神器壊しの剣

 翌朝、一行はロクソン村を経由して、エトラ市まで移動する。無人の店舗から必要な分だけ飲食物を取り、全員そろって出発。クス市に馬車がないどころか、馬までもいなかったため、徒歩で向かう。殺されたのは人間ばかりではない。動物さえも新生の対象なのだ。

 長い距離を移動するために、マリは途中から武術家たちに交代で運ばれる。屈強な武術家たちは、女性一人を運ぶくらいは苦もなく受け入れた。

 とにかく神器を持つタローとマリだけは、守り切らなくてはならない。それは武術家たちの共通認識だった。



 ロクソン村に着いた一行は、そこで短時間の休憩を取る。

 ガルニスは歩き通しのタローを気づかった。


「タロー、疲れていないか?」

「まだ大丈夫です」

「戦いになった時に、疲れて動けないんじゃ本末転倒だ。ついでに一人運ぶくらいは何ともないから、遠慮なく言え」

「はい。でも、本当に大丈夫ですから。無理そうなら言います」


 ガルニスはタローを信用していなかった。それは視線に表れている。タローが意地を張って無理をしていることを、彼は見抜いていた。


 ロクソン村も住民は一人も残っていなかった。村中、無人の建物があるばかり。

 補給には困らないが、この調子ではエトラ市やウィント市も全滅だろうと、一行は気が重くなる。しかし、落ちこんでいる暇はない。日中にエトラ市まで移動する予定なので、ロクソン村に長居するわけにはいかないのだ。

 ムダに時間をかけていては、トーリ町を越えて、クンダ町まで女王のしもべが到達するかもしれない。そればかりかルミエ町まで攻め滅ぼされては、仮に女王を倒せたとしても復興は困難だ。



 ロクソン村を発ち、改めてエトラ市を目指した一行は、直後に東方から飛んできた女王のしもべと出くわした。出端をくじかれるような遭遇に、タローとマリは先行きが不安になる。

 しかし、女王のしもべはトーリ町を襲った時とは違い、たったの十人しかいない。あまりに少ないと怪しむ一行に、しもべたちの隊長が上空から告げる。


「女王陛下に歯向かう反逆者どもめ、貴様らがこそこそ隠れて動こうと、女王陛下は全てお見通しだ! 女王陛下は神器の使用を許可された! 絶望のうちに死ね!」


 隊長の言葉どおり、女王のしもべの内五人は、黒い槍とは異なる武器をそれぞれの手に持っている。


「かかれ!」


 隊長の命令で、神器を持った五人のしもべは、一斉に一行に襲いかかる。


 タローは五人のしもべの中で、マリを目がけて降下してくる、銀の矛を持った者に向かっていった。

 彼は二つの推測をしていた。一つは、しもべたちにとっては攻撃を防ぐマリの神器が最も厄介だろうということ。もう一つは、銀の矛はマリの神器の守りをも貫く力を持っているだろうということ。

 しかし、タローの行く手を銀の盾を持った者が阻みに入った。


「あの女を守るつもりだろうが、そうはさせんぞ! 貴様ごときの剣など、この神器で弾き折ってくれよう!」


 素直に考えれば、このしもべが持つ盾は、どんな攻撃でも防ぐ物。だが、タローは止まるわけにはいかない。しもべを盾ごと斬り伏せる。


「どけッ!!」


 女王を倒す目的で生み出された彼の剣は、神器を破壊する。対女王――それ即ち、対神器に特化した剣なのだ。

 タローの唐竹割りで女王のしもべは盾もろとも、真っ二つに割けた。しもべと神器の盾は、ともに白い砂の塊となって崩れ落ちる。

 その様子を上空から見ていた隊長は、剣の威力に驚愕する。


「あの剣は何だ!? どんな神器だというのだ!?」


 彼らには思いもよらない。神器を打ち壊すためだけの神器があるなど。タローの剣は神聖な創造の力で生み出された物を破壊するのだ。この世界に神器があると、既に知っている者だけが持てる、

 それでも盾を持ったしもべは、タローの動きを遅らせることには成功していた。

 矛を持ったしもべが、マリに迫る。彼女はブレスレットを掲げるが、果たして神器の矛の一撃を防げるか……。

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