はメイドたちが明かりをつけてくれる。

 地下室の中では、青いクリスタルに閉じこめられた多くのクダリが、神器と並んで安置されていた。しかも、ご丁寧にキャプションボードまであり、そこに神器の説明が書いてある。だが、それは異世界の言葉なので、タローとマリには分からない。

 二人に代わって、武術家の三人とメイドたちが、使えそうな神器を探し出す。


「あったぞ!」


 そう叫んだのはジョンクだった。彼が手に取ったのは一本の杖。


「これ、使えそうじゃないか?」

「どんな効果があるんですか?」


 タローが尋ねると、ジョンクはキャプションボードに目をやって答える。


「回復の杖。『物を元の状態に戻す』……だそうだ。壊れた物を元通りにし、ケガや病気も治せる」


 そう言っているジョンク自身も、半信半疑の顔だった。


「とりあえず、物は試しだ。やってみてくれ」


 彼に杖を差し出されて、タローは困惑する。


「えっ、オレが? 誰が使っても同じでしょう?」

「いやいや、ここはクダリ様が……。オレ、神器とか使ったことないし」


 押しつけ合いのような形になったところで、マリが横から杖を取り上げた。


「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう? 私が使います」


 彼女は即座にタローに向かって、杖を振ってみた。

 タローは心身の疲労が抜けて、気力と体力が満ちていくのを感じる。


「おお、なんだか元気に……って、オレで試さないでくださいよ!」

「よしよし、効果は本物みたいだね。それじゃあ、元親衛隊の人たちを元の姿に戻しに行ってくるよ! ……これで世界も元通りになるといいんだけど」

「それは……ちょっと無理なんじゃないかって思うんですけど」

「まあ、無理だったら無理だったで。とにかく行ってくるね!」


 マリはタローに力強く告げると、元親衛隊員らを助けに、一人で上の階へと走って戻っていった。


「お、おい、待て! 一人で行くな!」


 不測の事態があってはいけないと、ジョンクとトモクロが慌てて彼女を追う。


 タローはマリと二人の武術家を見送った後、保管庫に留まって、青いクリスタルに閉じこめられたクダリたちを見つめた。

 ニッカールコが横から彼に話しかける。


「どうしたんだ?」

「……この人たちを解放してあげたいなと思って」


 神器はクダリの所有物。クリスタルに閉じこめられて、神器だけを利用されるのは本意ではないだろうと、タローは考えた。

 ニッカールコも彼の考えに反対はしない。


「良いとは思うが、その前に一つ提案がある」

「何ですか?」

「危険な神器を処分するんだ」

「ああ、なるほど。分かりました」


 クダリが全員、善人とは限らない。この世界に降臨して、最初に人を傷つける武器を求めた者は、一見おとなしくても攻撃的な性格の可能性が高い。

 タローとニッカールコは、メイドたちにも手伝ってもらい、神器壊しの剣で危険な神器を一つ一つ白い砂の塊に変えていった。

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