旧参道の獣
それから一行は四番目のアーチにたどり着いた。
マリは三番目のアーチを潜った時点で、既に足が限界だったので、今はスターキンに担がれている。
旧参道はずっと暗い森の中で、全く風景が変わらない。番号の進むアーチだけが、一行の頼りだった。
「これで半分だ。もう半分、気合を入れていこう」
ニッカールコの発言に、一同は頷いて返す。
その時、ジョンクが真顔で急に周囲を見回しはじめた。
「どうした?」
ノーナンヤーの問いかけに、彼は真顔のままで答える。
「獣……か? 遠吠えのようなものが聞こえた」
全員が足を止めて耳を澄ます。――しかし、何も聞こえない。
「気のせいじゃないか?」
そうトモクロが言った直後、今度ははっきりと遠吠えが聞こえた。当然、タローとマリにも。距離は遠いが、確実に何かいる。
タローとマリの耳には、野犬の鳴き声に思えた。
「何の声だ?」
ガルニスの問いかけに、スターキンは険しい表情をする。
「わからない。そもそもセミ山にはシカとヤマネコぐらいしかいないはずだ」
この世界の人は野犬やオオカミを知らないのだろうかと、タローは疑問に思って声を上げた。
「オオカミとかじゃないですか?」
「いや、オオカミは大昔に駆除されて絶滅したはず」
「だったら野犬とか? そんな感じの声に聞こえましたけど」
「私はウィント市で生まれ育ったが、今日までこんな鳴き声は聞いたことがない」
「でも、実際に聞こえるんですから……。数は少なくても、実は生き残っていたとかじゃないですか?」
「そうかもしれない。とにかく慎重に行こう」
武術家たちは言葉少なになり、辺りを警戒しながら進みはじめる。
スターキンの態度を怪しんだタローは、今までを振り返って、この世界では一度も犬を見たことがないと気づいた。この世界にも昔はオオカミがいたが、今は絶滅してしまったので、犬も誕生しなかったのかもしれない。
ここは異世界。自分たちがいた世界とは違う。そう認識した彼は、また一つの可能性に気づいた。もしかしたら、この世界はとても狭い世界なのではないかと。以前に船内でガルニスに地図を見せてもらった時には、全く思いもしなかったが……。
地図上には四つの島しかなかった。ダイ島、ユニ島、ヒシテー大陸、虚無の大地。あの時のタローはガルニスの地図を、世界の一部地域を描いたものだとばかり思っていたが、もしそれが世界の全てだとしたら。
この狭い世界の全てを、支配の女王は掌握しようとしている。女王は「支配する」という目的のためだけに生み出された、悲しい神器なのだ。
ハナやトウキがパートナーの寂しさを慰めるためだけに生まれたのと同じ……。
タローは言いようのない虚しい気分になり、小さく息をついた。
一行が五番目のアーチに近づいた時、ジョンクが高い声を上げた。
「待て!」
一同は動きを止め、得物を構えて辺りを見回す。
トモクロがジョンクに問いかける。
「何か見たんだな?」
「ああ、いる」
木々が生い茂る暗闇の向こうで、人型の物が動いている。
ガサガサと落ち葉を踏み荒らし、土を蹴る音がする。
ノーナンヤーが警告した。
「数が多い。囲まれている!」
足場の悪い山の中でも素早く動ける、大柄な人型の何か……。女王のしもべは翼のせいで、山の中を俊敏に駆け回ることはできない。明らかに別の存在。
背中を向け合って円陣を組む一行の前に、最初の一体が飛び出した。
それはまるで獣人! 黒く長い体毛に覆われ、鋭い爪を持つ、狼頭の怪物!
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