女王の最期

 女王は自らの主が倒れたことに、大いに動揺した。


「キサマ、何ということを!!」

「うるさい!! こんなことのために……! こんなことのために、多くの人が犠牲になったのか!」


 タローは気絶している中年男性の首元に、神器壊しの剣を突きつけて、女王に選択を迫る。


「支配の女王! こいつを殺されたくなかったら、おとなしく降伏しろ! さもないと、お前はご主人様といっしょに消えることになるぞ! お前だけが消え失せるか、ご主人様もろとも消滅するか、選べ!」


 しかし、女王は強気に突っぱねた。


「主人とは笑止千万! 私は女王であるぞ。誰にも仕えなどせぬ!」

「降伏するのか、しないのか!」

「愚問だな! 降伏なぞするものか! 私は女王であること、何者にも冒されぬ完全な支配者であること、それ自体が存在意義なのだ! 誰にも降ることはできぬ!」

「オレは本気だぞ!」

「やれるものなら、やってみせるが良い!」


 苦渋の表情を浮かべるタローに、女王は王笏を振り向けた。

 青い光線が放たれると直感したタローは、両目を閉じて……全力で神器壊しの剣を突き下ろす。声を絞り出し、張り上げて、ためらいを振り払う。


「う、ウォオオオオオッ!!」


 手応えはなかった。叫び声も聞こえなかった。

 彼がゆっくり目を開けると――中年男性は白い砂の塊となっていた。

 同時に、女王も白い砂の塊となって、ボロボロと崩れ落ちる。神器の王笏がカランと高い音を立てて、床に転がった。

 タローは剣を持ったまま、がっくりと片膝を落として、しゃがみこんだ。長い戦いが終わった。ただ「疲れた」――彼の心にあったものは、それだけだった。


 メイドたちは主を失って、一斉に正気に返る。それぞれ手にしていた槍を手放し、おろおろと落ち着きなく辺りを窺う。

 武術家たちは武器を下ろして、安堵の息をついた。

 そして……マリはタローに駆け寄る。


「タローくん、大丈夫?」

「はい。大丈夫です。ちょっと、いや……かなり疲れました」


 彼の答えを聞いたマリも、その場にぺたんと座りこんだ。張っていた気が抜けて、疲労が一気に襲ってきたのだ。


「私も……」


 二人は展望室からぼんやり外を見つめる。空は赤いままで、太陽も動いていない。狂った女王を失った世界が、これからどうなるのか、全く想像もつかない。徐々に元に戻るのか、それともずっとこのままなのか……。



 やがて武術家のニッカールコが、タローとマリに歩み寄って話しかける。


「女王を倒して、全て解決……とはいかないみたいだ」


 彼は赤いままの空を見つめて言った。

 どうしたら良いのかと、困惑するタローとマリにニッカールコは言う。


「女王が集めた神器の中に、現状を解決する手段があるかもしれない」


 その手があったかと、タローは大きく頷いた。


「城の地下室に神器が保管されているはずです」


 彼は重い体を起こして立ち上がり、マリに手を差し伸べる。

 マリは彼の手を取って立つと、小さく息をついた。


「よし、行こう!」


 マリのかけ声で、一行はメイドたちを連れて、城の地下室へと向かう。

 その前に一人のメイドがニッカールコに呼びかけた。


「あのっ! これは……どうしましょう?」


 彼女がニッカールコに差し出したのは、女王の持っていた杖。振るえば、人の動きを止める青い光線を放つ。

 ニッカールコは難しい顔をした後に、こう言った。


「私が預かっていよう」

「お願いします」


 彼はメイドから大きな杖を受け取る。人間が持つには少し大きいが、槍使いの彼には扱い慣れている長さ。

 まだ城の中に敵対する意思を持った者が残っているかもしれない。その時には杖が使えるだろうと、彼は考えていた。

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