巨城の守り
山頂までの道のりで、一行は何度も怪物からの襲撃を受けた。その度にマリが神器のブレスレットの力を使い、怪物を退けたが、彼女の精神は確実に摩耗していた。
全員を守るために、常時全方位を警戒し続けた結果……山頂に着いた時には、マリはすっかり神経過敏になっていた。
山頂の開けた場所に出ても、霧の向こうから奇襲をしかけられるのではないかと、表情を強張らせている。
そんな彼女を落ち着かせようと、スターキンが声をかける。
「もう大丈夫だ。怪物の気配はしない」
「……はい」
そう言われても、マリは周囲を警戒し続けている。女王との決戦を前に、無理やりにでも休ませなければ、倒れてしまうのではないかと、全員が彼女を心配した。
そこでジョンクが代表して提案する。
「少し、休憩しないか? 女王には万全の状態で挑みたいだろう?」
そんな暇があるのかとタローは思ったが、彼もマリの怯えたような目を見て、逸る心を抑える。
「そうですね。ガルニスさんさえ良ければ……」
「ああ」
ガルニスは嫌な顔一つ見せずに頷いた。本心では故郷が気がかりだったが、個人的な理由で無理を押すことはしなかった。
しかし、マリ本人が納得しない。
「でも、急がないと……。みんなが、ノーナンヤーさんの犠牲が――」
トモクロは彼女の言葉を遮って諫める。
「何度も言わせるな。オレたちのことは捨て石だと思えと言ったはずだ。最終的に、女王が倒せれば良いのだ。他のことは考えるな」
タローは自分にも言われている気がして、身が引き締まる思いだった。この世界の者たちが、悲壮な覚悟をしているのに、肝心の自分たちが動揺してどうするのかと。
一行は城の陰で座りこんで、休憩する。見張りには武術家たちが交替でついた。
しばらくマリは不安そうな顔をしていたが、疲労には勝てずに眠りに落ちる。
タローは彼女の寝顔を見た後、ガルニスに問いかけた。
「あれだけいた怪物どもは、どこに行ったんでしょう?」
「少なくとも近くに気配はない」
「女王のしもべも出てきませんね」
「そうだな。何度やってもムダと悟ったか」
まだ女王は何か手を隠している。それは怪物や女王のしもべが一向に姿を見せないことと、無関係ではない。
タローは神器壊しの剣に手を添えて、精神を集中させた。決戦の時は近い。どんな敵が現れようとも、怯みはしない。そう覚悟を決めた。
一行はマリが目覚めるのを静かに待った。
彼女は起きた瞬間に慌てた顔をして飛び起き、辺りを見回す。そして残った六人の無事を確認して、目に安堵の涙を浮かべた。
武術家たちは小さく笑って、彼女の緊張を解す。
「おはようさん」
「お姫様のお目覚めだ」
「今の顔は傑作だったぞ」
恥ずかしくなったマリは、真っ赤になる顔を両手で覆う。
そんな彼女の肩をガルニスが軽く叩いた。
「ちょうどいい休憩になった。さて、気合を入れて行くぞ」
一行は正面から女王の居城に入る。この期に及んで小細工は通用しない。どこから侵入しようと、女王は察知して、迎え撃ってくるだろう。
城の正面にそびえる巨大な鉄扉の前に、一行は立つ。
ガルニスとスターキンがそれぞれ左右の扉を押し開ける。扉が少しずつ開き、その隙間から城の中が見えはじめた時だった。
にわかに地響きが発生して、扉の向こうから巨大な黒い塊が、外に向かってなだれこんでくる。
「いかん!! 離れろ!!」
ガルニスとスターキンは同時に叫んで、扉の前から横に避けた。ニッカールコは、ブレスレットに手を添えたマリを連れて下がる。残りの三人も、姿勢を低くして、扉から離れる。
直後、扉をぶち破って巨大な黒い塊が現れた。
「な、なんだぁ!?」
トモクロが驚愕の声を上げる。
黒い塊には無数の顔と手と足がついている。その正体は女王のしもべと、旧参道に現れた怪物を、団子のように練り潰して、合体させた醜悪な塊。おぞましいことに、しっかり原形が残っている。
ムカデのように無数の手足を動かして這い、軟体動物のように無数の体を伸ばして襲いかかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます