絶望の中で
一行はケサロの案内で、惑わしの森に踏み入った。そこでタローとマリは、一つの予感を抱く。クス市の生き残った人たちが避難している場所は、もしかしたら……。
果たして、二人の予想は的中した。ケサロに通された先は、レジスタンスが使っていたアジトだった。
タローとマリは懐かしさと悲しさの混じった、複雑な気持ちになる。あの時は二人とも、まさかこんなことになってしまうとは思いもしていなかった。
レジスタンスのアジトにいる避難民たちは、誰も彼も疲れきった表情をしており、目にも生気が宿っていない。それは大人も子供も同じだ。
そんな避難民たちを、ケサロは広場に呼び集めて、一行を紹介する。
「みんな、聞いてくれ! 彼らが女王を打ち倒してくれるんだ!」
人々は不安と好奇の目を一行に向ける。ケサロの言葉を本気で受け止めている者は少ない。それでもケサロは熱弁を揮った。
「彼らの姿に覚えがある者もいるだろう! 武術大会に出場していた、腕利きの武術家たちだ! 彼らは女王を倒すために集い、この大陸に乗りこんだ!」
避難民たちの間で、どよめきが起こる。ガルニスたちが、武術大会に出場していた武術家というのは事実。人々は少しずつケサロの言葉を信じるようになっている。
「そして武術家だけではない! 神器を持ったクダリ様もいる! まさに彼らこそ、この世界に残された最後の希望だ!」
人々は本当に一行が女王を打ち倒せるかは半信半疑ながら、少なくとも一行が女王と戦うために集まった者たちだということは理解した。
「私たちも女王と戦う者として、彼らに協力しなければならない!」
しかし、避難民たちに女王と戦うだけの勇気はなかった。
そのことはケサロも理解している。武術の心得もない者たちが、危険な武器を持つ女王のしもべと渡り合うのは無謀だ。
彼は人々に同情的な態度を取りながら提案する。
「だが、私たちに十分な戦力があるとは言いがたい。その代わり、彼らに馬車を貸し出そうと思う! 異論のある者はいるか!」
馬車を貸すだけで良いならばと、避難民たちはケサロの提案に従った。
こうして二頭の馬と一台の馬車を借りた一行は、エトラ市を飛ばしてウィント市に向かうことにする。馬の扱いに関しては、武術家のジョンクとノーナンヤーに心得があり、新たに御者の同行を願う必要はなかった。
惑わしの森のアジトを出た一行は、馬車を飛ばしてウィント市へ。その道中、一行が女王のしもべと再び出くわすことはなかった。女王の秘蔵の神器も通用しなかったことで、戦術の見直しに時間がかかっているのだ。
夕方――と言っても、相変わらず空は赤いままで太陽も沈んでいないが――無事に一行はウィント市に着く。
ウィント市もクス市やロクソン村と同様に、ゴーストタウンと化していた。建物や道路といったインフラの被害は少ないが、住民が一人も残っていないという点まで、全く同じだった。
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