塊の怪物

 一行は黒い塊の怪物の異形に慄然とする。

 その体は城の扉から完全には出ていない。まるで「女王の居城」という巨大な貝殻にこもった、オウムガイのよう。


「ト、トウキ!」


 マリは伸びてくる獣の首から、全員を守るために神器でバリアを張った。

 バリアは獣の牙を押し止めるが、さらなる追撃までは止められない。


「ぬ、うぉおお!!」


 マリたちから分断されていたガルニスとスターキンは、バリアで体こそ守られてはいたが、塊の怪物に足場を崩されて崖に追いやられる。そのまま二人は、崖下に転落させられた。


「ガルニスさん!」


 タローは神器壊しの剣で塊の怪物を斬り払うが、斬った一部が白い砂の塊に変わるだけで、全体の動きを止めることまではできない。塊の怪物は複数の命が連結して、一つの意思で動いている存在なのだ。端を少し斬り落としたところで、全体に致命傷を与えることはできない。

 大質量の暴力に、一行は打つ手がなかった。

 タローは残った仲間に向かって叫ぶ。


「まともに相手してたらキリがありません! 強行突破しましょう!」

「ああ!」


 ニッカールコはマリを抱えたまま返事をする。

 タローが先陣を切って、塊の怪物を斬り捨てながら前進。その後にニッカールコ、トモクロ、ジョンクと続く。

 しかし、そう簡単にはいかなかった。

 後方から異変に気づいたジョンクが声を上げる。


「タロー、足元だ! 下から来るぞ!」

「えぇっ!?」


 眼前に迫る塊の怪物を攻撃し続けていたタローは、反応が遅れる。

 突如、彼の足元の地面が崩れて、地面の中から塊の怪物の腕が伸びた。槍を持った女王のしもべの腕だ。

 幸いマリのバリアがタローを守ったが、タローは体勢を立て直せず、陥没した地中に落ちてしまった。


「くっ、こんなことで……!」


 タローは剣を振り回して、塊の怪物を斬り続けるが、穴は深く抜け出すことは容易ではない。次々に地中から塊の怪物が襲いかかり、ゆっくり這い上る余裕がない。

 地上の仲間たちも、塊の怪物を退けられず、足止めを食らっている。

 この状況に痺れを切らしたトモクロが、意を決して捨て身の覚悟でタローのいる穴の中に飛び降りた。

 彼はタローの横に着地して呼びかける。


「タロー、オレを踏み台にしろ!」

「で、でも、そしたら……」

「オレのことは構うな! 女王を倒せ!」


 トモクロは屈んでタローに背を向ける。


「わ、わかりました」

「よし、来い!」


 タローは襲いくる塊の怪物を斬り捨てながら、隙を見て駆け出し、トモクロの肩を踏んだ。同時にトモクロは、ぐっと力をこめて屈んだ姿勢から立ち上がり、タローを上へと押し上げる。

 大跳躍でタローは穴の中から脱出できたが、トモクロは取り残されたまま……。塊の怪物の大攻勢も弱まる気配がない。


 マリを抱えたニッカールコとジョンクは、穴から飛び出したタローに駆け寄って声をかける。


「正面突破は無理だ! 他の入口を探そう」

「他って……?」

「わからん! だが、このままではジリ貧だ!」


 タローも同じ考えではあったが、マリはトモクロを気にかける。


「待って! トモクロさんが!」

「見捨てろ!」


 ジョンクに冷徹に断じられて、タローもマリも驚く。そうするしかないと分かっているつもりでも、二人の心にはためらいが残る。

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