タローの思い、マリの思い
マリはタローの横に立って、窓辺から荒廃した街を見下ろす。真っ赤に照らされたゴーストタウンは、不気味を通り越して、恐怖を感じる。こんな景色を凝視して、何を考えていたのだろうかと、マリは直接タローに尋ねてみた。
「いろいろって、何を考えてたの?」
「いろいろ……です。ルミエとかクンダの人たち……」
「親しい人とか、できたの?」
「いや、そういうわけじゃないですけど……」
彼女に指摘されて、タローは初めて気づく。彼がルミエやクンダ、トーリの町並みを思い返す時、そこには必ずハナがいた。彼が本当に考えていたのは、いなくなってしまったハナのことだった。
本心をマリに見透かされているように感じたタローは、ここで自分の思いを正直に話すことにする。
「本当はハナのことを考えてたんです。オレの隣には、いつもハナがいて。ずっと、助けられてたんだなって。こういう時にもハナがいたらなって、考えてしまって」
マリは同情して深く頷いた。
「わかるよ。私もトウキがいてくれたらなーって」
それから沈黙が訪れる。タローは窓の外を見つめたまま。
マリは自分から口を開いた。
「寂しいけど、どうしようもない。私はハナさんの代わりにはなれないし、あなたもトウキの代わりにはなれない。でも、助け合うことはできるよね」
「助け合う?」
「あなたも、みんなも、私とトウキが守るから。あなたは目の前の敵を倒すことだけを考えて」
「はい」
「私の方がお姉さんなんだから! もっと頼って、頼って!」
マリはトウキの喪失から完全に立ち直っていた。
それなのに自分が弱気になっていてはいけないと、タローは奮起する。
「じゃあ、頼らせてもらいます。マリさん、背中は任せました」
「はい、任されました!」
「ありがとうございます。少しナーバスになってたんですけど、マリさんのおかげで元気が出ました。あの、それで……そろそろ寝ようと思うんですけど」
「あぁ、いっしょに寝てあげよっか?」
突然の提案にタローは目を白黒させ、そういうつもりで言ったんじゃないのにと、即座に断ろうとして……少し考えた。
「い、いいんですか?」
「いいのよ?」
マリのからかい声に、タローは困惑しながら言う。
「それじゃあ、隣のベッドを使ってください」
「いっしょのベッドじゃなくていいの?」
「いや、それはさすがに」
「フフ、冗談、冗談」
マリはタローから遠い方のベッドに寝転がった。実は彼女も、一人だけで寝るのは寂しかった。
この状況にタローはハナが隣のベッドで寝ていた時のことを思い出して、感傷的な気分になると同時に、マリを守ってほしいというトウキの言葉を思い出す。
守られているのは自分の方なのにと、彼は申しわけない気持ちになるのだった。
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