突入
また一人を見捨てて、その上で活路を見出さなければならない。「助ける」という行動を起こす間もなかったガルニスやスターキン、ノーナンヤーの時とは違い、今度は意図的にトモクロを無視する必要がある。絶望的な困難の中、苦々しい表情のマリを見て、タローは塊の怪物を斬り伏せながら、必死に知恵を働かせた。
トモクロを助けたい。女王も倒さなければならない。
彼は神器壊しの剣を意識して、強く握り締める。困難を解決する鍵は、必ずこの剣にあると信じて。
――そして彼は閃いた。
「待ってください! もしかしたら、トモクロさんを助けられるかもしれません!」
「そんな暇はないんだ!」
ジョンクとニッカールコは同時にタローを叱咤した。
しかし、タローの心は変わらない。
「オレはやります! 見ててください!」
彼は神器壊しの剣を穴の中のトモクロに向かって放り投げる。
「何をする!? やめろ!!」
慌ててニッカールコは止めたが、もう遅かった。タローが投擲した剣は、塊の怪物を切り裂きながら、トモクロの側に突き立つ。
「トモクロさん、剣を取って! 絶対に放さないでくださいよ!」
トモクロは困惑しながらも、両手の短刀を納めて、剣の柄を掴んだ。ぐっと重い手応えがある。神器壊しの剣も多くの神器の例に漏れず、持ち主にしか扱えないのだ。
これで何をしろと言うのかと困惑するトモクロだったが、タローは大声で叫ぶ。
「帰ってこいッ!!」
その瞬間、見えない力が働いて剣が浮き、トモクロを持ち上げて高速で飛翔した。驚きのあまり声も出ないトモクロを連れて、剣は塊の怪物を引き裂きながら、タローの元に戻る。
「オレって天才かも!?」
計算どおりの結果に、タローは興奮して自賛の言葉を口にした。
さらに彼は呆然としているトモクロから剣を取り上げて、城の扉に陣取っている塊の怪物に向かって投げつける。
「こいつで……どうだぁ!!」
剣は何の抵抗も受けないかのように塊の怪物を次々と裂いて、白い砂の塊に変えていく。
無敵に見えた塊の怪物は、恐れをなして体を扉の内側に引っこめる。
「おおっ!!」
ニッカールコもジョンクも、思わず感嘆の声を上げた。
「帰ってこい!」
再び剣を手元に戻したタローは、改めてマリと武術家たちに呼びかける。
「今です! 行きましょう!」
マリも武術家たちも同時に頷き、全員で開放された城の門に駆け出す。塊の怪物が行く手を塞ごうとも、タローの剣が道を開く。
五人が城内に突入した時には、塊の怪物は城の大広間の四分の一にも満たない程度に小さくなっていた。まだ巨大と言えば巨大だが、初めて遭遇した時の圧倒的な存在感は失われている。
タローが改めて剣を構えると、塊の怪物は恐怖に縮み上がり、大きな体で城の狭い通路に逃げこむ。その図体の割に、もう脅威と言える存在ではなくなっていた。
マリは無人の城内を見回して、疑問を口にする。
「女王はどこにいるんだろう? やっぱり地下?」
城の地下室には有用な神器とクダリが収められている。
しかし、タローの考えは違った。彼は城の高い天井を仰ぎ見る。
「上だ」
それは直感だった。地下室には一度侵入されている。生みの親でもあるクダリを、女王がそのままにしているとは思えない。そのクダリが死んでしまえば、女王も消えてしまうのだから、最も安全な場所――つまり自らの手元に置いておくだろう。
そうタローは推理した。それに――展望室は女王のお気に入りの場所だ。謁見の間とは別に、わざわざ玉座を設えているところからしても。
「こっちだ」
以前メイドに案内されて、城の構造を知っているタローは、自ら先頭に立って展望室への階段を上る。彼の後にマリ、トモクロ、ジョンク、ニッカールコが続く。
誰もが決戦の予感に緊張していた。
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