決戦、そして……

神器「支配の女王」

 果たして……展望室には支配の女王がいた。巨大な玉座に腰かけて、周りに何十人ものメイドたちを侍らせている。

 それとは別に、また何十人ものメイドたちが人間の盾となって、青いクリスタルを守っていた。その中には、やせ身の中年男性が閉じこめられている。彼が支配の女王を生み出した人間。


 タローたちが展望室に上がっても、女王は変わらず外を見つめている。不気味な赤に染まって動かない空を。

 女王に代わって、メイドたちが長槍を構え、一行を警戒した。女王のしもべや怪物たちとは違い、どう見ても普通の人間。

 タローたちが身構えると、ようやく女王は立ち上がって、一行を見下ろす。


「お前たちは何ゆえ私に逆らうのか? お前たちだけで、この世界を治めてゆくことができるとでも思っているのか?」


 女王の言葉に反論したのは、ジョンクだった。


「人間を皆殺しにしようとしているくせに、何が『治める』だ!」

「これは必要な痛みなのだ。この世界をより安全にするために、私の統治をより完全なものにするために。クダリなど不要、人間は私に従順な生き物へと造り変える必要がある」

「ふざけるな!!」


 彼の叫びに、全員が同意した。

 ニッカールコとトモクロも続ける。


「お前にそんな権利はない!」

「どうして今までの暮らしではいけなかったんだ!?」


 女王は嘆息して、あきれた声で言う。


「クダリは危険な存在なのだよ。いつ、どのような野心を持った者が現れるか、それがどんな神器を持つかも分からない。今も……」


 女王はタローを一瞥した。

 タローは敵意をもって、正面から女王をにらみ返す。


「そして、クダリに与する愚かなレジスタンスどもまで」


 次に女王はマリに視線をやる。

 彼女の神器であったトウキが、レジスタンスのリーダーとなって人々を惑わしたのだと、暗に女王は責めていた。

 マリは怯み、ブレンスレットに手を添える。

 タローはマリを庇い、女王に食ってかかった。


「それはお前の統治が悪いからじゃないか! 自分の無能さを棚に上げて、反対する人たちを処分していたらキリがないぞ!」


 マリも自らの口で女王に反論した。


「トウキは……トウキは、あなたの本質を見抜いていた! 人のことを何とも思っていないことも、最初から私を処分するつもりだったことも!」

「私は女王だぞ。この世界のものは、全て私の管理下にある。役立たずのクダリどもを処分して何が悪い。この世界にとっては、しょせん異物」


 タローとマリは同時に叫ぶ。


「お前も異物だろう!」

「あなたも異物でしょうに!」


 女王は険しい顔をして、冷淡に言い放つ。


「何を言っても通じないか……。話すだけ時間のムダだったな」


 そして右手を一行に差し向けた。それに応じて、メイドたちが前進してくる。

 タローは動揺した。相手は怪物ではなく、生身の人間だ。女王に精神を支配されているだけ。彼女らを剣で斬り殺すことには抵抗があった。


「卑怯な!」


 悔しさを滲ませるタローに、ニッカールコが言う。


「メイドの相手は私たちに任せてくれ。君は女王を!」


 三人の武術家は、メイドたちに向かっていった。

 戦闘に関する訓練を受けていないメイドたちと、熟練の武術家では、実力に天地の差がある。数の力で差を埋めることもできない。武術家たちはメイドを一人ずつ気絶させて、行動不能に追いこんでいく。

 その間に、タローとマリは女王へと向かう。

 ここでも女王はメイドたちを盾にして、タローに攻撃を躊躇させた。


「弱い者を盾にするなんて、女王のやることか!」

「対神器の武器を持ち出した、お前が悪いのだよ」


 女王はタローを嘲笑いながら、王笏を振るって、その先から青白い光線を放った。以前にタローとハナの動きを封じたビームだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る