険しい道のり
セミ山を登る(再)
その日の夜、一行は地下貯蔵庫で眠ることにした。ウィント市は女王の居城があるセミ山に近い。夜間に襲撃を受ける可能性を考えると、少しでも安全な地下にいた方が安心できた。
貯蔵庫は一行を受け容れても、なお十分な広さがあり、狭苦しい思いをすることはなかった。物資も今のところは不足していない。
しかし、一行の目下の問題は、どうやってセミ山を登るかということだった。この状況でロープウェイを使うわけにはいかないが、徒歩で山を登るには不案内。
まさか城が自然に山頂から生えてくるわけもなし、ロープウェイが完成するまでの期間は、誰も歩いて山を登ったはずである。
タローとマリはこの世界の地理に明るくないので、特に意見することもできずに、ただ武術家たちの話し合いを黙って聞いていた。
その時、武術家たちの話を横で聞いていた、老年の男性が遠慮がちに口を挟む。
「セミ山を登る、登山道をお探しでしょうか?」
「ええ。何か知っていますか?」
スターキンの問いかけに、老年の男性は自らの知識を語る。
「ロープウェイが開通するまでは、お城に行くのに参道を使っていたと聞きます。今も残っているかは分かりませんが、当時は参道の目印に、人が歩いてくぐれる程度のアーチが山中に置いてあったそうです」
「アーチですか……」
「はい。山の木を伐って造ったそうです。旧参道の入口はロープウェイの東側、山の斜面がなだらかな南方の山麓にあります。久しく人が通っておらず、今は立入禁止になっていますが」
「そこを通るしかないでしょう。お話、ありがとうございました」
「いいえ、お役に立てたなら何よりです」
城から丸見えのロープウェイを使うよりは、放置されて久しい旧参道を使った方が安全ということは、全員の一致した判断だった。
翌朝、一行は旧参道を目指して、馬車でウィント市を発つ。
昨晩に女王のしもべの襲撃がなかったことは幸いだったが、それが逆に不気味でもあった。セミ山を登ってくることはないと高を括っているのだろうか……。
女王の考えを知る術はない。
一行はロープウェイの地上側の乗降場を通りすぎ、旧参道の入口に着くと、そこで馬車から降りる。
順調に頂上まで行けたとしても半日はかかると目され、戻ってくるまで馬を車に繋いだままで置いていくことはできず、その場でジョンクとノーナンヤーは二頭の馬を解放した。
旧参道は木に覆われており、少なくとも上空から見つかる心配はしなくて良いが、同時に先も見通せない。それでも今は進むしかないのだ。
一行は不安を振り払い、薄暗い参道に入っていった。
旧参道では空の赤さは夕焼け程度に感じられる。勾配は急ではないが、道には木の根が張り出しているばかりか、倒木や落石が道を塞いでいることもあった。それらを乗り越えて、一行は最初のアーチにたどり着く。
アーチは半分腐っており、緑のコケが生えていた。元は立派な構えだったろうことは窺えるが、今はボロボロで触れただけでも倒れてしまいそう。
タローはアーチの側に人工的に切り出された四角い石が添えてあることに気づく。その表面には文字らしきものが刻まれている。
「ガルニスさん、これ読めますか?」
タローの呼びかけに応えて、ガルニスは石の表面を睨み、顔をしかめる。
「かなり削れているが……。『八の一』と書いてあるのは分かる」
「八の一?」
「山頂まで八つのアーチがあるということだろう。これがその一つ目。まだまだ先は長いな」
それを聞いてマリが深いため息をつく。
ガルニスは半笑いでタローとマリに言う。
「疲れたら言え。担いでいってやる」
人の世話にはならないとタローは苦笑いしたが、マリは素直に頭を下げた。
「そ、その時はお願いします……」
一行はアーチをくぐって、さらにセミ山を登る。
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