ウィント市の地下

 ウィント市の宿に入った一行は、そこで生存者と出会った。

 最初に生存者の存在に気づいたのは、武術家のトモクロ。物陰に隠れて一行の様子を窺っていた男性に、彼は呼びかける。


「そこの奴、何者だ? 出てこい!」


 男性は反射的に身を隠した後、恐る恐る姿を現す。


「あの、あなた方は何者で……」

「先に質問したのは、こちらの方だぞ」


 凄むトモクロをスターキンがなだめる。


「もしかしたら生き残りかもしれない」

「しかし……」

「私はウィントの人間だ。同じ街の者ならば、少しは話が通じるだろう」


 スターキンはウィント市では、若手武術家の期待の星として、それなりに知名度がある。武術大会に興味のない者にも、名前を知られているくらいだ。

 彼は男性に呼びかけながら近づく。


「大丈夫、落ち着いてくれ。私は武術家のスターキンだ」

「スターキン!?」


 男性は驚いた顔をした後、震える声で言った。


「本当にスターキンなのか! どうしてウィントに!?」

「まあ……いろいろあったんだが、簡単に言うと女王を倒すために戻ってきた」

「無謀だ! いくら武術家だからって……」

「無謀じゃない。私たちにはクダリ殿がいる。女王を倒す神器を持ったクダリ殿だ」

「本当か!? と、とりあえず、こっちへ」


 スターキンの話を聞いた男性は、一行を宿の倉庫に招いた。そして倉庫の床にある地下貯蔵庫への入口を開けて、中に入るように促す。


「市内の生き残りは、ここに隠れている。どうか会ってやってくれ」


 狭い地下では逃げ道がない。

 これは罠かもしれないと警戒する他の武術家たちを安心させるために、スターキンは自分から言い出す。


「私が様子を見てくる」


 彼は男性の後について、地下貯蔵庫の中へと続く階段を下りていった。

 それからしばらくして、スターキンは地下貯蔵庫から顔を出し、地上の仲間に呼びかける。


「大丈夫だ。罠の可能性はない。それなりの広さがあるし、地上よりは安全だろう」


 一行はスターキンの言葉を信じて、地下貯蔵庫に入った。


 黄色い電灯に照らされている貯蔵庫の中には、老若男女、合わせて二十人ほどが肩を寄せ合っている。

 広さには十分な余裕があるが、よく今まで無事だったなとタローは思った。

 それは他の者たちも同様で、ガルニスが最初に会った男性に問いかける。


「どうやって女王のしもべから逃れたのだ?」


 男性は得意な顔をして答える。


「あいつら、背中に羽を生やしてるせいか、狭い所に入れないみたいなんだ」

「……そうなのか」


 意外な弱点にガルニスは拍子抜けした。言われてみれば、納得はできる。狭い場所では大きな翼が邪魔になるのだ。


 それからスターキンは一行を代表して、ウィント市の生き残りに事情を説明した。

 出身地が同じということで、生き残った者たちはスターキンの語った内容を疑わずに信じる。希望を得た人々の顔には、わずかではあるが気力が戻っていた。明日への希望が人を生かすのだ。

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